ダンジョン
夜明け前、森に鳥たちのさえずりが響き始めた。
リディアは目を閉じたまま、ぼんやりとその音を聞いていた。
だが次の瞬間、ぐらりと体が揺れる感覚に目を見開く。
「わ、わわっ!」
太い枝に寝転がったままだったリディアは、完全にバランスを崩して木の下に落ちかけていた。
咄嗟に近くの枝を掴むも、ぶら下がる格好になってしまう。
自分の荷物と卵を落としてはいけないと焦りつつ、なんとか枝に足を引っ掛け、少しずつ体を引き上げた。
地面に無事降り立った時には、彼女はすっかり汗だくになっていた。
「ふう…もう木で寝るのはやめよう」
自分に言い聞かせるようにつぶやきながら、荷物と卵を確認する。
卵は傷一つついていない。
リディアはそれを胸に抱きしめ、ほっと息をついた。
街に戻ることができない以上、次にどうするかを考えなければならない。
リディアはポケットから例の魔法の地図を取り出し、広げてみた。
すると、新たに矢印が動き始め、次の目的地を指し示す。
そこには、「ドラゴンの皮」と記されていた。
「ドラゴンの皮か…ポーションの材料にはぴったりだし、行ってみるしかないよね」
そう決意したものの、リディアの足取りにはどこか不安がにじんでいた。
周囲に誰もいない森の静けさが、普段は明るい彼女の心を少し沈ませる。
「でも…この卵がいるし、大丈夫、大丈夫!」
自分に言い聞かせるように、卵を抱えながらぽてぽてと歩き出すリディア。
道中、魔物避けの鈴をカラカラと振ったり、鼻歌を歌って気分を紛らわせる。
「ドラゴンの皮ってどんな場所にあるんだろう?
まさか、本物のドラゴンがいるとかじゃないよね…?」
不安げに森の奥を見つめながらも、地図の矢印が指す方向へ一歩ずつ進むリディアの姿は、どこか頼りないながらも決意に満ちていた。
森を抜けたリディアの目の前に、小さな村の風景が広がった。
煙突から立ち上る煙、家畜の鳴き声、そして子どもたちの笑い声。
リディアは少し心細かった胸の内がほぐれるように感じ、自然と笑みを浮かべた。
「ふう…やっと人がいるところに着いた!」
卵をしっかり抱えながら村の中心部に向かうと、道端で花を編んでいる少女たちや市場の露店が目に入る。
村の宿にたどり着いたリディアは、受付にいたおばあさんに声をかけた。
「こんばんは!泊まれるお部屋、まだありますか?」
おばあさんはリディアをじっと見つめ、卵に目を留めた後、穏やかにうなずいた。
「若いお嬢さん、こんな辺鄙な村に珍しいね。
卵、大事そうに抱えてるけど…何か特別なものかい?」
リディアは少し戸惑いながらも微笑んだ。
「えっと…そうですね。これは…
旅のおとも、みたいなものです!」
おばあさんは少し不思議そうな顔をしたが、深くは聞かなかった。
部屋に案内されたリディアはベッドに腰を下ろし、卵を慎重に枕元に置いた。
「今日はゆっくり休んで、明日また地図の矢印に従おう」
そうつぶやきながら、リディアはすぐに眠りについた。
翌朝、村を後にしたリディアが目にしたのは、遠くそびえる険しい山だった。
地図の矢印はダンジョン、と書いてその山を指しており、近づくにつれ彼女の胸が高鳴る。
「山の中にダンジョンって…なんだか冒険って感じ!」
リディアは自分を奮い立たせるように声を上げたが、険しい山道に少しずつ疲れが見え始めた。
途中で立ち止まり、リュックから水筒を取り出すと、卵を見つめてにっこり笑った。
「これを見つけた時みたいに、また面白いものがあるかもしれないね。
ね、卵ちゃん?」
卵は当然答えることはなかったが、リディアは満足そうに甘いジュースを飲んだ。




