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第九十六話 物足りない

「……どう見る?」


「有り得ん。剛腕はともかく、槌もどうかしている」


 観客席には一般とVIPがある。VIP席には現在最上第九席とゼロのみが座っており、常に歓声があがっている一般席とは違って静かなものだ。うるさいのはシュヴェルビッヒぐらいのものか。三馬鹿の残り二人も煩わしげにしている。

 最上第九席の間では、斥腐とゼロの仲が悪いというのは常識だった。二つ目の名を持つ者同士の確執だろう、と皆は思っているのだが……どうやら、そうではないらしい。


 (珍しいですね……あのお二人がお話なんて)


 斥腐とよく一緒にいる兎牙でも見たことのない光景だ。そもそもゼロが地下から出てきたのも最近なので、無理もないことなのだが……それはそれとして置いておこう。


「剛腕は寧ろ、これぐらいしてもらわねば困る。我が姫君が与えた神の欠片だぞ? 今までがショボすぎる」


「神の欠片の部分だけ同感じゃ。今ワシが話したいのは槌の方じゃて。アレ、本当にただの神器なんじゃよな?」


「私の識別能力が故障してなければただの神器だ。能力そのものに、限界の廃棄が含まれているのやもしれんな……」


 ふん、と鼻で笑うゼロに、斥腐も病んだような笑みを返していた。傍から見れば、魔女の集会にしか見えない。


 (そんなに凄いんだ……なんだか、私も嬉しくなっちゃうな。ふふ、仲間が褒められるのって、いい気分だな!)


 巨人と腕がぶつかり合う戦場。異質な光景だが、本人たちは随分と楽しそうだ。どんなものでも、楽しんでやるのが一番良い。見ていると、自然と笑みが零れてくる。


「頑張れ、二人とも……!」


「勝てェ我が息子! 勝てぇぇえええええ!!!」


 ――――――


 朦朧とする意識の中で、死力を尽くして剛腕を操る。リィカネルの操る巨人は、その巨体のせいもあってか動きが緩慢だ。そのお陰で、剛腕の操作もギリギリ追いついている。

 嫌気が差す。今は考えないようにしていても、この暗い思考は無限に湧き出る。どれだけ舐め腐っていたのかと。


 (右脚と、肩と……へへ、いつもなら絶対しねえ)


 鬼蓋と戦って、【楽爆】と戦って。その両方に勝ってしまったから、リィカネルを舐めていたのか。

 いや、違う。見下していたのだ。自分は特別なんだって勘違いして、そうじゃないリィカネルを見下した。支えるなんて言っておきながら……こんなにダサいことはない。

 二度も啖呵をきったのに……こんな、弱々しい思考。


「ああ……いいかもなあ……負けちまってもなあ……」


 リィカネルが強かった。それだけのことではないか。

 最初、同等の立場みたいに振舞って。お互いの全力を叩き込んで、限界を越えるなんて息巻いて。本心ではリィカネルのことを舐めていたなんて、どうしようもないクズだ。

 操っていた剛腕が弾き飛ばされる。巨人の槍が、軌光本体に向いた。剛腕が消える。再出現させる気力も、もう……


「ッ……! 何をしているんだ焔緋軌光!」


 当たる寸前で槍が止まる。オーバー・ブレイクで駆け寄ってきたリィカネルが胸ぐらを掴み揺らした。ブラブラと揺れる腕から伝わるはずの痛みも、今は遠く思える。


「さっき、一瞬でも認めた僕が馬鹿だった! 弱気になってるんじゃない! 君が何を考えてるのか知らないが、僕はそんな君を倒したところで嬉しくも……なんともない!」


 星殻武装を纏った右の拳が、軌光の頬を強く打った。


「どうしたんだ……君らしくもない。誰かと戦っているときにこんな……弱々しいなんて、どうしちゃったんだよ……」


 泥の巨人を破壊した腕を操って、いつもとは違う形で全力をぶつけてくれた。ダメージのせいでキレはなかったが、それでも軌光はいつも通りの全力を出してくれていた。

 時間が経つにつれてこんなに弱々しくなって……何故だ。


「リィカネル俺は……おまえを、舐めてたんだ。だからこんな傷を負って、今も……罪悪感が、溢れる……」


「……そんな理由で! そんな理由で今みたいに手を抜くことが! 僕への贖罪になるとでも思ったか! 悪いと思ってるならせめて、せめて……! 全力で戦え馬鹿野郎!」


 息が切れる。こんなにも叫んだのは初めてだ。

 お互いの全力をぶつけあってすぐ、言ってくれたではないか。やるじゃないか、と。俺も俺の限界を越える、と。嘘を吐いたのか? そんな下らない罪悪感で!?


「リーダーの……命令だぞ、軌光……!」


 罪がどう。罰がどう。そんなことは今、至極どうだっていい些事に過ぎない。今は戦え。あの時の続きをしろ。罰が欲しいなら、後でとびきりのものをくれてやる。だから!


「前を見ろ! 僕を見ろ! 拳を掲げろ! 軌光!」


「……そうだな。そうだ! すまねえリィカネル!」


 パキパキパキ、と音を立てて、軌光の両腕を剛腕神器が覆っていく。ただ禍々しいだけだった外見は美しく、見ている者に勇気を与えるような華々しさを持って再臨した。

 謝ろう。頭を下げよう。どんな罰でも受け入れよう。そのために今は……今は、前を向いて戦わなくては。


「思わせぶりなことして悪かった。二回も啖呵きったのに、弱気になって悪かった。もう騙さねえ。嘘吐かねえ!」


 切断面すら修復して今、立ち上がる。

 焔緋軌光が、立ち上がる。

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