第八十話 戦闘法の確立
例えば、リィカネルは星殻武装を用いた戦闘。狐依は本さえあれば千変万化の戦闘を展開可能で、綺楼は釘……陣を用いた呪術的な技術を使用して敵を追い詰める。兎牙は纏う鎧によって別人レベルにまで戦闘法を変化させて、飛燕は液体とレギンレイヴ流戦闘術を組み合わせて戦う。
では軌光の戦い方はどのようなものなのか? まだ修練の足りないレギンレイヴ流戦闘術では、鬼蓋のような強者には付け焼き刃程度にしかならない。ならばどうするか……
「まあ、剛腕の力に頼ればいいよな」
軌光と剛腕神器の相性は最早異常なレベルであり、同化とまで称されるほどである。事実軌光は、剛腕神器を四六時中装備していても、体の調子は逆に良くなっているほど。
発想の拡大だ。剛腕神器を飛ばすのが基本戦術だったが、そもそもとして剛腕神器は“腕”なのだ。生やせばいい。
「生やす、というより……付け足し、だね、それは」
トントン、と頭を叩いて聴覚を整えながら、鬼蓋は絞り出すような声でそう言った。軌光の体の側面に、彼の数倍の大きさの厳しい腕が付いている様は、かなり気色悪い。
完全に油断していたところに、クリティカルヒットをもらってしまった気分だ。脳が揺れる感覚……味わうのはいつぶりだろうか。世界の遠のく感じ……あまり好きではない。
だが。
「なんだい。楽しくなってきたじゃないか」
バヂィ! と鬼蓋の手のひらの中で紫電が迸る。戦蓄神器の下位互換とも言うべき鬼蓋の神器は、“触れる”という条件に加えて、一度にストックしておける能力に限りがある。
その分劣化度合いは戦蓄神器よりマシだが、敵の能力をコピーする度に戦略を練り直さなくてはならない。
けれど。つい先日手にしたこの能力は、どんな戦法ともよく合う……他の二つ名持ちを完封することさえ可能。
「仲間の能力で……ブチ負かされなァ!」
まずは、紫電を落雷の如く操り、軌光の周囲に降らせる。着弾地点を結んで出来る五芒星は、綺楼の神器とまったく同じ能力を持つ……即ち、異界の者の召喚。
加えて、鬼蓋が今ポーチにいれている小説。その中に描かれている事象を引っ張り出す……これは、狐依の能力。
(剛腕は正面に強いが……こういう搦手はどうだ……?)
ある種の実験でもあった。軌光の強さは及第点レベルではあるが、まだ幹部より弱い。本来工作や潜入が主な任務であるキャッツよりは強いが、戦闘用幹部には負ける。
こういった攻撃にどう対処するのか? 出来ないとしてもどのように自分の身を守るのか? それが見たい……
(もし何も出来ないようなら、やっぱり価値はな)
「何してんだおまえ。当てろよせめて」
一瞬五芒星が発光したかと思えば、なんの効果もなく輝きを失った。引っ張り出したはずの事象も、一瞬輪郭がブレた後に消える。地割れを引っ張り出したはずなのだが……
まさか。端から効かない? そんな馬鹿な、いくら劣化しているとはいえ、本家とそう差はないはずだ。今使った能力に日常的に触れている……否、それだけでは無効化など出来ない。病ではあるまいし、能力に耐性など付かない。
どうなってる。そういえば、【融滅】が何か言っていた。
『戦って分かっタけど、焔緋軌光は何か異常だ。単に相性の問題ジゃない……神器かな。ウん、神器がおカしい』
迫り来る剛腕神器を視界に捉え、最早回避は不可能だと悟りながら体重を移動させる。せめて、ダメージを流す。
『言語化は難しイな……そうだナ。格が違うってノかな?』
本領ではないが、【融滅】は神器に関する研究もある程度は手を出している。そんな彼女曰く、神器には段階がある。
それは装備者との相性云々でどうにかなるものではなく、その神器が誕生した時点で決定しているのだという。その中で、段階が進んでいる神器は……現在、四つ。
それが、【融滅】の観測出来た限界なのだという。地平に四つのみ、段階が他よりも先に進んだ神器がある。
(その中の一つがこれか、剛腕……!)
生まれるのは能力強度の差。その能力が及ぼす影響、他の神器とぶつかった際の勝敗の決定。段階が進んでいるというだけで、本来運と積み重ねのソレらが簡単に覆る。
劣化コピー如きでは届かぬか。ダメージを最大限殺しながらも吹き飛び、舌なめずりをする鬼蓋は軌光を見据えた。
「ふふ、いいねえ……運がいいのか、必然か。まさかこんなとこで戦うことになるとは思わなかったよ、まったく」
「なんかなあ、強い奴の言ってることは全部分かんねえ。おまえはある程度分かりやすいが……やっぱ、分かんねえわ」
今分かったが、軌光は両腕に纏わせた剛腕神器を肥大化させ、その状態で飛ばしている。それ故の超高速移動……肉体の方が耐えられている理由は、身体能力強化か。
とことん面白い。神器と共に生きるために生まれてきたかのような男だ。レギンレイヴを滅ぼした時……こっちと戦ってみたかった。あんな搦手集団ではなく。
「いいよ。様子見はやめだ。儂も本気で行くとする」
「おう、そうしてくれ。今あんま楽しくねえからよ」
ここからが本番だと、二人の目が告げていた。
第四試合は更に激化する。




