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【6章】いざ出発連行~っ♡ 2


「あなたも災難だったみたいだね、ミリア。記憶喪失なんて……」

「え、あ。や、まぁ……はい」オレは言った。

「拾ってくれたのがラーニャで良かったよ。この子お節介焼きだからね」キリカは目線を少し下げた。「ずいぶん良さそうなドレス着てるけど……ひょっとして、あなたどっかの良いところの出だったり?」

「や、そんなことは……」

 どうやら、キリカは身なりからオレの出自を推測したらしい。たしかに言われてみれば、育ちの良い人が着てそうな服装ではある。

 こちらに助け舟を出してくれたのはラーニャだった。

「ミリアはねぇ、自分が住んでた村のことも思い出せないんだって」ラーニャが言った。「さっきまでソニヤさんのとこにいたんだけどね、占いで前の記憶のことまでは分かんなかったの。前世は人間だったらしいけどぉ」

「へぇ、村のことも……じゃあ、ご両親のこととかは?」キリカが言った。

「まだ聞いたことないけど……どーお、ミリア? なにか思い出したこととかあるぅ?」

 オレのもとに2人ぶんの視線が集まった。彼女たちは心配そうな……とても、とても心配そうな目をしていた。

「や、まだ……とくに思い出したことは……」

「そっかぁ〜……」ラーニャは落胆したような声をもらした。

 心なしか、彼女の隣に立つキリカもまた肩を落としているように見えた。オレの前にいる二人の女性の表情はお互いに似通っていた。

 ずびっ、と鼻をすする音が聞こえた。

「う、ぅ……」

 オレは鼻水をすするような音に誘われて、ラーニャからキリカのほうに目を移した。彼女がわずかに涙ぐんでいることにオレは少し驚いた。

 え、えっ?

 待って待って、オレのせいっ? オレ今はじめて会った初対面の人のこと泣かせちゃった?!(困惑)

 キリカはゆっくりとした足取りでこちらに近付いてきた。彼女は相変わらず口もとを隠すように口の周りを手で押さえていた。心なしか、先ほどより鼻水をすする音が大きくなっている気がした。

「ツラかったね、ミリアぁ。大変だったねぇっ……」

「え、えっ?」オレは焦った。

 オレはとつぜんキリカに肩を抱き寄せられた。涙ぐむ彼女の身体の震えが肩越しにこちらにも伝わってきた。

 え、なに、ちょっと、ナニゴトーっ?(混乱)

「んっとねぇ、ミリア。キリカはすっごい涙もろいんだよぉ」ラーニャが言った。「一見クールそうに見えるかもだけど、この子すぅぐ他人に共感しちゃうの。うちの寮でいちばんの泣き上戸なんだよ?」

「そ、そうなんだ……?」

 オレは戸惑いながらもなんとか返事をした。吐息とともに心の外に出ていった戸惑いが室内に溶け出した。

「歓迎するよ、ミリア。今日からここがあなたのマイホーム」

「や、マイホームでは……」オレは戸惑った。

 キリカはじゅびっと勢いよく鼻水をすすった。彼女の表情は先ほどのお澄まし顔とは似ても似つかないほど涙で濡れていた。

 な、なんか逆に申し訳ない。

 こんなにオレのために泣いてくれるなんて思いもしなかった。というか、まだ出会ってから5分も経ってないんだけどっ?

「えー、なになに。どしたのー?」

 オレの肩に手を乗せるキリカの肩越しに、向こうから誰かが歩いてくるのが見えた。彼女の肩越しに見える人影は1つや2つじゃなかった。

「どしたのどしたの、まぁたキリカ泣いてんのー?」

「あれぇ、知らない人がいるね。ラーニャのお客さーん?」

 通路の向こうからぞろぞろとたくさんの人がやって来た。寮の入口の人口密度が急速に上昇した。

「そだよー、お客さんだよぉ。今ここに連れて来たばっかなの〜」ラーニャが言った。「みんなにも紹介するねぇ。この子はミリア、あたしが丘で山菜採りしてるときに拾った記憶喪失の猫ちゃんだよぉ」

「うっそ。なになに、どゆこと?」

「え、記憶喪失ってホントなの?」

 ラーニャのもとに立て続けに質問が投げかけられた。どうやら、彼女たちは先ほどのラーニャの説明では要領を得なかったらしい。や、そりゃそうでしょって感じですけども。

「ほんとだよぉ。ラーニャちゃんウソつかないよ〜」

 ラーニャは自分がウソつきでないことをみずから主張した。まぁ、たしかにウソはついてないけども〜。

 ってか、オレいつの間にかネコ扱いされてない?

