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【6章】いざ出発連行〜っ♡ 1


 夕暮れ。

 とっぷりと日が暮れたころ。

 オレとラーニャは彼女が暮らしている寮の前に来ていた。

 どうやら、この2階建ての建物が彼女が住む女子寮らしい。オレの目の前にある建物の窓からは灯りが漏れていて、室内から何やらワイワイと賑やかな声が聞こえてきた。

 女子寮。

 女性しか入っちゃいけない場所。お、オレが入っていいとこなのかなぁ〜……?

 今さらになって、この寮に入ることをためらってしまう。自分としては健全な抵抗感だと思うんだけど、かといって他に行く当てがあるわけでもなく。

 家なし金なしのホームレス・ボーイ(今はガール?)だから、いまのオレにはラーニャ以外に頼れる人間がひとりもいない。そもそも、彼女の助けがなかったらあの丘の上でのたれ死んでたかもしれない。や、それはちょっと言い過ぎかなぁ。実際どうなってたんだろーね?

 オレは門の前で立ち尽くしていた。まるで、自分の足がこの先に進むことを拒んでいるかのようだった。

「さ、入ろ入ろっ。もうすぐ門限になっちゃうから」ラーニャがオレの手を引いた。「うちの女子寮ね、ちょお〜っと門限には厳しいんだぁ。寮母さんが『年ごろの女が夜に出歩いちゃいけません!』って考えみたいでね?」

「そ、そうなんだ。その、健全な考えをお持ちの人なんだね……?」

「あはは、かもねぇ。だけどさぁ、たまにちょびぃ〜っと厳しすぎるかなぁって思うんだよね〜」

「んっと、門限のことが?」

「それもあるんだけどぉ、ふだんの生活態度とか消灯後の過ごし方とか!」

 ラーニャはオレの手を引きながら、ここにはいない寮母さんについて少しグチった。どうやら、この寮の寮母さんは道徳的/教育的な女性らしい。こんぷらいあんす(?)。

「あたしも前にねぇ、寮母さんに雷おとされちゃってぇ」ラーニャが言った。「ちょお〜っとお菓子たべてただけなのにさぁ、もう夜だからって言って没収されちゃったの。ひどくなぁい?」

「そ、そっか。食事にも厳しい人なんだね、その寮母さん……」

「や、寮母さんの言うことも分かるんだけどね? 夜にお菓子たべたら太っちゃうしさ〜」

「そ、そだね。それは確かに……」

 どうやら、ラーニャは寮母さんの指導が「夜にお菓子は太るからダメ!」的なことだと解釈したらしい。や、そういうことじゃない気がするけども。

 この子は解釈の仕方までポジティブだな。

 たぶんだけど、寮母さんは夜遅くに隠れてお菓子を食べるのがルール違反だって伝えたかったんだと思う。

 というか、ラーニャでも盗み食いとかするんだね。服で隠れてるから実際のところは分かんないけど、どちらかと言うとスレンダーなように見えるけど。ぱっと見ちっとも恰幅がいいようには見えない。

 むしろ、彼女のスタイルは健康的なように見えて——。

「……」

 いつの間にか彼女をジッと見ていることに気付いたオレは、なにかから逃げるように慌ててラーニャから目を逸らした。た、逮捕されちゃうっ。刑務所がちゃんこっ。禁錮47年んぅ〜!

 ラーニャの盗み食いとオレの盗み見。

 どちらの罪が重いかと言えば……おそらく、オレのほうが罪状的にマズいと思う。多分ね、たぶん。

 や、実際そこまでジロジロ見てたわけじゃないですけれども。道行くキレイな女性を目で追いかける中年男性みたいにジロジロ見てたわけじゃないから。ほんとにほんとだよ。ほ、ほんとだからぁ〜っ!(必死)

 オレは何か誤魔化すかのように、べつの話題をラーニャに振った。

「ね、ねぇ、ラーニャ。この寮って何人くらい暮らしてるの?」

「え、人数ぅ? んっとぉ、んっとねぇ〜……」ラーニャはピンと立てた人差し指を自分のアゴに当てた。「たぶんだけど、いまは25〜6人くらいだったと思うよ。べつの寮に移っていく人もちょくちょくいるから」

「べつの寮に……えと、ここ以外にもいくつか寮が?」

「あるよぉ。うちはまだ小さいほうかな〜」

「これで、小さいほう……」

 オレは今いちど目の前にある寮を見上げた。この2階建ての建物はゆうに50人くらいは住めそうなほど大きかった。

「うちの村は土地が結構あるからねぇ、寮のスペースもそこそこ広いんだぁ」ラーニャが言った。「いくつか部屋も余ってるくらいだしさ、スペースとしては少し持て余してるの。だからね、ミリアが住める部屋も全然あると思うよぉ」

「そっか……そう、そうなんだ。わた、わたしとしては助かるけど……」

「あはは、ちょうど良かったねぇ。ほかの寮はお部屋埋まっちゃってるとこもあるみたいだから」

「え、この寮は部屋余ってるのに?」

「んっとねぇ、向こうは立地がいいんだよぉ。ほら、こっちの寮は周りに何もないじゃあん?」

「まぁ、たしかに。牧歌的と言えば牧歌的だけど……」

「でしょおー?」

 オレは寮から周りの景色に目を映した。たしかにラーニャの言うとおり、寮の周りにはのどかな風景が広がっていた。『田園風景』という表現がぴったりの眺めだった。

 ここは先ほどの大通りからそう遠く離れてはいない。けっして、向こうへのアクセスが悪いわけではない。

 あの賑やかな通りから少し離れただけなのに、向こうの景色とはかなり違ってのどかだった。まるで、両者のあいだで流れている時間が違っているかのよう。

 オレは田舎に住んだことないから正直わかんないけど、うちのおばあちゃんの家がこんな感じだった気がする。

 あの時間がゆっくりと流れる感じ、まるで別の世界に来たような感じ。都会の喧騒から離れてスローな人生を送れそうな感じは、この村にただよう雰囲気ともそう遠くないように思える。

