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【4章】お日さまみたいな女の子 3


 オレとラーニャはほぼ同時に声がしたほうに顔を向けた。視線の先にはエプロン姿の中年女性がいた。どうやら、彼女が表で露店をしていたおじさんのパートナーらしい。

「ごめんなさいねぇ、ちょっと人と話してて〜」おばさんが言った。「おふたりとも今ここに来たばっかり? もうウチの店内は見て回った?」

「あ、っと……す、少し前に見させてもらいました」

 おばさんはもうオレたちとそう遠くないところまで近付いていた。

 どうしてか、さっき会ったばかりのユノンさんの顔が頭に浮かんだ。このおばさんとユノンさん、べつに似た特徴あるわけじゃないのにね。

 ぼ、母性つながり的な〜……?(謎)

「あたしたちね、今さっきここ来たばっかりなの〜」ラーニャが言った。「このお店のアクセサリー、すてきなものがいっぱいだねぇ。ぜんぶ外のおじさんが作ってるの?」

「えぇ、主人がね。あの人もの作りが好きだから」

「すてきな趣味だねぇ。もうちょっと見てってもいーい?」

「もちろん、どうぞ好きなだけ見てって。あ、お茶とか飲んでく?」

「んーん、だいじょぶ。たった今ご飯たべてきたばっかりだからぁ」

「あらそう、先日いいお茶菓子いただいたんだけど……」

「あはは。また今度ごちそうになるね?」ラーニャが言った。

「えぇ、待ってるわ。さぁさ、どうぞ見てってちょうだい」

「はぁい、ありがとお〜」

 オレたちはおばさんにうながされるまま、店の中にあるアクセサリーを見て回った。先ほどラーニャが言ったとおり、どのアクセサリーも素敵な仕上がりのものばかりだった。見てるだけで楽しい。

 ラーニャ、やっぱり人見知りとかしないタイプなんだろうなぁ。

 オレなんて若干しどろもどろになっちゃったけど、ラーニャのほうはごく自然におばさんと話してた。われわれのコミュニケーションスキルの差が明らかになった瞬間なのであ〜る(であ〜る)。

 心の中で自分のコミュニケーション能力の低さを憂いつつ、オレはラーニャと一緒に店内にある装飾品たちを物色した。

「ねぇねぇ、これ可愛くなぁい?」

 ラーニャがオレの腕をくいくいと引っ張った。いつの間にか、彼女はオレの腕に自分の腕を絡ませていた。

 先ほどと比べてお互いの距離が近くなったせいか、オレとラーニャの顔も先ほどより近くなっていた。相手との距離が近いのは彼女のトレードマークの1つなのかもしれない。ちょっとドキドキする。

「かっ、かわいいね。ピンクゴールドかな……?」

「地の金属がピンク色だとさ、上に乗ってる宝石も映えるねぇ」ラーニャが言った。「あたし、この色すっごい好き〜。さっき夕焼けの話したけど、これ夕陽とマッチしそうじゃなあい?」

「そうかも。身に付けるのが楽しくなりそうだね」

「ねー、ほんとぉ。ほら見て見て、これもキレイ!」

 オレはラーニャにリードされる形でアクセサリーを見て回った。彼女はお店に入ってからずっとショッピングを楽しんでいるようだった。

 ラーニャもお買い物とか好きなのかな。

 こうして彼女と過ごす時間は楽しい。いま自分が置かれた状況も忘れて、ただ目の前の楽しさに没頭してられる気がする。

 あ、このアクセもキレイ。さっきラーニャが見せてくれたペンダントとも近いデザイン。ハワイアンっぽいけど独特の彫り模様があって、この村特有のパターンだってことがよく分かる。

 気付けば、オレはラーニャに似合いそうなアクセを探していた。

 だんだんと模様の違いを見分けられるようになってきたせいか、オレは彼女によく似合う流線型のデザインを目でたどっていた。

 きっと、この子には太陽みたいな宝石がよく似合う。この子には寒色系より暖かみのある色がよく似合う。みんなを明るく照らすお日さまみたいなデザインのアクセサリーがよく似合うと思う。きっと、きっと——。

 あぁ、お金があったらなぁ。

 ちょっとカッコつけて、この子にアクセサリーなんてプレゼントしてあげられるのに。あぁ、なんて儚き夢。れ・みぜらぶる。

 ごめんね、ラーニャ。今のオレは一文なしの家なしボーイ(ガール?)なんだよ。アクセサリーの1つも買ってあげられない貧乏人でごめんあそばせね〜?