 オレを野良ネコ扱いしたラーニャは、いま来たばかりの彼女たちにこれまでの経緯を説明していた。なんだかんだ、ちゃんと説明してくれるからこの子は優しい。ほんと面倒見がいい子。

 どうやら話がひと段落したらしく、ラーニャの説明を聞いていた彼女たちの視線が一気にオレのほうに集まった。

「そっかー、大変だったね……」

 まだ名前も知らない彼女は、どうやらオレの状況を気に病んでくれているらしい。ほかの子たちも彼女と似たような表情を浮かべていた。

「私ロミっ。よろしくね、ミリア?」

「私はスィラ。この中だといちばん早起きが苦手かも」

「や、早起きの情報いま要らなくない?」彼女が言った。「あ、私はルイゼナね。どうぞゆっくりしてって、ミリア。自分の家だと思って、ね?」

 ルイゼナはとても自然な動作でこちらに向かってウインクした。この中でいちばん年上に見える彼女は、この仕草がよく似合う女性でもあった。ウインクばちこーんっ☆

「よ、よろしく……」

 オレは若干しどろもどろになりながらも、快く迎え入れてくれた彼女たちに挨拶をし返した。どうやら、この村では女性でも胸に手を当てながら会釈をするのが習わしらしい。

 右からロミ、スィラ、ルイゼナ。

 うん、ばっちり覚えた。もちろん、だいぶと涙もろいキリカのこともしっかりと。

 みんな優しいな。まだ会ってから数分も経ってないのに、彼女たちの人柄が充分に伝わってくる。みんなラーニャともそう遠くないあったかい雰囲気がある。

 こんなに風に誰かに迎えられたのはいつ振りだろう。ひょっとすると、ほとんど初めての経験かもしれない。

「ねぇねぇ、ミリアお勉強デキるって本当?」ロミが言った。

「私は正直あんまり好きじゃないんだよねー、べ・ん・きょ・お。ミリアって本読むのも好きなんでしょ?」

「あなたは頭より身体うごかしたいタイプだもんね、スィラ?」ルイゼナが言った。「って言っても、私も勉強はあんまりデキるタイプじゃないけど。そもそも、女の人で勉強得意なのって珍しくなぁい?」

 オレの正面にいる3人が各々疑問をぶつけてきた。オレは立て続けに質問を投げかけられて少し戸惑ってしまう。きゃぱおーばー。

「え、あの、えっとぉ〜……」

 オレは彼女たちからの質問を処理しきれずに、その場でおろおろすることしかできなかった。

「あっ、そぉだ。あたし寮母さんにお話してこなきゃあ」

 質問だらけの女子トークをさえぎったのはラーニャだった。彼女は今まさに何か思い出したかのような顔を浮かべていた。

「あー、ね。ミリアがウチに来たこと報告しなきゃね」スィラが言った。「寮母さんもう寮母室に戻ってると思うよ。さっき執務室のドア閉まってるの見かけたから」

「おっけー。ありがとお、スィラ〜」ラーニャが言った。

 ラーニャがスィラからこちらに視線を向け直した。まるで人形のようにくりくりしたおめめの彼女と目が合った。お人形さんこんにちは。

「んじゃあ、あたし寮母さんにミリアのこと報告してくるね?」ラーニャが言った。「たぶんだけど、ひとり部屋わり当ててもらえると思うよぉ。もし希望があるなら他の人と一緒の部屋でもいいけど〜」

「ひ、ひとり部屋のほう……が、いいかなーなんて……」オレは言った。

「ん、おっけー。じゃあ、あとはみんなに遊んでもらってて?」

「オ……わ、たしも、ラーニャと一緒に行ったほうがいいんじゃ……」

「んーん、だいじょぶだよぉ。ただ報告してくるだけだからぁ」

「そ、そっか。じゃ、じゃあ、わたし待ってるね……」

「はぁい、すぐ戻るからねぇ」

 ラーニャはオレからみんなのほうへと視線を移した。いつの間にか、スィラたちはお互いに身を寄せて戯れ合っていた。みんな仲良し。

「じゃあ、みんなミリアのことよろしくねぇ。あたしもすぐ戻るから〜」

「おっけー、任しといてー」スィラが言った。

「ねぇねぇ、ミリアが着る服の申請もしといたほーがよくなぁい?」ロミが言った。

「あ、たしかにね。今この子が着てるドレスもいいけど……」ルイゼナがこちらを見た。「丘の上にいたせいか、せっかくのドレスちょっと土で汚れちゃってるね。洗濯に出しといたほうがいんじゃない?」

 ルイゼナのあとに倣うように、ほかの子たちもオレが着ている服に目を向けた。オレも彼女たちの目の動きに合わせて、いま自分が着ている衣服に目を向けた。

 これから報告に行こうとしているラーニャもまた、アゴに手を当てながらコチラをじぃっと見ていた。

「たしかに、ちょっと汚れちゃってるかもぉ」ラーニャが言った。「服の申請も一緒に出しとこっかぁ。できるだけ動きやすいのを、ね?」

「そうしときな。この子これからウチで暮らすんだし」ルイゼナが言った。「朝は掃除も洗濯もしなきゃだし、ずっとドレスってわけにもいかないでしょ。ね、ミリア?」

「そ、そだね。動きやすい服のほうがいい、よね……?」

「と思うよ。このドレスで掃除はお嬢さま過ぎるし」

 ルイゼナはオレが着ている服の袖を指で軽くつまんだ。どうやら、彼女はオレが着ている服の肌触りを確かめているようだった。

「たしかにねぇ。この服でお掃除するのはもったいないかもー」

 ルイゼナによる服タッチにロミも加わった。なぜか女子ふたりから服を触られる展開に。オレはなす術もなく、彼女たちが満足するのをただ待っていた。

 なんか、その……この村の人みんな他人との距離が近い。

 きっと、向こうの世界とは文化が違うのかもしれない。ひとと距離を詰めるときのマナーが向こうとは違うのかもしれない。こもんせんす。

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