くらえ、くにゃくにゃポーション
リディアは地図を片手に、卵を抱えながら慎重に次の階層へと進んでいた。
広がる暗い通路に響くのは、彼女の足音と、たまに卵に向かって話しかける声だけ。
「ねえ、卵ちゃん。君って本当にカラフルでかわいいよね~」
リディアは卵を軽く撫でながら言った。
「この先にドラゴンの皮があるっていうけど、君のお友達なのかな?それとも無関係?
ま、どっちでもいいか!」
少し暗い空間も、リディアにかかればその無邪気な声でどこか明るくなる。
だがその時、通路の先から奇妙な音が聞こえてきた。
ガシャガシャと甲高い金属音が近づいてくる。
「わっ、これは魔物の気配かも!」
リディアはバッグからポーションを取り出し、すぐに構えた。
現れたのは鋭い爪と鎧のような体を持つ、カニに似た魔物だ。
「きゃー、強そうじゃない!
でもね、私、新しいポーションを試してみたかったんだよね!」
リディアは卵を慎重に抱き直し、ポーションの小瓶を振り上げると、カニの魔物に向かって勢いよく投げつけた。
瓶が割れ、中から飛び散った液体が魔物の体にかかると、カニの魔物は突然その場でよろけ始めた。
「くにゃくにゃポーション、成功!」
リディアは満足そうににっこり笑った。
魔物の足はたちまちタコの触手のようにくにゃくにゃと動き始め、まったく自分の体を支えられなくなってしまった。
バランスを失った魔物は、甲高い声を上げながら地面に倒れ込む。
「おお~、ほんとにくにゃくにゃになっちゃった!
卵ちゃん、見てた?これ、結構効くでしょ?」
リディアは卵に語りかけるように言いながら、倒れた魔物の横を軽やかに通り抜けた。
倒れた魔物はしばらくの間、くにゃくにゃと不格好に足を動かしていたが、ついに力尽きてその場で動かなくなった。
リディアは振り返り、
「うん、いい感じ!これ、売り物にできるかな?」と一人で頷いている。
その後もくにゃくにゃポーションをバッグに忍ばせ、リディアは卵と共に次々と進んでいく。
道中現れる魔物たちに「ごめんね!」と声をかけつつ、ポーションを投げては笑顔で道を切り開いていった。
「卵ちゃん、私のポーションって結構役立つよね。
騎士団には見つかりたくないけど、こういうときだけは誰かに自慢したくなっちゃうな~」
リディアはそう言いながら、また一つポーションを握りしめ、次の冒険に向かって足を進めた。
くにゃくにゃポーションの効果を確信しながら、彼女の胸はますます高鳴っていた。
岩壁の前で立ち止まったリディアは、地図を広げて首を傾げた。
「えー、ここで行き止まり?
地図さん、これ本当に合ってるの?」
彼女は壁をじっと見つめ、小さな手であちこち触り始めた。
ひんやりとした岩肌の感触を確かめながら、ふと目を細める。
「あれ?なんだかここだけ表面が違う気がする…」
リディアは鼻歌を歌いながら、小さな花を摘むような軽やかな動きで壁を叩いたり押したりする。
すると、カチリという音が鳴り、岩壁の一部がすっと奥に引っ込んだ。
「やっぱり!隠し扉だー!」
彼女は笑顔で飛び跳ねながら言った。
「こんなの、灰色の神殿での意地悪に比べたら簡単だよね!」
扉の向こうには、正規ルートとは明らかに違う雰囲気の下り階段が続いていた。
階段の石は古びていて、一段一段に苔が生えている。
ほんのり湿った空気が鼻をくすぐり、どこか重苦しい静けさが漂っていた。
「ふふん、こういう隠し通路こそ、お宝の香りがするよね!
卵ちゃん、きっと私たち運がいいんだよ!」
リディアは胸に抱えた卵をぎゅっと抱きしめると、階段を軽快に降り始めた。
その先は予想以上に暗く、リディアはポーチから小さなランタンを取り出した。
「よいしょっと、これでばっちりだね!」
ランタンの明かりが狭い通路を照らし出し、古代文字のような模様が壁一面に浮かび上がる。
「うわぁ、すごい…何て書いてあるんだろう?」
リディアは足を止めて、興味津々で壁を眺めた。
「あ、これもしかして、『気をつけろ』とか書いてあるパターンじゃない?」
冗談めかして言ったその瞬間、床がカチリと音を立てた。リディアは目を丸くして足元を見る。
「あれ、また罠かな?」
とたんに頭上から小さな石が落ちてきて、さらに天井がぐらりと揺れる音が響く。
「わあわあ、ちょっと待って!私はただ通るだけだから!」
リディアは急いで駆け出し、石が次々と落ちる通路を抜けた。
息を切らせながら振り返ると、さっきまでの道はガタガタ道になっていた。
「ふぅ、危ない危ない…でも、こういうのは慣れてるから平気だもん!」
リディアは自分に言い聞かせるように呟くと、再び階段を降り始めた。
その先には、一際大きな扉が待ち受けていた。
扉の表面には、先ほどの古代文字と同じ模様が彫られており、中央には奇妙なくぼみがあった。
「うーん、これは…鍵を探せってことかな?それとも、またなぞなぞ?」
リディアは腰に手を当てて考え込む。
「まあ、何とかなるよね!」
と笑顔を見せると、卵を抱え直して扉の前に進んだ。
「うーん、こういうのって、だいたい呪文を唱えたら開くんじゃない?」
リディアは扉を見上げながら、考え込むように頬に指を当てた。
「よし!あてずっぽうで試してみよっと!」
と自信満々に胸を張り、扉に向かって両手を広げた。
「えーっと、アブラカタブラ?…いやいや、もっとそれっぽいほうがいいかも!」
リディアはしばらく悩んだ末、「カリカリポテト、トロリとろけるチーズ!」と大きな声で唱えた。
しかし、扉は微動だにしない。
「……あれ?だめ?」
リディアは首を傾げる。
続けて、「キラキラドロップ!ふんわりカラフル!」とさらに勢いよく叫んでみたが、扉は相変わらず無反応だ。
「うーん、意外と気難しいんだねぇ」
彼女は扉をじっと見つめて考え込む。
いったん扉はあきらめて先に進むことにした。
通路の向こうからは冷たい風が流れ込んできて、奥にはさらに続く暗い通路が見えた。
リディアはランタンを高く掲げ、笑顔で言った。
「さて、次はどんな冒険が待ってるのかな?」
卵を抱え直し、リディアは意気揚々と新たな道を進み始めた。