 ぜんぜん関係ないけど、なんか映画のタイトルにありそうなネーミングだね。ホームレス・ボーイ。もしくは、ホームレス・ガール。きっと全米が鼻で笑うタイプのコメディ映画だね。知らないけど(適当)。

 やがてショッピングがひと段落したころ、ラーニャが店の中央付近で立ち止まった。

「けっこう見て回ったねぇ。そろそろ行こっかぁ?」

「そ、そだね。こんだけ見て買わないのが少し申し訳ないけど……」

「いーのいーの、気にしない気にしなぁーい」ラーニャが言った。「ここじゃ特に珍しくもないよぉ。表に出てるものは『みんなの共有物』って感じだから」

「そ、そうなんだ。その、みんな寛容なんだね……」

「んー、寛容っていうかぁ。『いいものはみんなでシェアしよう』って感じぃ?」

「そう、なんだ……」オレは言った。「いい文化だね。ひとに優しくなれそう」

「あ、でもちゃんとお金は払うよぉ?」

「や、それは分かるけど……」

「あはは」

 ラーニャはまた花が咲くみたいにからからと笑った。どこにも湿気を感じさせない彼女の笑った顔は、この村の雰囲気を体現しているかのようだった。

 ラーニャは本当によく笑う。出会った頃からずっとそう。

 この村の人はみんなよく笑うみたいだけど、彼女は特別よく笑ってるような印象がある。こんなにも幸せな笑顔を見せる人も珍しい。

 まるで、笑顔が顔に張り付いているかのよう。ラーニャの笑顔には他人を元気にさせる魔法がかかっているかのようだった。太陽のように明るい彼女の笑顔に釣られて、ついついオレのほうまで笑ってしまいそう。しぜんと顔がほころんでしまいそうになる。

「おばさぁん、あたしたちそろそろ行くねー?」

 ラーニャは店の奥にいるおばさんに声をかけた。通路の奥から先ほどのおばさんがひょっこりと顔を出した。店の奥からこんにちは。

「あらそう。ごめんなさいねぇ、あんまりもてなせなくってぇ」

 おばさんはエプロンで手を拭きながら店の奥から現れた。どうやら、なにか水仕事をしている最中だったらしい。

「いーえー、ぜぇんぜん」ラーニャが言った。「また今度この子と一緒に来るよぉ。次はアクセも買うからね?」

「やぁねぇ、いいのよ気にしないで。ひとに見てもらったほうがこの子たちも喜ぶから」

 おばさんは店内に並べられたアクセサリーに向かって両手を広げた。どうやら、このお店のアクセサリーたちは他人に見られると喜ぶらしい。

「ほら、ね?」

 ラーニャはこちらに同意を求めるように言った。たしかに、先ほど彼女が「いいものはみんなで〜」と口にしていたとおりだった。

 どうやら、この村には共有の文化が根付いているらしい。

 いいものはみんなで分け合う。誰かから奪おうなんてみみっちいマネはしない。自分がしてもらって嬉しいことを他人にもしなさい——。

 そこまでの意識があるかは分からないけれど、少なくともこの村は他人とのシェアに優しい。オレがいた向こうの世界よりもずっと、ほかの人と何かを共有することに価値を置いているようだった。これを『優しい』のひと言で終わらせるのは少し忍びない。

 きっと、ラーニャの人柄もこの村の空気に育まれたんだろう。

 オレがここに来てからそう時間が経ってるわけじゃないけど、この子のパーソナリティーはこの村の空気感をよく表してる。まるで、ラーニャ自身が村の代表かのような体現っぷりだった。しんぼりずむ(?)。

