第八十一話 本領発揮
そもそも、コピー系神器が何故紫電を放てるのか。
それを説明するにはまず、+5という組織が他と何が違うのか、ということを説明しなくてはならないだろう。端的に言い表すなら、【単独で文明が完成していること】だ。
旧文明を基盤とした、主に神器に関する知識や技術を交えた文明。+5のみが保有する技術や知識は無数に存在する。
その中で、この世界において特にアドバンテージとなるのが神器の改造だ。エスティオンですら未だに安定していないその境地では、神器に本来有り得ぬ能力を付与出来る。
「お互い全力だ。楽しく行こう、楽しく……」
紫電。ただの雷と同じようなものだが……鬼蓋が用いた場合は、単なる攻撃以外にも様々な効果を発揮する。
軌光の高速移動に合わせて屈む。これほど見ていれば、もう対応は出来る……移動予測軌道に合わせて手のひらを配置。紫電の直撃を浴びせてやろう。
「へっ、そんな見え見えの罠に引っ掛かるかって」
「では見えない罠に引っ掛けてやろう」
屈んだ姿勢で、片方の手は地面に付けている。あくまで神器の能力により発生する紫電なのだ。地中を進むことなど容易く、その間も本来の雷が持つ機能を発揮し続けている。
一言で表すなら、槍。紫電の槍が軌光を貫いた。
言葉はない。厳密には、言葉を発する余裕がない。ギリギリで割り込ませることが出来た剛腕神器から感電し、肉体動作に不調が現れる。動きが鈍くなる……これは、マズ
「技の名前があるんだ……【トールハンマー】、と」
空中で一つになった紫電が、槌の如き形となって軌光に振り下ろされる。軌光にとっての幸運は、その形状を特に見慣れていたこと。どんな力が働くかは、よく分かっている。
側面に触れながら、流れに逆らわず回転する。そのまま手を付けながら上に跳び、攻撃動作に入る。
(ヤバかったな。もうちょい雷が強かったら詰んでた)
上下挟み撃ち。地中に潜ませていた剛腕を射出し、上からも剛腕を飛ばす。手を広げた形で射出した地中の剛腕は、巨大な指を鬼蓋の肉体に絡めている。逃がしはしない。
けれど。鬼蓋が逃げるとは限らない。
「【反発磁場】……【ライ・プラネット】」
飛来した剛腕が磁力を与えられ、一瞬動作が停止する。その瞬間に球体の紫電が発生し、安全地帯を作り出した。
付け足された能力の中では、ビーニャストの黒フォルムにも並ぶ強度を持った能力である。磁力の発生すら可能な、能力による紫電。それでも、剛腕神器には遠く及ばないが。
「おっしょお! はいしょお!」
軌光に、磁場による安全地帯を理解出来るほどの知識はなかった。ただ、恐らくは鬼蓋の能力により剛腕の攻撃が無効化されているのだ、とだけ解釈していた。
それならば。鬼蓋の作り出した無効化空間、それが壊れるまで攻撃し続ければいいと……そんな思考に至った。
「なんという力任せ……知能は発達していないのか」
バヂヂヂヂヂ! と光が強くなっていき、球体となっている安全地帯から紫電が迸り始めた。四方八方から迫り来る剛腕は、全て瞬時に反発する磁力を与えられ、弾かれる。
「炸裂せよ、ライ・プラネット。【崩壊する星の幻想】」
試合を中継しているアンタレスですら反応するほどの、超高圧の電気の奔流。鬼蓋の切り札の一つであった。
全方位に強制的に磁力を与え、その反発で攻撃する技である。光以外に攻撃を判断出来る要素がなく、軌光も訳が分からないまま吹き飛ばされた。頭から地面に衝突する。
「ふむ、ふむ……生命力も上々」
「いってえな何しやがった……分かりにくい攻撃、嫌いだ」
ぶつくさ言いながら立ち上がる軌光に、一切のダメージは見受けられなかった。生命力、と言うよりは防御力が高すぎるのか。肥大化させた剛腕の発生に、一切の時間を必要としない……クッションとして挟むことに躊躇がない。
当然、その方がダメージは軽減される。それは分かる。だが、分かっていたとしても、こうも早い判断は中々……
「やはり逸材だ! おまえが欲しくなってきたぞ、軌光!」
「だァら行かねえって! ここが好きなの俺は!」
銃のように手の形を変形させ、鬼蓋の心臓に合わせる。
軌光が意識した訳ではないが。レギンレイヴ襲撃時から、鬼蓋の中には“剛腕神器は肥大化させて使う”という先入観があった。それ故に、この攻撃には対応出来ない。
旧文明においては、ロケットパンチと呼ばれた攻撃だ。軌光本体の腕と同程度の大きさの剛腕を、射出していた。
(速い……いや、見えない。大きくないからな……)
命中直前で剛腕を掴み、投げ捨てる。また向かってきてはたまらないので、反発磁力を与えて弾けるようにしておく。
ここに来て、随分と発想が広がったように思える。なんの変化があったのか……仲間内で色々とやっている間に、心境の変化でもあったか? 例えば……置いていかれる、とか。
急激な成長をもたらす感情など、所詮その程度だ。
「いい仲間を持ったようだな、焔緋軌光」
「それだけは胸張って自慢出来るぜ。最高の部隊だよ」
お互い、まだ余力を残している。
正面から殴り合おう。目が、そう語っていた。




