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【1章】激辛野菜の洗礼?! 2


 オレたちは洗面所に足を踏み入れた。室内にはほんの少しだけ石けんらしき匂いがただよっていた。昨晩お風呂場で嗅いだときの匂いとよく似て爽やかだった。

「この洗面所、ミリアのお部屋からそう離れてないでしょお?」ラーニャが言った。「朝起きたらすぐここ来れていいかもねぇ。あ、タオルは向こうにあるの使ってね〜」

「あ、うん。あり、がとう……」

 ラーニャはオレが取りに行くよりも早くタオルを手渡してくれた。彼女が今タオルを取ってきたところには、まっさらな白い布が山積みになっていた。

 ここのタオルはみんな同じ色なのかな。ほとんど白ばっかり。

 ひょっとしたら、この寮では同じ種類のものを使うよう統一してるのかも。白い布きれが縦に積み上がってるようすはホテルのアレみたい。ほらぁ、アレですよアレ。ね、わかるでしょお〜?(圧)

 ラーニャたちはいそいそと洗顔を始めた。オレも彼女たちの動きにならって顔を洗い始めた。

 桶に溜められた水はちょうどよく冷んやりとしていた。起き抜けの顔に水がぱしゃぱしゃと当たって気持ちいい。まだ眠たげな頭が水の冷たさでシャキっとした。

 洗面所のすぐ近くには井戸があった。おそらく、あそこから水を汲んで桶に溜めているんだろう。

 洗面所の上部には屋根が付いているため、雨の日でも濡れる心配はなさそうだった。オレの頭の上にある屋根には雨どいらしきものも備わっていた。生活の知恵が活かされた大きな屋根は水対策もばっちり。

 オレはタオルで顔を拭きながら頭上にある天井を見つめた。

 天井の木材にはところどころ模様が彫られていた。あのハワイアン柄みたいなのは何の模様だろ。なにか意味があったりするのかな?

「ミリア、どうかしたぁ?」ラーニャがたずねてきた。

「や、あれ何の模様なのかなぁって……」オレは天井を指差した。「その、前にアクセサリー屋さんでも似たようなの見た気がするなって思って」

「んっとねぇ、あれは魔除けだよぉ。『この家が悪いことになりませんよーに』って意味なの」

「魔除け……」

 オレはラーニャの話を聞きながらひとりごとのように呟いた。まるで、自分が発した言葉をそのまま自分に言い聞かせるかのように。

 天井の木材に彫られている模様には、なぜか不思議と心を惹きつけられた。

 オレはカーブを描く模様を目でたどった。流線型の先には幾何学的な模様がいくつも彫られていて、オレの記憶にある南〜中央アジアのものとよく似ていた。

 南アジア風なのに、どこかハワイアン。

 中央アジアっぽい幾何学模様が彫られている一方、南国を思わせるようなカーブを描いた模様もある。

 あの模様にはいくつもの文化が混在しているように見えた。まるで、天井という1つのキャンバスに色んなタイプの絵が描かれているかのようだった。

「あの模様めずらしい、ミリア?」今度はキリカがたずねてきた。

「そう、だね……ちょっと気になっちゃって」

「さっきの本のこともそうだけど、ミリアはもともと好奇心が強いんだね」キリカが言った。「ここで模様の鑑賞会するのもいいけど、食堂はやく行かないと朝ごはん冷めちゃうかもよ?」

「あっ。ご、ごめん。つい夢中に……」

「冗談だよ。そう急がなくっても、ご飯は逃げないから」

「そ、そっか……」

 キリカは鈴を転がすような笑い声で楽しそうに笑った。彼女には風鈴の音のように涼しげな笑い声がよく似合うと思った。

「向こうのうにょうにょっとしたはねぇ、家が丈夫に保ちますようにっていう模様だよぉ」ラーニャが言った。「真ん中に大っきなお花の模様があるんだけどね、あのお花には『守護』っていう花言葉があるの。お守りに使われるお花でもあるんだよぉ」

「あ、前にアクセサリー屋さんで見たのと似てるかも……?」

「そうそう〜。お花の種類は違うんだけど、どっちもみんなの安全を願った模様だからねぇ」

「そっか、安全を……きれいなお花だね」

「でっしょおー。ミリア、お花も好きなの?」

「わりと好き、かな。見てると癒されるっていうか……」

「わっかるぅ〜。あたしもお花だぁい好きなんだぁ」

 ラーニャは花が咲くようにからからと笑った。彼女の笑顔は向こうの世界で咲くひまわりによく似ている気がした。お日さまの光を浴びながらにこにこと咲うひまわりさん。

 アクセサリー屋さんに行ったときも思ったけど、こっちの世界にも模様に願いとか祈りを込める文化があるんだね。

 きっと、長寿や繁栄を願った模様もあるんだと思う。向こうの世界にも模様に何か意味を込める文化があるからか、こっちの世界でも同じような文化があることは少しうれしい。勝手に親近感。

 ぜんぜん関係ないけど、なんかの曲のタイトルみたいなフレーズだね。勝手に親近感。

 きっと、全米が鼻で笑うタイプのネタ的な曲だろうね。コメディアン寄りのアーティストが「それでは次の曲ですっ。『勝手に親近感』!」とか言ってそう。曲紹介の段階でもうすでに出オチ感あるね。

