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第九十八話 任命式

「え〜、リィカネル部隊所属、下級神器隊員焔緋軌光を最上第九席第一席に任命し、指揮権及び判断権を与える」


 (判断権ってなんだ? 適当こいてるなゼロめ……)


 本来最上第九席の任命というのは黄燐の役割だが、最上第九席試験をすっ飛ばしてトーナメントを開きやがった大ボケはゼロなので、ゼロに任命式をやらせていた。

 しかしゼロは事前に与えた台本を一切覚えず、気分でそれっぽいことを言うばかり。まだ式が始まって十分も経っていないが、もう後悔し始める黄燐であった。


「病める時も健やかなる時も地位を手放さず人を見捨て……なんだこれは。私はこんなことを言うつもりはない」


「言わせるつもりもないよ! もういい代われ!」


「やれと言ったり代われと言ったり身勝手なやつだな」


「今ほど僕に力があればと思ったことはないよ」


 最上第九席とリィカネル部隊以外の人間がいなくて本当に良かった。ゼロと交流のある者にとっては周知の事実ではあるが、ゼロは本当に人間の営みというかなんというか。

 人の言うことを聞く気がない。まだ幻想を抱いている者もいることを考えると、この選択は正解だった。


 (このメンツなら見られても問題ないだろうからね)


「ゼロ様ってこんな人だったんだ……」


「ショックだね……中央第零席がこんな人だったなんて」


 (問題あるかもしれないね)


 既に軌光もやる気をなくして、目で「まだ終わらねえのか」と訴え始めている。せめて今回の主役ぐらいは式に前向きであってほしかったのだが……

 まあ、この方が軌光らしいか。面倒な文言とかは無視して早く最上第九席の地位を与えてやるとしよう。


「おめでとう軌光くん。これで君も晴れて最上第九席。これからは、エスティオンを導く立場として頑張ってくれ」


「おう! 俺に出来ねえことはねえ! 任せろ!」


 なんともまあ中身のない返事だ。

 苦笑して、そうだね、とだけ返す。実際彼は仲間を焚きつけるのは上手いし、後ろ向きになっても支えてくれる部隊の人間がいる。実力もあり、足りないのは実績だけか。

 基地内で反感を買うことも、少なからずあるだろう。まだエスティオンに所属して時間も経っていないのに、何故先輩を差し置いて最上第九席になったのか……と。

 軌光の方が強いから、としか言いようがないのだが、人間は所詮感情の生き物。軌光には少なからず苦労をかける……


「逆らうやつとかいたらぶっ飛ばしていいんだよな!」


「ん〜君にそういう類の心配はいらなかったかな!」


「ダメなのだぞ軌光〜最初は言葉で説得なのだ〜」


「最初は、ここ大事だからな。最初は」


「基本神器部隊にはノリと勢いで生きてるやつしかいないのだ。会話の八割は殴った方が早く進むのだ〜」


「それでいいのか神器部隊」


 以前から交友があった海華や月峰と会話が弾む。他の最上第九席は、まだ観察中といったところか。今後任務や基地内の仕事で一緒になれば、交流する機会もあるだろう。

 シュヴェルビッヒは多少話しかける気もあったようだが、それ以上に式に出席していたリィカネルに夢中だ。彼の親バカはいまに始まったことではない。気にするだけ無駄だ。

 兎牙も、楽しげに海華たちと会話する軌光をニコニコと見つめている。積もる話は、後で部屋でするつもりだろう。


「……なんだか、世話を焼く気もなくなる子だね」


「そう作ったからな。おまえが心配するべきことはない」


 ぶっきらぼうにそう言い捨てるゼロ。先程ゼロは式をまともにする気がなかったが、軌光の名前をフルで覚えていた。実はこれはかなり特殊なことで、少なくとも黄燐は見たことがなかった。数十年の付き合いがある黄燐も、“蜃”の部分を覚えてもらっていない。

 何度も名前が変わった都合上、仕方ないと言えば仕方ないことなのだが……やはり、物悲しい部分はある。


「前々から思ってたけど、君。軌光くんについて何か知っているね? 君と軌光くんはどんな関係なんだい?」


「……我が姫君は、どんな仕掛けをしたんだ……黄燐。始まりの四人については、当然覚えているだろうな?」


「何を今更。僕と斥腐、初代ネイティスィル……あれ、あと一人は誰だ? ゼロ、君は知っているのかい?」


「いや、いい。覚えていないのなら。我が姫君の考えは私にも読めん……きっと、明かされる日が来る」


 ため息を吐いて、ゼロが退室した。

 始まりの四人とは、エスティオンを作った四人。黄燐、斥腐、今は兎牙の神器である、ネイティスィルの初代適合者。そしてあと一人……黄燐の記憶には、ない。

 まあいいか、と思う。創始者の一人を覚えていないのは結構問題だが、長く生きていればそういうこともある……


「焔緋軌光、と言ったかの? 少し話があるのじゃが……」


 意識を軌光に戻すと、沈黙を貫いていた斥腐が彼に話しかけるところだった。そういえば、斥腐は頑なにあの頃について話そうとせず、嫌悪感すら示している。

 何か彼女なりの思いがあるのだろうか……


「いましたわね最上第九席の皆様方! 何してますの!」


 突如、部屋中に響き渡るサファイアの声。最上第九席任命式のため、入室は禁止しているはずだが……


「捕らえていたディヅィ・エフェクトが奪われましたわ!」


「は〜〜〜〜〜〜〜〜!!!!????」


 過去一デカい声が出た黄燐だった。

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