木の上で
扉が開いた先には薄明かりの広がる小さな部屋があり、そこにドラゴンの牙が無造作に転がっていた。
それは人間の腕ほどの大きさで、白銀に輝く硬質な表面が威厳を放っている。
その隣には、見たこともないカラフルな大きな卵が鎮座していた。
卵の表面には虹色の模様が渦巻き、まるで生きているようにほのかに光を放っている。
「わぁ、これがドラゴンの牙!大きいなぁ…魔法の地図は本当に凄い!」
リディアは目を輝かせて牙をそっと手に取った。
思った以上に重く、両手で持たなければ支えられない。
次に、彼女の視線は不思議な卵に向けられた。
近づくと、わずかに暖かい気配が感じられ、何かが中で眠っているようだった。
「うーん…ドラゴンの卵ってこんな感じかな?
でも模様が派手だし…普通の卵じゃなさそう」
リディアは卵を観察しながら、しばらく考え込んだ。
しかし、結局はその好奇心に勝てず、卵を両腕で抱きかかえた。
「これも一緒に持って帰ろう!
きっと何か役に立つはず!」
少し重さにふらつきながらも、彼女は牙と卵を大事そうに抱え、部屋の奥へと進んだ。
そこには、石でできた螺旋階段が外へと続いていた。
「ふう…やっと出口かな?」
階段を上がり始めると、次第に外の光が差し込み、森のざわめきが聞こえてくる。
リディアは卵を大事そうに抱きしめながら、無邪気に鼻歌を歌っていた。
「さあ、この卵がどんな秘密を持っているか、街に戻ったら調べてみようっと!」
一人旅の興奮に胸を弾ませながら、リディアは森の出口を目指し、再び冒険の一歩を踏み出した。
街の門をくぐり抜けたリディアは、卵を抱えたまま軽快な足取りで広場へ向かっていた。
冒険の成果を誰かに話したくてたまらない。
「アラニスー!ただいまー!」
リディアはアラニスの露店に駆け込むと、さっそく持ち帰った卵を披露した。
アラニスは目を丸くして卵を見つめたが、すぐにいつもの柔らかな笑顔を浮かべた。
「おかえりなさい、リディア。その卵…何なのかしら?」
「まだわかんないけど、きっとすごいものだと思う!ドラゴンの牙も見つけたんだよ!」
リディアは得意げに牙も取り出してみせたが、アラニスは少し困った顔をして露店の周囲を見渡した。
「リディア、落ち着いて聞いてね。
実は…騎士団の人たちがあなたを探してたのよ」
「え…?」
リディアの顔から笑顔が消え、体がこわばった。
「どうして私を…?もしかして、神殿のことがばれたの?」
過去のトラウマが一気に頭をよぎり、心臓が早鐘のように鳴り始める。
リディアは焦った様子であたりを見回し、その場から一歩、また一歩と後ずさった。
「リディア、大丈夫?きっと悪い理由じゃないと思うけど…」
アラニスがなだめようと手を伸ばしたが、リディアはすでに頭の中が混乱していて声が届かなかった。
「私、ここにいられない!
また、あんな生活には戻りたくない!」
涙目になりながらリディアはその場を飛び出した。
***
街を抜け、森の中に入ったリディアは、走ることをやめるとようやく立ち止まり、深く息をついた。
胸を押さえながら辺りを見回し、夜が迫っていることに気づく。
「どこかで休まないと…」
不安そうに森を見渡していると、大きな木が目に留まった。
その枝ぶりが、登るのにちょうどよさそうだ。
リディアは卵を大事に抱えながら、器用に木を登った。
太い枝の上に腰を下ろすと、荷物を確認し、持っていたケープを体に巻きつける。
「ふう…なんだか疲れちゃった」
夜風がひんやりと頬を撫で、静かな森の音が彼女を包む。
リディアは卵に軽く頬を寄せると、小さく笑った。
「これからどうしようかな…」
ぽつりとつぶやきながら、彼女は目を閉じた。
森の中、月明かりの下で、リディアは静かに眠りについた。




