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【6章】いざ出発連行~っ♡ 3


 穏やかな空気を一変させたのはスィラだった。

「ってかさぁ、ミリア着替えさせたほうがよくない?」

 彼女がそう口にした直後、みんなの目つきが急に変わった。いつかどこかで見たことのあるハンターの目つきだった。

「着替え……着替えかぁ、たしかにね」

 ルイゼナがスィラの言葉に乗っかった。彼女はエモノに狙いを定める肉食動物♀のような目でコチラを見ていた。え、やだ、なに、こわい。

「んじゃあ、あたし寮母さんに報告してくるから」ラーニャが言った。「みんなでミリアの服みつくろってあげてねぇ。よろしくぅ〜」

「おっけー、任されたー」スィラが返事をした。

 ラーニャは他の子たちに向かって手を振った。なんだか、オレはお母さんに置いていかれる子どものような気持ちになった。ちょっぴり心細い。

「ミリア、また後でねぇ」

 ラーニャがこちらに手を振った。オレもまた彼女に手を振り返した。

「ま、また後で……」

 ラーニャはこちらに手を振り終えたあと、長い長い通路の向こうへと歩いていった。どうやら、この廊下をまっすぐ行った先に寮母さんの部屋があるらしい。

 オレは彼女の後ろ姿を目で見送った。

 これまで色々あったせいか、ラーニャの背中が少しだけ大きく見えた。や、物理的にって意味じゃないけどねっ?(汗)

「さ、私たちも行こっかっ」

 ひときわ元気な声をあげたのはロミだった。彼女の陽気さはラーニャと少しだけ似たところがあるような気がした。

「ねねっ、私の部屋で着替えよーよ」キリカが言った。「今ちょうど服も洗濯したばっかだしさ、この子に着せるにはちょうどよくない?」

「あ、いーじゃんいーじゃん」スィラが言った。「たしか、キリカの部屋に大っきな鏡あったよね。あれ使わせてもらっていーい?」

「もっちろん。ミリア着せ替え人形にしちゃおーよ」

「さんせーっ」スィラが同意した。

 どうやら、スィラとキリカはオレを着せ替え人形にすることで合意したらしい。本人の同意なしの着せ替え条約が今ここで結ばれた。わ、わたくしの人権はいずこっ?(汗)

 この着せ替え条約の締結にいちばん納得しているのはスィラだった。

「よぉーし、みんな行くぞぉ。出発連こーうっ!」

「おーっ」みんなの声が重なった。

 スィラはハツラツとしたようすでオレの右腕を引っ張った。ちなみに、もう片方の腕はロミにがっちりホールドされていた。

 しゅっ、出発連行……?

 聞いたことないんだけど。そんな不穏な言い回し存在してたっけ?(困惑)

「え、あっ。ちょっとっ……」

 オレは彼女たちに部屋(留置所?)に連行されながら、この姿になって初めてのお着替えに不安を感じていた。ふっしょんちぇんじ・ふぁーすとたいむ。

 オレの腕をホールドするロミは終始ごきげんそうだった。

「ねぇねぇ、ミリアってどんな服が好きー?」

「え、いや。そのぉ……」オレは言った。

「身長けっこう高いしさ、なに着ても似合いそうだよねー」ロミが言った。「あ、私お部屋にスカーフあるよ。肩までかかるくらい長めの、あれも持って来たげよっか?」

「や、首もと隠しちゃもったいないでしょー」スィラが言った。「せっかくだしさ、ペンダントとかネックレスも色んなの試してみたくなーい?」

「あー、たしかにぃ。じゃあじゃあ、私ミリアの首元担当するねっ?」

「じゃあ、私は足元担とーう。ブーツいろいろ持ってるから任せといてー?」

「はひ……」

 彼女たちの勢いに押されて、オレはまともな返事すらできなかった。情けない声が陽気な廊下に溶け出した。

 廊下を歩いてすぐキリカの部屋に着いた。

 どうやら、寮生の自室は先ほどの入口からそう遠くないらしい。ここに来る途中、室名札が掲げられた部屋がいくつかあった。

「はぁい、1名様ご案なぁ〜いっ♡」

 ロミは芝居がかった口調でオレを部屋に案内した。はぁい、1名様ご案内されまぁ〜すっ♡(ヤケクソ)

