リディアを追って
街の門の前に立ち、騎士団の一団が深いため息をついた。
熊のような体格のハーゲンは、鎧の肩を大きく揺らしながら部下たちに指示を飛ばしている。
「まったく、なんであのポーション屋の姉ちゃんは、俺たちから逃げるんだよ!」
険しい顔つきで空を見上げるハーゲン。
周囲にいる騎士たちも疲労を隠せない様子で首を振った。
隣で腕を組んでいるのは金髪の美青年セリルだ。
彼は疲れた様子も見せず、冷静な口調で言葉を紡ぐ。
「おそらく、彼女は何か誤解しているのでしょう。
こちらが害意を持っていないことを理解させるのが先決です」
ハーゲンは眉間に皺を寄せた。
「誤解も何も、治癒ポーションの腕を借りようってだけの話だろうが!
あのスタンピードのときだって、あいつのポーションのおかげでどれだけ助かったか…」
一呼吸置いて、思い出したかのように叫んだ。
「それに、あの妙なニコニコポーションだ!
あんなもん、戦場で役に立つなんて考えたこともなかったが…
まさか魔物相手に通用するとはな!」
セリルは小さく笑みを浮かべた。
「確かに、あのポーションの発想は興味深い。
ですが、無理に引き留めようとすれば、彼女はさらに遠くへ行ってしまうだけです」
その言葉にハーゲンは不満げに唸ったが、反論はしなかった。
リディアが街を出たのは彼らが接触を試みた翌日のことだと聞いている。
キャンディ屋の店主は、あの時のリディアの様子は尋常ではなかったと言っていた。
彼女が抱えるトラウマの原因までは分からないが、逃げ出した理由は明らかだった。
「まずは、彼女が安心できる状況を作らないといけませんね」とセリルが続けた。
「目撃情報によると、彼女は街から森の方へ向かったらしい。
追跡は慎重に進めましょう」
「森か…あの辺は魔物が出やすいからな。
妙な事故が起きる前に見つけないと」
ハーゲンは険しい顔のまま部下たちを見回した。
「いいか、手荒な真似はするなよ。俺たちが怖がらせてどうする!」
「それを言うならハーゲン隊長、あなたが一番恐れられているのでは?」
とセリルが小さく肩をすくめると、周囲から小さな笑いが起こった。
「うるせえ!」
ハーゲンは照れくさそうに怒鳴ったが、その声に険しさはなく、気が緩む雰囲気が漂った。
「とにかく、探すぞ!
まずは森の入り口から手分けして行くんだ!」
騎士団は整然と動き始めた。
リディアを見つけ出し、無事を確かめることが彼らの最優先事項だった。
彼女がこのまま旅を続ければ、何か問題に巻き込まれるのは時間の問題だとハーゲンもセリルも分かっていた。
「リディア…君はどこに行くつもりなのだろうか」
とセリルは呟きながら、森の方向へ視線を向けた。




