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【5章】占い屋さんで何を視る? 1


 お昼過ぎ。

 空に浮かぶ太陽はまだ高い位置にあった。

 先ほどより少し傾いてはいるものの、いまだに太陽は空高く浮かんでいる。地上に降りそそぐ日差しが人々のシルエットを形作っていた。

 どうやら、この世界の太陽も東からのぼって西に沈むらしい。さっきラーニャが「昨日はねぇ、すっごい西陽が強かったの!」って話してたから分かった。こっちの世界のお日さまも、東からおはようございます。

 なんで西陽が話題に出たかというと、ラーニャの苦手なものランキング3位が『西陽』らしいから。

 なんで苦手なものランキングの話になったかというと、たまたま道を通りかかったおじさんがお酒臭かったから。オレもラーニャもお酒の臭いが苦手なのは一緒らしい。われわれの共通点:お酒臭いのが苦手なこと

 ラーニャは色んなことを本当によく話す。きっと、この子は他人と喋るのが好きなんだろーね。

 さっきは好きなものランキングで盛り上がった。苦手なものランキングだけだとバツが悪かったのか、ラーニャは好きなものランキングの話をしたがった。

 ネガティブな話で終わらせないのは、きっとこの子の人柄のせいだと思う。たしかに、この太陽みたいに明るい子に雨はあまり似合わない。しとしと降る雨よりさんさんと照りつける太陽のほうがよく似合う子だと思うから。

 まぁ、ラーニャの好きなものランキング4位は『雨の音』だったけど。どないやねん。

 オレとラーニャは雑談しながら大通りを歩いた。道行く人たちの表情が一様に明るいのは、きっとこの村が人間に優しい場所だからだと思った。幸せな街は幸せな人を産む——そう、きっと。

「ほら、あそこ!」

 とつぜん、ラーニャは道の先を指差した。彼女の人差し指が指し示す先を目でたどると、オレの視線の先には何やら妖しげな建物があった。

 どうやら、あの建物がくだんの占い屋さんらしい。入り口のカーテンからモンスターでも飛び出してきそうな雰囲気があった。ちょっとホラー。

「ソニヤさぁーん。いるぅ〜?」

 ラーニャは建物の雰囲気なんてお構いなしに大きな声を出した。彼女にかかればお化けもすぐに逃げ出してしまいそうだった。幽霊もぴゅっと逃げ出す元気さ。

 しばらく待っていると、お店の奥のほうからご高齢の女性が現れた。

「あぁ、ラーニャかい。今日はもう店仕舞いなんだけどねぇ……」

 お店の向こうから姿を現したおばあちゃんは、ちょっぴり面倒くさそうな声のトーンだった。ひょっとしたら、オレたちが来るまでお休み中だったのかもしれない。

「ごめんねぇ、どうしても会わせたい人がいるの。ほら、ミリアっ」

 オレはラーニャに背中を押される形で一歩前に足を踏み出した。しぜんと、占い師のおばあちゃんと対面する格好になった。

「え、あ……はっ、はじめまして。わ、たし、ミリアと言いますっ」

 オレはおばあちゃんよりも先に自分の名前を名乗った。コミュニケーションの初めは自己紹介から。

「あたしゃソニヤだよ。よろしくねぇ、ミリヤ」

「よ、よろしくお願いしますっ……」オレは右手を差し出した。

「はっは、だいぶと丁寧なお嬢さんだねぇ」ソニヤさんは握手しながら言った。「はいよ、よろしく。またずいぶん可愛らしい子を連れてきたねぇ、ラーニャ?」

「でっしょおー?」

 ラーニャはなぜか誇らしそうだった。ソニアさんとラーニャの間で微笑みのコミュニケーションが交わされた。

「今朝ねぇ、向こうの丘の上で拾ってきたの!」ラーニャが言った。「この子、記憶なくしちゃってるみたいでね。ソニアさんに見てもらおーと思って連れてきたんだぁ」

「そうかい、記憶をねぇ……」ソニアさんが言った。「そりゃあ大変だ。あんたも災難だったねぇ、ミリア?」

「あ、や……まぁ、はい……」

 オレはとたんにしどろもどになった。ソニアさんの口調は優しかったけれど、なぜかオレは彼女の目の奥に妖しさを感じた。彼女にずっと見つめられていると、心のうちを読まれそうな気がした。

 占い師、だからかな。

 たしかに、占い師って他人の心を読みそうな感じするもんね。わかんないけど。

 ひょっとしたら、こういう職業の人って観察力が優れてるのかもね。ほら、心理学者が他人の言動から相手の心を読みとるみたいにさ。ほらぁ、わかるっしょおー?(圧)

「まぁ、とりあえずイスにかけな。いま準備してくるさぁね」

 ソニヤさんはオレたちに近くのイスに座るよううながした。オレとラーニャは彼女に言われるままに木製のイスに腰かけた。ぎぃっと。

 ってか、オレ今日ずっと野良ネコ拾ってきた的な設定なんだけど。

 あながち間違ってもないから彼女に指摘もできないけど、人間を「拾ってきた」って表現するのはどうなんだろう。この不肖わてくしめ、にゃんこじゃなくてサピエンスでございますのよーっ?

