【4章】お日さまみたいな女の子 2
ラーニャからの説明を聞いている途中、オレは突然おじさんに話しかけられた。
「なんだい、お嬢ちゃん。よその村から来た人かい?」
「え、あ。はい、まぁ……」オレは返した。
「そうかい、そうかい。じっくり見てってくれよ」露店のおじさんが言った。「うちのアクセはみんな手作りでね。ひとっつも同じもんがないのが売りさぁ」
「そ、そうなんですか。その、職人さんって感じがしますね……?」
「はっは、そうだねぇ。お嬢ちゃん、よかったら他のも見てみるかい?」
「ほかの……というと?」
「ほら、あれがウチの店だよ。ここで売ってるのは店の商品の一部だけでね」
露店のおじさんは通りの端っこにあるお店を指差した。どうやら、この露店は客寄せのためにひらいているだけらしい。
「向こうで今うちの家内が店番してるからさ、ぜひ見てってくれよ」露店のおじさんが言った。「ここにゃ持って来れないアクセサリーも向こうに山ほどあるからさ。見るだけならタダだしな。だろ?」
「そ、そですね。えっとぉ〜……」
オレは対面するおじさんからラーニャのほうに視線を移した。人形のようなくりくりおめめが可愛らしい彼女と目が合った。お人形さんこんにちは。
「せっかくだし、ちょっと見てみよっか?」
どうやら、ラーニャはオレの気持ちを察してくれたらしい。この底なしの好奇心はすでにアクセサリー屋さんに向いていた。好奇心お化けさんこんにちは。
「う、うんっ」
しぜんと顔がほころんだ。どうやら、オレは自分が思っている以上にこのアクセサリーに心惹かれていたらしい。きらきらしたものってみんな大好きだもんね。ねっ?(圧)
オレの持ち前の好奇心が顔をのぞかせた手前、露店のおじさんの誘いを断るわけにもいかず。
オレとラーニャはおじさん夫婦がやっているらしいアクセサリー屋さんに向かった。別れ際、露店のおじさんはやっぱり人の良さそうな笑顔を見せてくれた。
露店からアクセサリー屋さん本店(?)は距離的にすぐだった。
数十秒もかからないうちにオレたちはお店に着いた。お店と外とを仕切るドアのようなものはなく、店内は風が通る吹き放しの構造になっていた。
「わぁ、きれいっ……」
お店に入ってすぐ、オレは入口正面にあるネックレスに目を奪われた。
きれいな掘り模様がほどこされた銀のネックレスは、色から何からハワイアンジュエリーを彷彿とさせた。流線型のカーブを描いた模様はハワイアン柄によく似ていて、いつか旅行で行ったときの南の国のアクセサリーを思わせた。
たしか、沖縄のアクセサリーもこんな模様だった気がする。
もうずいぶん前に旅行で行ったっきりだから、記憶の中にあるイメージと実物が本当に同じかは分からないけど。
やっぱり、気候が似てると文化も似てくるのかな。ハワイと沖縄ってどっちも南国だし、どっちも果物が美味しい地域だよね。また南の島のフルーツを使ったジュース飲みたいなぁ。らいち、ここなっつ、ぱっしょんふるーつ。
オレは目の前にあるアクセサリーを見ながら、いつか行った南の島の思い出に手を伸ばした。とろぴかる。
さっき会った露店のおじさんいわく、店内にあるアクセサリーはどれも手作りらしい。あれこれも全部だれかの手で作られたアクセサリー。そう思うと1つひとつが何か大切なもののようにも思えた。
「やっぱり、ミリアも女の子だねぇ。アクセとかジュエリー好きなんでしょお?」
花が咲くような声に誘われて、オレは後ろ側に振りかえった。
オレの視線の先にいるラーニャは後ろ手に手を組んでいた。ひょっとしたら、誤って手が商品にぶつからないようにしているのかもしれない。
「えっ、あ、その……」オレは言った。「す、好きっちゃ好き、かな〜……?」
「んふふ、だと思ったぁ。いまのミリア、すっごい目ぇキラキラしてるもぉん」
「そ、そうなの、かな……」
「ね、ミリアはどのアクセサリーが好き?」ラーニャが言った。「あたしはねぇ、このオレンジっぽい宝石が付いたの。夕焼けみたいな色でキレイじゃなあい?」
「わ、きれい。ハワイの夕焼けがちょうどこんな感じだったよ」
「はわい?」
「あ、っと……まっ、前に南の島に行ったことがあってっ。そのときの夕陽に似てるなぁって……」
「へぇ、南の島に?」
「う、うん……」
「あたし行ったことないなぁ、南の島。どんな感じなの?」
「えっと、えっとぉ〜……」
オレはとたんにしどろもどろになった。うっかり向こうの世界のことを話さないように注意しながら、興味深そうにコチラの話を聞いてくれるラーニャに説明した。
あっぶな。
うっかりしてた。この世界にハワイがあるわけない。
もちろん、沖縄ものーせんきゅー(?)。そもそも、この世界に南の島っていう考えがあるのかすら分からない。
——と思ったけど、たった今ラーニャが「あたし行ったことない」って言ったばっかりだな。どうやら、この世界にも南の島らしきエリアはあるらしい。南国はどの世界にも共通する考えなのかもしれない。とろぴかる。
ようやく満足したのか、こちらの話を聞き終えたラーニャが「ふぅ〜ん」とノドを鳴らした。
「南の島のアクセサリーも、この村のと似てるんだね?」ラーニャが言った。「あたしは行ったことないけど、たまに行商の人が向こうのお話してくれるよぉ。『この村と一緒で良いところだ』って!」