 なんか、いいな。

 こういう雰囲気いい。オレけっこう好きな感じかも。のどか。

 きっと、この村の空気がラーニャを育てたんだろう。この村のあったかさが彼女の人柄を形作ったんだろう。この独特ののどかさは優しさを養ってくれそうな気がする。

 気付けば、もう寮の入り口がオレの手の届きそうな距離にあった。

「ささ、入って入ってっ。うちの寮はミリアを歓迎しまぁ〜す」

 ラーニャは寮の代表みたいな言い方でオレを迎え入れてくれた。彼女の元気な笑顔には真昼と見紛うかのような明るさがあった。

 や、嬉しいですけれども。

 歓迎されるのは嬉しいですけれども、あなた寮生の代表さんだったので〜?

「お、おじゃまします……」

 オレはラーニャに促されるまま寮に足を踏み入れた。寮の入口にある扉は左右どちらもひらく両開き式になっていて、まるでいつでも来客を迎える準備ができているかのようだった。

 ん、なんかお花の匂いがする。いい匂い。

 あ、これか。入り口に生けたお花を置くなんてオシャレだね。こういう花瓶お金持ちの家でしか見たことない。えれがんと。

 しぜんと、オレは辺りをきょろきょろと見回してしまう。どうやら、オレの心は初めて見る光景に興味しんしんのごようす。まるで、ほかの人の家に連れてこられた飼い犬のような振る舞いだった。わんわん、わおーん。

「あは。ミリア、ひとん家に連れてこられたペットみたいだねぇ」

 オレの少し先を歩くラーニャがからからと笑った。どこにも湿度を感じさせない彼女の笑い声が室内に響きわたった。

 じっさい、彼女の言うとおりだった。ラーニャの言うことは的確だった。

 オレは初めての景色に少し戸惑ってる。寮に住んだことがないのもそうだけど、女子寮に入ったことなんて一度もない。もし過去に入ったことあったら手錠がちゃんこ。あと牢屋にもがしゃんこ。

「や、寮ってこんな感じなんだなぁって思って……」

「ミリア、今まで寮で生活したことなかったの?」ラーニャがたずねてきた。

「そ、そだね。自分の家以外のとこに住んだことない、かな……」オレは言った。「だから、なんか新鮮だなーと思って。ここでみんな一緒に暮らしてるんだなぁって思うと、なんか……」

「そっかそっかぁ。ミリアにとっては初めての経験なんだぁ〜」

「うん、はじめて。入口のお花もいい匂いするね?」

「あれは寮母さんの趣味だよぉ。あの人お花の先生だからね〜」

「そっか、お花の先生……」

 オレは先ほどのラーニャの話と今の話がつながった。ひょっとしたら、お花の先生だから門限や生活態度にも厳しいのかもしれない。

 きっと、彼女はとても責任感のある人なんだろう。

 まだ会ったこともないけれど、寮母さんの人となりがラーニャの話から想像できた。たぶん彼女は真面目な女性なのかもしれない。

 ひとを指導する立場にある人って大変だよね。馴れ馴れしくし過ぎると煙たがられるけど、かといって親しみにくいと距離を置かれる。オレも生徒会の役員やってたことあるから、ひとの上に立つ人間の気持ちが少し分かる。ほんのちょびっとだけだけど。

 オレは今ここにいない寮母さんを少しだけ身近に感じた。ぷちしんぱしー。

「あれ、ラーニャ。こっち戻ってきたんだ?」

 オレがひとり考えごとをしていると、通路の向こうからひとりの女性が顔を出した。曲がり角からこんにちは。

「あ、キリカぁ。やっほ〜」ラーニャが片手を上げた。「ねぇ聞いて聞いてっ、あたし女の子ひろってきちゃった!」

「えぇ?」

 キリカという女性はすっとんきょうな声をあげた。ラーニャの言葉が上手く飲み込めず、いぶかしがるかのような反応だった。

「話すと短いんだけどね、山菜取りのときに丘の上で記憶喪失の女の子みっけたの。行く当てないらしいから連れて来ちゃった!」

 ラーニャはこれまでの経緯を手短かに話した。そこは「話すと長いんだけどね」じゃないんだ。や、いいんだけど。

「ふぅん、この子がねぇ。記憶喪失……」

 キリカがこちらに歩み寄ってきた。オレは彼女のキリッとした鋭い目つきから、言葉で表現しがたいプレッシャーを感じた。え、なに、やだ、こわい。

 オレの前まで歩いてきたキリカは、自分の胸に手を当てながら軽く会釈をした。いつか見た挨拶だった。

「私はキリカ、ラーニャの友だちだよ。よろしくね?」

「み、ミリアです。よ、よろしく……」

 オレは見よう見まねで彼女の動きにならって挨拶し返した。このやり方で合ってるかどうかは分からなかった。とつぜんのアドリブに少し戸惑う転生少女の図。

 この世界の挨拶ってどうやるのが正しいの。誰か教えてぇ〜っ(へるぴみー!)。

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