 だから、オレも一歩だけ踏み出してみる。彼女を見習って、もう一歩だけ足を踏み出してみる。そうしたいと純粋に思った。

「あ、あのっ」

 オレはおばさんに向かって声をかけた。思ったよりも声が大きくなった。

 ラーニャがこちらを見ているのが横目で分かった。視界の端にいる彼女は少しだけ不思議そうな顔を浮かべていた。おばさんもまたきょとんとした表情をしていた。

「こっ、今度また必ず来ますっ。この子と2人で一緒にっ……!」

 オレはラーニャのことを横目で見ながら言った。きっと次ここに来るときもまた、この子と一緒にだと思ったから。

 ほんの一瞬だけ面食らったような顔を浮かべたものの、オレの正面に立つおばさんはすぐににっこりと笑った。ラーニャの笑顔と重なるような晴れ晴れとした笑顔だった。

「えぇ、待ってるわ。次はおもてなしさせてね?」

「は、はいっ」

 おばさんはオレの手を包み込むように両手でそっと握ってくれた。手のひらと手の甲の両方から彼女の体温が伝わってきた。

 おばさんと握手を交わしたあと、オレたちは店を出ることにした。

 お店のおばさんは店先に出てきて、オレとラーニャを見送ってくれた。お互いに手を振り合ったあと、オレたちは大通りに出てまっすぐに道を歩いた。通りは先ほどと変わらず人で賑わっていた。

「おばさん、うれしそうだったねぇ」

 ラーニャはオレの顔を見ながら言った。心なしか、彼女の表情もまたどこか嬉しそうに見えた。気のせい……かな。どうなんだろ。

「ミリアって、やっぱり正直さんなんだねぇ」ラーニャが言った。「お店のおばさん、うれしかったと思うよー。あんな風に言ってもらえて」

「そ、そうかな。そうだといいけど……」

「そうだよぉ。そうに決まってる〜」

「……」

 オレは何も言葉を返せなかった。ただ、自分の心に充実感にも似た何かがあるのだけは分かった。

 きっと、ああ言って良かったんだ。

 ラーニャの言うとおりだったら嬉しい。あのおばさんに喜んでもらえたなら嬉しい。

 勇気を出して良かったと思えるなら、多分さっきの行動は間違いじゃない。オレひとりなら絶対できなかっただろうけど……そう、ラーニャがそばにいてくれたから。この子がいてくれたから言えた。

 だから、あれで良かったんだ。きっと、きっと——。

「あ、そだ」

 大通りを歩いている途中、ラーニャが何か思い出したように言った。

「ねぇねぇ、ミリアって占いとか興味あるっ?」

「占い?」オレは聞き返した。

「そう、占いっ。ほら、カードめくったりして運勢を見るの!」ラーニャが言った。「ここの道ちょっと行ったところにね、この村でいっちばぁ〜ん有名な占い師のおばあちゃんがいるの。ね、どーお?」

「占い……そう、だね。ちょっと興味あるかも」

「あはっ、やっぱり〜。そぉだぁよねぇ、女の子だもんねっ!」

 ラーニャの声はいつにも増して甘々しかった。どうやら、彼女はオレが占いに興味あると最初から決めてかかっていたらしい。

 実際のところ、占い自体よりこの村の占いに興味があった。

 向こうの世界じゃ占いなんてやったことないけど、こっちの世界ではどんな風に占うのかが気になる。

 占い……そっかぁ、占いかぁ。今まで占いなんて信じたことこれっぽっちもなかったけど、こっちの世界の占いは向こうの世界のと違うかもしれない。どうなんだろ、こっちの世界でも水晶玉むぃーんむぃーんしたりするのかなぁ?(※偏見)

 というか、こっちの世界でも「女子=占い好き」は健在らしい。きっと、性別的に共通する何かがあるのかもね?

「じゃあさじゃあさ、寮に行く前に占い屋さん寄ろうよぉ」ラーニャが行った。「あそこの占い屋さんのおばあちゃんね、あたしも昔っからよく知ってる人なの。この村じゃよく当たるって評判なんだよ?」

「え、そうなんだ。腕のいい占い師さんなんだね?」

「なんかねぇ、ぼや〜っと未来が見えるんだってっ。あ、そのおばあちゃん『ソニヤさん』って名前なんだけど——」

 ラーニャはこれから向かう占い屋さんについて丁寧に説明してくれた。彼女の話はどれも新鮮で、オレは生まれて初めて占いに興味を持った。


 オレたちは寮に向かうのを後回しにして、まずはその占い屋さんに行くことにした。


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