「そ、そうなんだ。うん、いいところだと思うよ。気温もあったかいし……」
「そっかそっかぁ、過ごしやすそうな感じだねぇ。ね、もしかして記憶ちょっと戻った?」
「ほ、ほんのちょっとだけ。断片的な情報だけだけど……」
「そっかぁ〜。はやく戻るといーね?」
「そだね……あは、は……」
こちらの心配をしてくれるラーニャに申し訳なくて、オレは逃げるように彼女からふいっと目を逸らした。いま目を合わせると、この子にオレの心の中を覗かれそうな気がしたから。たぶん気のせい。
オレたちは再びアクセサリーを物色し始めた。ショッピング再開。
どうやら、このお店はウィンドウショッピングおっけーらしい。というか、さっきからお店の人がどこにも見当たらない。防犯だいじょうぶぅ〜?(心配)
「あ、あたしこれも好きかも〜」
ラーニャがオレの袖を引いた。オレは彼女の声と仕草に誘われるように、彼女が指差すアクセサリーに目を向けた。
ラーニャが指で指し示していたのはイヤリングだった。
オレンジがかった赤い宝石が特徴的な金のイヤリング。地金が銀色じゃないせいか、ほかのアクセサリーよりも暖かみがあるように感じた。
「きれいだね。宝石も太陽みたいに輝いてて……」
「でっしょおー?」
自分の好みが伝わって嬉しかったのか、ラーニャはいたいけな子どものように笑った。あいかわらず、彼女の笑った顔は太陽みたいに眩しかった。さんらいと。
「あたし、こういう暖色系けっこう好きなんだぁ」ラーニャが言った。「アクセだけじゃなくって、お花とかも赤系の色とか好きだしさー。ほら、あたしって赤とオレンジが似合う女じゃあん?」
「そ、そだね……」
や、知りませんけども。たしかにラーニャには暖色系がよく似合うと思うけど、多分それは自分で言うことじゃない気がするじゃあん?
オレは本音を心の奥底にしまっておくことにした。言わぬが花。
今いちど、オレはラーニャが指差したアクセサリーをまじまじと見た。このイヤリングにあしわれた赤っぽい宝石は、まるで太陽の光のようにキラキラと輝いてた。
光の当たり方が変わると色も変わるあたり、この宝石は向こうの世界のオパールに近い気がする。この世界の宝石にも遊色効果があったりするのかなぁ?
いつの間にか、オレは太陽みたいな輝きの宝石に目を奪われていた。
「きれいだね、ほんとうに。吸い込まれちゃいそうな色してる……」
オレのひとりごと(ポエム?)のような呟きは、どうやら隣にいるラーニャにも聞こえたらしい。
「んっふふ、ミリアは詩的だねぇ」ラーニャが言った。「あたし、これに似たペンダントいま付けてるよぉ。ほら、これっ」
ラーニャは自分の胸元からペンダントを取り出した。先ほどまでは服に隠れて見えなかったけれど、どうやら彼女は衣服の下にアクセサリーを身に付けていたらしい。
たしかに、これと彼女が身に付けているアクセサリーは似ていた。
とくに宝石の輝きがそっくりだった。まるで太陽の光のようにキラキラと輝く赤い宝石は、この子の明るいパーソナリティーとぴったりだった。
オレは彼女が胸元から引っ張り出したペンダントをじっと見た。
「きれいだね。この宝石の輝きともよく似てるし……」
「でっしょおー?」
「オ……わ、たし、こういう色味も意外と好きなのかも」オレは言った。「今まで青とか水色とかの寒色系ばっか見てたけど、こういうあったかい感じのカラーも結構いいよね」
「わっかるぅ〜。元気になれそうな色じゃなあい?」
「うん、わかる。お日さまみたいなね」
「そうそう〜。あたしのパーソナルカラーも赤だからさ〜」
「ラーニャによく似合うと思うよ。どっちも太陽みたいだか……」
「んん?」
「あっ」
やっべ。
「はぁーん、ほぉーん。あっそお、ふぅ〜ん?」
ラーニャの表情がみるみるうちにニヤついた笑顔に変わっていった。彼女は今までに見たことのないような満面の笑みを浮かべていた。
す、すっごい顔してるぅ。ものすっごいニヤケっぷりっ。
ら、ラーニャが見たことないようなニヤケ顔してる。これまで見たことないくらいにっこにっこの笑顔なんですけどもっ?(困惑)
「ねねっ、もっかい言ってぇ?」
「え。や、やめとく……」オレは顔を逸らした。
「えー、なんでなんでぇ。いいじゃん別にぃ〜」ラーニャが言った。「あたし、さっきのイマイチよく聞こえなかったなぁ。え、さっきミリアなんて言ったっけ?」
「な、なにも……なにも喋ってませんけども……」
「あは。それはさすがに言いすぎでしょお。じゃあ、あたしずっとひとりごと喋ってたってことぉ?」
「や、そういうわけじゃ……ごにょごにょ」
「あはは。なんかごにょごにょ言ってるぅ」
オレはしばらくラーニャのおもちゃにされた。「ねぇ〜、ねぇ〜」とせっついてくる姿は、年齢よりもずっと幼い少女の印象がした。まぁ、ラーニャのキャラクター的には合ってる気がするけども。
ラーニャの魔の手(?)から逃れたあと、オレたちは店内をぐるりと一周まわった。
「あらぁ、お客さぁん?」
とつぜん店の奥から声が聞こえてきた。ソプラノサックスを思わせるようなよく通る声だった。




