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第七十九話 第四試合

『第一ステージ最終戦は、我らが二番目の超新星こと、焔緋軌光と……何故参戦したのか!? +5のトップ、【幻凶】鬼蓋宗光! くぉれは熱い対戦カードとなりました!』


『楽しそうだなこいつ』


 最初の超新星は兎牙響。まさかの同じ部隊から二人もの超新星を排出したとして、リィカネル部隊は上層部からも注目され始めている。この第四試合も、少なからず観戦されていることだろう。無論、軌光本人はそんなこと気にしない。

 だが、今日の軌光は少し機嫌が悪かった。というのも、まさかの絆が敗退、更に基地内で職員を殺した疑いがあるとのことで、正式にエスティオンの敵と判断されたからだ。


 (折角話せると思ったのに……こんなのってねえぜ)


 恐らくはこのトーナメントで唯一、本気で最上第九席第一席の地位を目標として参加している軌光だが、試合開始前にまさかのアクシデント。雲行きはこれ以上なく怪しい。

 それに対する鬼蓋は、意外にも機嫌が良かった。キャッツの敗北は、さほど彼女の機嫌には関係がないようだ。


「ご機嫌ななめだねえ、焔緋軌光。儂は悲しいよ」


「んな顔には見えねえがな……心底、楽しそうだ」


 そうかい、と言って鬼蓋は笑った。二つ目の名を持つ者ということで、多少警戒はしていたのだが……思いの外取っ付きやすく、親しみやすい性格をしているようだ。

 無意識のうちにしていた警戒を解く。恐らくだがこの女、普通に気を遣わず会話しても問題はないだろう。


「なあ……一つ提案があるんだよ、軌光。ウチに来ないか」


 試合前の会話にしては、随分と重要な話題だ。

 少し考え込む素振りをする軌光。+5は、厳密には組織というより“都市”だと聞いている。旧文明を感じられるというその場所に、軌光も少なからず興味があった。


「……そこには、俺らのことを大事に考えてくれるリーダーはいるのか? 偏屈な本好きや、呪術大好きオカルト少女、変幻自在の鎧で戦う、明るいムードメーカーはいるか?」


「そんなピンポイントな奴は中々いないねえ……」


「そしてこれは……ああ、聞かなくても分かるんだが……」


 軌光にしては遠回しな言い方だった。

 最早軌光にとってのエスティオンは、興味一つで乗り換えられるほど軽い存在ではなくなっている。本当の家族のように大好きな人たちが、今も見守ってくれているのだ。


「俺の婚約者は、そこにいるのか?」


「……素直に言えよ、行く気はないってさ……」


 第四試合。焔緋軌光vs【幻凶】鬼蓋宗光。


 ――――――


 先手を打ったのは軌光だった。リィカネルの真似をした、地中から飛び出る肥大化した剛腕神器。地割れか視線か、少なくともそれを察した鬼蓋は即座に飛び退く。

 端的に言うと、鬼蓋の目的は強者の勧誘だった。楽園とまで称される+5は、年々構成員が戦闘に適さない変化を遂げていることが課題だった。最早他組織に対抗する戦闘力を持つのは幹部のみであり、攻め込まれれば危ない状況。

 軌光の実力は、【融滅】とレギンレイヴを滅ぼした時にある程度確認している。彼なら、勧誘するのに申し分ない……

 のだが、なんともまあ遠回しな断られ方をしてしまった。


 (ま、無理やり連れてっても意味ないか……それに、レギンレイヴを全滅させたこと……まだ根に持ってるだろうし)


 隠しているつもりだろうが、今の軌光の瞳には、少なくとも試合にかけるものではない感情が混じっていた。そんな人間が組織に来ても、不和の元にしかならないだろう。

 適当にブチのめして、適当に勝つとしよう。這い上がってくるだろうもう一人に、照準を定めた方が良さそうだ……


「考え事たァ余裕だな! えー……【幻凶】!」


「鬼蓋でいい。そっちの方が言いやすいだろう」


 アクロバティックな動きで、四方八方から殺到する剛腕を躱す。あの頃から一切変わらない攻め方……否、本体が動いていないことを考えると、退化すらしているだろう。

 少し悲しい。強者とは、進化するから強者だというのに。


 (……もういいか。まだ早いが、これ以上はつまら)


 腹部に衝撃。めぎゃ、と骨の数本がへし折れる音と共に、気付けば鬼蓋の体は地面にめり込んでいた。

 凄まじい力で、正面から押し倒されたような感覚。まだ飛燕の散布した酸の水分が残っているとはいえ、この枯れた大地に体をめり込ませるとは……どんな力をしている?

 視線を向けると、そこにいたのは軌光本体。先刻までは飛ばすだけだった肥大化した剛腕を、自身の両腕に纏って殴りつけていた。目で追うことも不可能な移動速度。

 実況の向こう側が盛り上がる声が聞こえる……どこか、夢の中のような声だ。ああそうか、聴覚に異常が。


「余裕だなって……言っただろ、鬼蓋。余裕ぶりすぎて、黄燐の言ってた、こっ恥ずかしい紹介も聞いてなかったか?」


 ゼロと黄燐の見解は基本的に一致しないが、これに関してだけは完璧な一致を見せていた。焔緋軌光の実力の根源。

 他に類を見ない神器適性による、圧倒的な能力強度と身体能力強化。素の反射神経や動体視力といった機能の高さ、そして何より……ゼロすら驚愕するほどの、戦闘センス。


「二番目の超新星、ってなァ!」


 焔緋軌光が先手を打った。

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