「ささっ、入って入って」

 先を行くキリカがオレを手で呼び寄せた。オレはロミとスィラにサンドイッチされながら彼女の部屋に入った。

「お、おじゃましますぅ……」

 オレの声は思ったよりずっと情けなかった。自分の声が今にも消え入りそうだったのは、きっと女子の部屋に連行されるのにまだ抵抗があるから。そうだと思いたい。

 や、そうに決まってる。うん、絶対そう(強い意志)。

 先ほどラーニャが話していたとおり、この寮は結構スペースに余裕があるようだった。キリカの部屋は思っていたよりずっと広かった。

 ひとり部屋には充分すぎるくらいの広さ。部屋の入口にはカーペットが敷いてあって、室内に入る人を鮮やかな色で出迎えていた。マットな壁には模様が特徴的な飾りものがかけられていて、この村の文化や風習が少しだけ垣間見えるような気がした。

 あの模様は……そう、あの店のアクセサリーにも彫られてた。

 きっと、この村でよく使われるパターンなんだろう。ぱっと見どれも似たような模様に見えるけど、よくよく見ると流線型のカーブが各自で違う。すごくキレイだ。

 オレは辺りをきょろきょろと見回しながら、初めての空間に踏み入ったことを実感した。とても文化的な部屋だった。

「さぁてぇ、お着替えタイムといきましょうかぁー?」

 どうやら、いちばん気合が入っているのはルイゼナのようだった。彼女はキリカと一緒に部屋の奥から衣服を引っ張り出してきた。

「お、お手柔らかにお願いしますぅ……」

 オレは腰を低くしてみんなに懇願するので精いっぱいだった。や、やるならひと思いにやってくださいまし〜?(物騒)

 いまのオレの心持ちは、まな板の上の鯉だった。

「あっはは、そんな緊張することないよー」ロミが言った。「べつに取って食おうってわけじゃないんだからさ。ただのお着替えだよ。お・き・が・えっ♡」

「そ、そだね。ただ着替えるだけ、だもんね……?」オレは言った。

「もっちろんっ。あ、鏡なきゃ着替えたあとミリアが見れないじゃーん」

 ロミは勝手知ったるようすで、壁に立てかけられていた鏡をこちらに向けた。彼女の自然な動作を見るに、ロミはもう何度もこの部屋に来たことがあるようだった。

「さ、準備おっけー。始めよっか?」

 服を引っ張り出してきたキリカのあとに続いて、ほかの子たちもなにやらいそいそと動き始めた。

「ほら、ミリア。なにボーっとしてんの?」

「えっ」オレは戸惑った。

「そのドレス脱がないと着替えらんないでしょ?」スィラが言った。「ぼーっと突っ立ってないで早く脱いで。ほぉらっ、みんな待ってるんだからぁ」

「え、と。で、でもぉ……」

「でも?」

 しぜんと目が泳いだ。オレの目は元気な魚のように部屋のあちこちを向いていた。

「その、ちょっと……みんな向こう向いてて欲しいっていうか……」

「はぁ?」キリカが言った。

 どうやら、キリカはオレの発言の意図が汲み取れなかったらしい。彼女は見るからに「ほんとうに意味がわからない」という表情をしていた。な、なぜなのですぅ。

 オレはいまだに自分が着ている服を脱げずにいた。

「ほら、さっさと脱ぐっ。女でしょ!」

 いよいよ堪りかねたのか、ルイゼナが少し大きめの声で言った。彼女の声は怒気よりも、こちらの行動を急かすようなトーンだった。

「は、はいっ」

 オレはルイゼナから言われるがままに、自分が着ている服を急いで脱ぎ始めた。そこは「男でしょ!」じゃないんだ。や、まぁ今のオレ確かに女なんだけども。

 この世界の常識がいまだに掴めない。

 女性も男性と同じくらいハキハキしてないとダメなのかな。なんか男のオレより彼女たちのほうが歯切れがいい。

 うわぁん、わかんないよぉ〜。こういうときってどうしたらいいのぉ。誰かオレにこの世界のアレコレを教えてぇ。ふえぇえ〜んっ(泣)。

 オレは自分が着ていたドレスを脱いだあと、脱ぎ終わった服をいそいそと折りたたんだ。

 人前で下着一枚になったのが恥ずかしかったのか、オレはしぜんと両腕で自分の胸と下腹部を隠した。べつに一糸まとわぬ姿で全てをさらしているわけじゃないけれど、自分ひとりだけ服を脱いだ状況が恥ずかしかったのかもしれない。

 どうやら、オレの羞恥心は自分が裸かどうかはあまり関係ないらしい。

「なぁに恥ずかしがってんのー。純情アピールはお呼びでないよ、ミリア?」

「や、べつにアピールしてるわけじゃ……」

 オレは相変わらず胸と下腹部を両手で隠していた。この手をどけるのは少しためらわれるような気がしたから。

 は、恥ずかしいっ。

 え、何これ。ひとに自分の身体みられるのってこんなに恥ずかしかったっけ?