 や、ホントぜんっぜん関係ないけど。ってか、そもそも『勝手に親近感』ってなに?(謎)

「私は花より動物の柄とか模様のほうが好きかな。鷹とかね」キリカが言った。「お花とか草木の模様でもいいんだけど、動物のほうが私には合ってる気がして……ほら、私の服にも鷹が刺繍されてるでしょ?」

「あ、ほんとだ……」

 キリカは自分が着ている服を指差して、鷹の刺繍がほどこされていることをオレに教えてくれた。

 キリカの服には大きく翼を広げた鳥が刺繍されていた。くちばしが勇ましくつんと尖った幾何学的な形の鷹は、今にも彼女の服から飛び出して大空へ羽ばたいていきそうだった。

「キリカ、昔っから少年っぽいとこあるからね〜」ラーニャが言った。「この子が編む布ね、みぃ〜んな動物の柄とか模様なんだよぉ。お花とかは脇役なのっ」

「そういうのが好きなの、私は。かっこよくていいでしょ?」

「まあねぇ〜。キリカによぉく似合ってると思うよぉ、あたしはねっ」

「ま、たまには花の模様も縫うけどね。ごくたまにだけど」

 期せずして、洗面所で刺繍談義(?)に花が咲いた。少女たちの明るい話し声が朝の日差しに溶け出した。

 どうやら、この世界の女性たちは衣服や布地に自分で刺繍を入れるらしい。今オレが着ているこの服の柄や模様も、誰かが縫ってくれたものなんだろうか?

 オレは2人の話を聞きながら、いま自分が着ている衣服に目を向けた。この服には様々な色の糸が使われていて、全体的に華やかな仕上がりになっていた。陽の光を受けてキラキラと輝く金銀糸が目に眩しい。

 ゆとりのある服の裾を指でつまんで横に引っ張ると、シワが伸びて先ほどよりも模様がハッキリと見えた。

 円形、菱形、三角形、四角形——この服には多様な幾何学模様が刺繍されていた。服の袖のところには流線型の柄も刺繍されていることから、どうやら幾何学模様だけがモチーフなわけではないらしい。オレの視線はすでに目の前にある模様に釘付けだった。

 しぜんと、キリカたちの足は食堂のほうへと向かっていた。

 どうやら、ふたりは歩きながらもお喋りをやめるつもりはないようだった。女子のおしゃべりは蜜の味。

「ミリアの着てる服にも意味が込められてるよぉ。これは『健康成就』を願う模様だね〜」

 器用にも、ラーニャは寮の廊下を歩きながらこちらの服を指差した。いつの間にか、彼女たちの視線は少し後ろを歩くオレのほうを向いていた。

 オレはラーニャの人差し指を目でたどった。彼女の指先は胸の辺りを指し示していた。

「健康成就……これを着てる人が健康でありますように、みたいな?」

「そーそー、そういうこと〜。その模様あたしが縫ったんだけどねぇ」ラーニャが言った。「あたしね、この模様けっこう気に入ってるんだぁ。お日さまみたいに明るぅ〜い感じするでしょお?」

「そう、だね。糸のカラーも鮮やかだし、華やかな雰囲気あるかも」

「いえすいえーす、わかってるぅ〜。ミリアは物分かり良し子ちゃんだねぇ」

「ど、どうも……」

 ラーニャは満足そうにいつも通りにこにこと笑っていた。ひょっとしたら、彼女は自分の言いたいことが伝わって嬉しいのかもしれない。

 どうやら、オレは物分かり良し子ちゃんだったらしい。初耳でぇす。

 オレの理解力がうんぬんというよりは、ラーニャの比喩が的確だった気もする。たしかに、この模様にはどこか太陽を思わせるような明るさがあった。

 どうやら、この服の模様を縫ってくれたのはラーニャだったらしい。

 オレは胸元にある太陽のように明るい模様に手を触れた。どこかあたたかい……ような気がした。どこか温もりがある……ような気がした。まるで、この胸にある模様が熱を宿しているかのようだった。

 いつの間にか、オレたちは横一列で廊下を歩いていた。

 キリカとラーニャがオレの両サイドに来たことで、しぜんとサンドイッチされるような格好になった。横方向に廊下を占拠しちゃってごめんなさぁい。今は他に誰もいないから許して。

 食堂へと向かう道すがら、女子特有の横並び思考がいかんなく発揮された。されてません。

「あ、いいにお〜いっ」

 ラーニャは花の匂いを嗅ぐように鼻をすんすんと鳴らした。どうやら、彼女は廊下一帯にただよっている香ばしい匂いを嗅いでいるようだった。くんかくんか。犬。

 食堂が近づくにつれ、辺りにただよう香ばしい匂いがだんだんと強まってきた。

 香ばしさの中にみずみずしさも混じった匂いだった。オレの心のわんこもひょっこりと顔を出して、廊下にただよっている匂いを嗅ぎ分けていた。ん、これは美味しそうな匂い。

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