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第九十三話 母なる

「おまえとは長く戦いてえからな。まずはジャブからだ」


「奇遇だね軌光boy。僕も君と思いは同じさ」


 ガッチガチに武装しながら何を言っているんだ、という観客席の総意は届かない。朗らかな笑みを浮かべて、普通に、いつも通りに話すようにして距離を詰めていく。

 それでも構えは試合開始時と同じく臨戦態勢で、表情は笑っているものの目が笑っていない。戦意が滲み出ている。

 軌光の肘の先からは炎が噴き出て、星殻武装は外見こそ変わらないものの、ミシミシと音を立てる。


「フルドライヴ・バーストマックスフレイム」


「リミット・オーバー、レジスト・ブレイク」


 どちらも右腕に力を込めているのだろう。戦闘の意思は微塵も存在していない、とでも言うように力を抜いた演技をしているその腕は、不自然に、小刻みに震動していた。

 はっはっは、と笑いながらお互いの肩に左手を置く。もう限界を迎えつつあるのだろう右腕は、既に殴る体勢に。


「ロードナックゥ・ストレートォ!!!」


「オーバー・ブレイクァァァアア!!!」


 がっしりと掴んだ手は、相手を逃がさないために。

 炎のブーストに後押しされた拳と、限界を越えた超エネルギーを秘めた拳が、互いの腹に突き刺さった。全然効いてない、とでも言うように微動だにしない二人だったが……

 口の端から、血が滴り落ちる。笑顔も苦しげに歪んだ。


「や、やるじゃねえか……リィンカネルくん、よお」


「は、はは……君も、流石、【楽爆】と【幻凶】を倒しただけはあるね……ごほっ、はは……やるじゃないか……」


 どちらからともなく足を引き、適切な間合いを取った。痛みを誤魔化すように深く息を吐き、トントンとリズム良くタップを踏む。ここからは一切の容赦はなしだ。

 リィカネルが動いた。星殻武装の練度が上がった彼は、殴る時以外にもオーバー・ブレイクを使用することが出来るようになっていた。即ち、移動にすら用いる。


「レジスト・ブレイク」


 脚部に負荷をかけ、オーバー・ブレイクを発動。軌光の縮地よりも速い……それでも【楽爆】には及ばないが。少なくとも軌光以上の速度で、彼の背後に回り込んだ。

 レジスト・ブレイクはオーバー・ブレイクの威力を向上させるための技。本来オーバー・ブレイク発動時に発生するエネルギーを無理やり閉じ込め、もう一度オーバー・ブレイクを発動した際に、纏めて二回分のダメージを叩き出す。


「セカンド。オーバー・ブレイクァァァアア!!!」


 その間軌光には、彼自身が動くことによる抵抗は出来なかった。軌光は拳や剛腕神器を用いた攻撃の威力は、確かに目を見張るものがあるが……速度は、そう大したものではないのだ。しかし、実際の行動速度と反射神経は違う。

 軌光の得意技である、肥大化した剛腕を飛ばす技。アレは無から剛腕を出現させているのだ。つまり、背後のリィカネルの上空と地下から、それぞれ剛腕を発生させることが出来る。そしてそれは、リィンカネルの拳の軌道を変えさせるには十分すぎる威力を持った、挟み撃ちであった。


「ヌッ……グァ……!」


 無理やり軌道を変えたことで、星殻武装に守られたはずのリィカネル本体にまでダメージが入る。肩や腕の筋肉が断裂するのを感じる……そして今、軌光の反撃が開始する。

 技も何もない、単純な殴打。何か技術を用いて受けるのは不可能。体勢が悪すぎる上に、腕に力が入らない。


 (今! 僕に出来ることは……!)


 軌光は無限に進化している。元々神器の能力が拡張性の高いものだということもあるが、それ以上に彼自身の発想力に依るものが大きい。彼には無限の可能性がある。

 では、自分はどうだ。リィカネル・ビットは大地を操るという、剛腕ほどではないまでも拡張性の高い能力を持った神器を装備している。焔緋軌光同様に、何かできることは。


「うわっとお……へへ、んだよ。大層なもんだなオイ」


「ふっ……僕の憧れは君……だからね」


 頭が痛い。割れそうだ。でもそれ以上に気分がいい。

 リィカネルの背後に立つ、巨大な土塊の巨人。更にリィカネルの手には、三又の槍が握られていた。旧文明で例えるのならば、中国の武将が使うようなものに近いだろうか。

 巨人も、同じものを持っていた。リィカネルは今、自身の星殻武装に武器を追加し、更に巨人を操ることによる戦力強化を行った。大地を操るという能力は、無限の生命を受け止める母なる大地を真似するということだ。

 限界はない。自身にこの世で一番の鎧を纏わせることも、軍隊を作ることだって出来る。スケールが小さかった。


「ガイアネルに、僕に限界はない。ま、存在しない限界を越えるのが……星殻武装の、戦闘スタイルなんだけどね」


 今。神に迫る力を生み出そうとしている。

 第六試合で【楽爆】とそうしたように、好戦的な笑みを浮かべて対峙する。肩甲骨の境目から二本の剛腕を生やし、四本腕の状態で、本格的な戦闘態勢に入る。

 リィカネルが目を剥くが、当然のことだろう。彼が進化するように、軌光も進化していないはずがないのだ。


「越えてみろよ。俺も、俺を越える……!」


 星。そして、神。

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