 自分ひとりだけ半裸(?)だからかなぁ。みんなは服ちゃんと来てるのに、自分だけ丸裸(?)なシチュエーションが恥ずかしいのかもしれない。人前で服すらまともに脱げないチキンなオレ。

 やがて観念して、オレはゆっくりと腕をどかした。自分の心にまだ羞恥の気持ちが残っているような気がした。

「……」

 ようやくオレは意を決して腕をどかしたものの、みんなは特に意にも介さずといった反応だった。

「さ、まず何から着せよっかぁ」ロミが言った。

「まずはワンピースからじゃない? ほら、これ」ルイゼナが言った。「色味は若干シンプルめだけど、この服けっこう素材がいいの。これならミリアの肌に合いそうかなって」

「えぇー、ちょっと地味じゃなーい?」スィラが言った。「私はこっちのチュニックのほうがいいと思うけど……ほら、どーお?」

 スィラはオレに服を着させることなく、みんなに見えるようにチュニックを身体にあてがった。オレのもとにみんなの注目が集まっていた。

「うぅーん、ちょっと派手な気もするけど……」キリカが言った。「これくらいシンプルなほうがいいよ、ミリアには。ほら、素材の味で勝負みたいな?」

「あは、そーかも。じゃあじゃあ、こっちのネックレスは?」ロミが言った。「ほら、見て見てっ。こっちより絶対こっちの銀のネックレスのほうが良くなーい?」

「いーかも。じゃあさ、このカチューシャでぇ……ほら、どうっ?」

 ルイゼナはカチューチャでオレの前髪をまとめた。しぜんと、おでこが露出するような格好になった。デコ出しスタイル。

「いいじゃーん。かわいいよ、ミリア」キリカが言った。「ほら、自分で鏡で見てみて。さっきより印象かなり違うでしょ?」

 キリカに促されるまま、オレは鏡の前に立った。姿見に映っている女の子は、みんなの協力のおかげで装いを新たにしていた。

「……かわいい」

 オレの口から素直な感想がこぼれ出た。まるで、自分の言葉が外に出るタイミングを見計らっていたかのよう。

 言葉を発した直後、オレはすぐさま我に返った。

「あ、や、その……ふっ、服装が可愛いなってっ。わ、わたしじゃなくて……」

 オレは慌ててみんなに向かって説明(釈明?)した。今の言い方だと自分で自分を褒めるみたいに聞こえたと思ったから。ちゃんと訂正しなきゃナルシスト(笑)だと思われそうだったから。

 ところがオレの意に反して、みんなはきょとんとした顔を浮かべていた。

 一瞬の間が空いたあと、誰かがくすっと笑った。その笑い声がキッカケとなって、室内はあっという間にオレンジ色の声で満たされた。

 まるで、笑いの空気でいっぱいになった風船がパンっと弾けるかのような勢いだった。

「あっはは。べつにいーんじゃない、自分のこと褒めたって」スィラが言った。「実際すっごく可愛いよ、ミリア。カチューチャも似合ってるしさ、デコ出しも結構いけるじゃーん」

「ねー、わかるわかる。かわいいよねっ」ロミが言った。「ちょお〜っと派手かなって思ったけど、このネックレスも結構いいんじゃない?」

「うん、いいと思う。ミリアは金より銀が合うかもね」キリカが言った。

「じゃあじゃあ、次これ着てみてほしーな。私のオススメなの!」

 ルイゼナは先ほど部屋の奥から引っ張り出した服をオレの身体にあてがった。先ほどのチュニックよりも模様が豊かなワンピースだった。

 オレはみんなに言われるがままオススメされた服を着た。

 みんな楽しそうだった。この部屋に来るまで少し不安もあったけれど、どうやらなんてことはない杞憂だったらしい。

 みんなが楽しそうにしてるのが嬉しかった。こんな素性の知れないオレと過ごしてくれることが嬉しかった。だって、みんながオレを仲間として受け入れてくれてるように思えたから。

 オレはしばらくの間みんなの着せ替え人形になった。

 お着替えタイムが終わるころには少しだけ疲れていたけれど、この心地よい疲労感はどこからか充実感を連れてきてくれた。 


 どうしてか、今すぐラーニャに会いたいと思った。

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