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第九話 戦う理由

「君はなんのために戦うのか……教えてくれないかな」


「おう。まずおまえは誰だ。やけに白いなおまえ」


 記憶はちゃんとある。健康診断という名目でベッドの上に寝かされ、致死量じゃないかというほどの麻薬をブチ込まれたところまで。再暴走の危険性があるからとかなんとか。

 で、誰かに呼ばれたと思ったらここにいた。無駄にだだっ広い空間に、無駄に肌の白い女が一人。目隠しをしていて目元は見えないが、随分と美しい顔立ちをしている。


「私……私は、うん。君のお母さん、かな? 血の繋がりとかはないんだけどね……うーん、神様の方が近いかも?」


「よくわかんねえな。本題に戻ろうぜ。俺が戦う理由って聞いたよな……考えたこともねえな。うん。戦ったこともねえ気がする。俺はただ、生きてきただけだからな」


 そう、と言って女は微笑んだ。優しい笑みだった。

 少し悩むような声を出しながら、こてんと小さく首を傾げた。純白の髪がサラリと揺れて、女の首筋を撫でた。可愛いとか、そういう感情のない軌光でも可愛いと思った。


「えっ、とね。君は、剛腕神器に選ばれたんだよね。そしてエスティオンに入って……これから、戦うことになる」


「みたいだな。まあ、体動かすのは嫌いじゃないぜ」


「あはは……えー……君が戦うのは、人。目標が神殺しなんだとしても、沢山の人が君の前に立ちはだかるの」


「そうか。別の神器使いがどんなもんか楽しみだな」


「……なんか、我ながら性格の合わない子だなあ……」


 黄燐がよくするようなため息を幾分か濃くしたものを、女が吐き出した。先程から、微妙に会話が噛み合っていないような気がする……親の心子知らず、とは少し違うか?

 どう伝えたものか。あまり、時間もないのだが……


「君が人と戦う、殺す理由。君にそれはある? その時になって、逃げ出さないために。君はどうして戦うの?」


「なんだそれ。俺は……分からねえぞ、そんなもん」


 数瞬迷った後に、軌光はそう答えた。もやもやするのでちゃんとした答えは出しておきたかったが、分からないものは分からない。だって、なったことない、そんな状況。

 命は尊いものだ。人に食われて繋がれていくものだからこそ、無意味に失ってはならない。信義とか目的とか、そんなもののために人と人が殺しあっていいはずがない。

 分からねえ、と呟く。それを見た女は、「それでいい」とだけ言ってもう一度笑った。女神のような笑顔だった。


「それは、今から見つけていくべきものだからね」


 世界が薄れていく。どこかに引き戻されていく。

 女の姿が一番に消えた。陽炎のように、蜃気楼のように。


「いや結局誰だったんだよおまえ」


 母、神という発言はとうに忘れられているようである。


 ――――――


「おはよう軌光くん。早速だが対面式と行こうか」


「君が軌光boy? HAHAHA、可愛らしい顔だ」


 何か夢を見ていた気もする。そう思いながら体を起こしてみると、黄燐の疲れ果てた顔と凄まじく派手な金髪の青年の顔が覗き込んでいた。好奇心に輝いている。


「早速だがね、君は神器部隊に配属された。神器を使える者だけで構成された、選ばれし者たちと思っていい」


「ま、ウチは下級だけどね。一緒に頑張ろう軌光boy!」


 差し出された金髪の手を握り、起き上がる。まだフラつく頭を支えながら周囲を見渡すと、警戒するようにしてこちらを見ている少女が二人いた。どちらも格好がおかしい。


「じゃ、リィカネルくん、後は任せるよ。僕は色々と仕事を残してきていてね。自己紹介ぐらい出来るだろう?」


「HAHAHA、舐めないでもらいたい。任せてくれたまえ」


 頼りにしているよ、と頷いて黄燐は退室した。

 さて! と金髪は声を張り上げ、軌光を部屋の中心に引っ張って行った。全員の視線が集まるのを感じる。

 チームメイトの自己紹介に、胸の高鳴りを感じていた。

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