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第八十五話 第六試合

軌光の推薦者である月峰の心境は、なんともまあ不思議なものだった。第六試合に出場する軌光に、勝って欲しい気持ちと負けて欲しい気持ちが半々……胃が痛くなってくる。


 (軌光が勝つってこたあ純粋に推薦者として嬉しいのは嬉しいんだが、それは姫の推薦者を負かすってことだしなあ)


 正直な話、軌光が鬼蓋に勝った時は本当に嬉しかった。軌光は素行に問題がある訳ではなし、加えて鬼蓋を倒せるほどの実力がある。救出作戦の際は、全力ではなかったと言っても、あの【融滅】を単独で抑えて見せたという。

 最上第九席となってくれるのなら、これ以上なく心強い逸材であることは疑いようもない。しかし、どうせなるなら通常の最上第九席試験を受けてなって欲しかった……!


 (嫌だなあ……姫を負かすってのは嫌だなあ……)


 別に、海華は気にしないだろう。「蘭の見る目が、私の見る目より優れてただけなのだ〜」とでも言って、普段通りに接してくれるだろう。だが、それでは月峰の気が収まらないのだ。何にせよ、負かせてしまった事実はそこにある。

 チラリと、ウォーミングアップ中の軌光を見る。先日兎牙と手合わせをしたとかで、調子は最高にいい。


「あー……なあ軌光、勝てると思うか?」


「勝つんだよ。俺だって最上第九席になりてえし、リィカネルとの再戦はすっぽかせねえ。マジで行くぜ、俺は」


 闘志を煮えたぎらせている軌光に、そうかそうかと生返事を返す。【楽爆】は二つ目の名を持つ者の中でも一、二を争う強者。気合いだけで勝てるほど容易くはないが……

 こいつは本当に勝ちそうだから怖い。実力が未知数な鬼蓋だが、彼女は腐っても二つ目の名を持つ者。それに勝利してみせたという実績が、あまりにも大きい。


「まあ、ほどほどに……な。四肢欠損とかしたら、いくらなんでも治せないし……ここでは! 全力は抑えて……」


「何言ってんだ? なんかやるってなったら全力。手抜きなんてしたら気持ち悪いし相手にも失礼じゃねえか」


 もっともな意見すぎて何も言えない。月峰も普段ならそのスタンスなのだが、今回ばかりは……

 ……いや。軌光も言っているではないか。全力で行かなくては相手に失礼、何かやるとなったら全部出し切らなくては気持ちが悪い。それはきっと……海華も【楽爆】も同じだ。


「はっ……悪かったな。勝ってこい、軌光」


「んだよ急に気持ち悪い……つーか、言われるまでもねえ」


 時間だ。蹴り壊すような勢いで控え室の扉を開く。

 笑みと共に送り出した。


「俺は勝つぜ!」


 ――――――


「おまえが負けるとは、私は思ってないのだ」


「俺もだよ。でもそうだな……いや、焔緋軌光だけはどうなるかわからんなあ。案外、すぐ負けるかもしれんぞ」


 別に敵を舐めている訳ではないが。二つ目の名を持つ者として、【楽爆】は戦闘前のイメトレやウォーミングアップを行わないようにしていた。しかし、今回ばかりは別だ。

 対戦相手は焔緋軌光。あの剛腕神器の適合者。最近弱くなってきているとはいえ、あの鬼蓋を正面から倒した男。そして、個人的な感情としても、彼に関して知っていることから考えても……舐めてかかれば、勝ち目は限りなく薄い。


「ああいうタイプは、なんつーか。不可能を可能にするのが得意でな。強敵と戦うからビビる、じゃなくて興奮する。俺も似たようなもんだが、度合いがちぃと強いな」


「ほ〜、あの【楽爆】がそう言うとは中々なのだ。おまえは強敵だから、もしかしたら逆転劇が……ってことなのだ?」


「そうだな。だが、俺もやるからには負けるつもりはねえ」


 試合開始前から、【楽爆】の鎖は既に臨界。爆発が発生しない設定にはしているが、近くにいる海華からすれば怖くて仕方ない。気丈に振舞ってはいるが、内心怯えている。

 海華は、その神器の能力があまりに強いが故に、強者との戦闘に駆り出されやすい。その中で【楽爆】と直接戦ったことはないが、彼がどんな戦闘をどんな規模で繰り広げるのかは知っている。エスティオン基地程度なら、余裕で壊滅させられるだろう。そんな化け物が、こんな近くにいる。


 (こうまで強い戦意、殺気……+5の幹部と真っ向から戦った時以来なのだ。名前はなんだったか……楽器みたいな……)


「嬢ちゃん。おーい。どうしたい突然黙りこくって」


「ん、ああなんでもないのだ。時間なのだ?」


「おう。しっかり見といてくれよ」


 扉を開ける。

 実の所、【楽爆】のこのトーナメントにおける目標は既に達成されている。絆のやろうとしている人為戦争のスキップは、もう第三試合で阻止出来たと言えるだろう。

 では、何故飛燕と同じように棄権しないのか? それは個人的に、焔緋軌光と戦っておきたかったからだ。


 (希望を背負う者、最後の灯火。百人目の人造英雄……勝手な二つ名を、こっちで色々付けさせてもらってるが……)


 自然と口角が吊り上がる。嗚呼、こんなにも楽しみだ。

 殺さない程度に可愛がってやるとしよう。何せ、最初からエスティオンに所属する、この焔緋軌光は……


「俺の、唯一の弟だからな」


 第六試合。焔緋軌光vs【楽爆】。

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