 当のラーニャはイスに座りながら両足をプラプラさせていた。

 彼女の足がブランコのように交互に空中で行き来している。まるで、オレの考えていることなんて全く気にしてないかのようだった。

 や、じっさい気にしてないんだろうけども。だって、オレまだ一回もラーニャに言い咎めたりしてないし。今後も言い咎める予定は特にございませんけれどもね。言い咎めプランは今後ものーぷらん(?)。

 あ、ソニヤさん帰ってきた。

「さぁて、なにから始めようかね」

 ソニヤさんは店の奥からふろしき一式を持ってきた。彼女がテーブルの上で風呂敷を広げると、布の中から占いに使うらしいアイテムがぞろぞろと出てきた。

「ソニヤさんはねぇ、すっごいんだよぉ」ラーニャが言った。「王宮の人たちもソニヤさんの占い頼りにしてるんだから。王宮御用達の占い師さんなの!」

「えっ、すごい……」

 オレの口から素直な感想が漏れた。まさかの情報が今まさに解禁されたところだった。

「はっは、みんな年寄りの話を聞きたがるだけさぁ」ソニヤさんが言った。「べつに大したことしちゃいないよ。こうやってカードをめくって、どの絵柄が今の運勢を表すか……ほら、ごらん」

 オレはソニヤさんに言われるがまま表になったカードを見た。彼女がめくったカードには、水色の布を身にまとった美しい女性が描かれていた。

「ほぉう、こりゃ幸先いいねぇ」

「そ、そうなんですか……?」オレは言った。

「ほら、ここをごらんよ。逆さになった壺から水が出てるだろ?」ソニヤさんが言った。「聖水は吉報の象徴さね。この先もしばらく、あんたを助けてくれる人がたくさんいるだろうよ」

「わたしを、助けてくれる……」

「そうさぁ。現に今こうしてラーニャにも拾われたろ?」

「えぇ、まぁ……」

「心配しなくても、悪いことなんて起きやしないさ。これまではどうだったか知らないけどね」

「……」

 オレは言葉を失くした。占いが当たるかどうかはともかく、ソニヤさんの語り口には人を惹きつける何かがあるように感じた。

 現に今、オレは彼女の話に聞き入っている。

「さぁて、次はどうかねぇ」

 ソニヤさんは布の上にあるサイコロを手に取った。6面どころか10面以上は余裕でありそうなサイコロだった。

「あんた、今までに占いをしたことは?」

「い、いえ、今日が初めてで……」オレは言った。

「そうかい、そうかい。そりゃあいいことだ」ソニヤさんが返した。「占いってのぁねぇ、あんまりやり過ぎるもんじゃないんだよ。やる回数は少ないほうがいい」

「そう、なんですか……?」

「もちろんさ。神さまに嫌われちまうからねぇ」

「な、なるほど……?」

「ほら、ごらんよ」

 ソニヤさんは手に持っていた3つのサイコロをテーブルの上に落とした。それぞれのサイコロは各自まったく異なる模様を表にしていた。

「なるほどねぇ……さぁ、もう一度だ」

 ソニヤさんは3つのサイコロを手に取り、手のひらの上で再びゴロゴロと転がした。まるで、彼女の手のうえでサイコロがダンスしているかのようだった。

「……」

 気付けば、オレはソニヤさんの動きから目が離せなくなっていた。占いを信じたことなんて一度もないのに、彼女の言うことには妙な説得力があった。

 占い師ってみんなこんな感じなのかな。それとも、ソニヤさんが特別だったり?

 オレはサイコロ同士がジャラジャラと触れ合う音をただ聞いていた。オレのすぐ隣にいるラーニャもまた、言葉を発することもなく彼女の動きに注目していた。

「さぁ、これで最後だよ」

 ソニヤさんは手のうえで転がしていたサイコロをテーブルに放った。ころんころんっ、といくつもの軽やかな音が室内に響きわたった。

「ほぉう……そうかい、そうかい。こりゃあ珍しい」

 ソニヤさんは出た目をじぃっと見つめていた。先ほどまでの微笑みとは打って変わって、彼女は何やら真剣そうな表情をしていた。

「ど、どーなのぉ、ソニヤさぁん?」

 心なしか、ラーニャの声にも緊張の色が感じられた。今この部屋には緊張感が空間いっぱいに広がっていた。まるで、蒸発した水が空間いっぱいに広がっていくかのように。

「ミリア」

 とつぜんソニヤさんから名前を呼ばれたオレは、つい反射的にビクッと肩をふるわせてしまった。

「は、はいっ……?」

 ソニヤさんは難しそうな顔を浮かべていた。今この部屋にいる誰もが彼女の次の言葉を待っていた。少なくとも、オレはノドから手が出そうなくらい彼女が次に何を言うかを知りたかった。

 オレの期待に反して、ソニヤさんの言葉は予想外のものだった。


「あんた2回生まれてるねぇ、ミリア」


 一瞬、息が止まった。


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