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第七十六話 神器ドーピング

現状【神器ドーピング】が可能とされているのは、無数の神器を装備している十字架の少女、イヴ。そしてそれをコピーしているゼロ。百種の神器を内包するEvil angel、そして無数の劣化コピーを保有している絆の四名である。

 その中でも絆は強化倍率が低く、神器ドーピングでさえ劣化版とされるが……それに関しては、大きな問題ではない。

 そこに、大した差はないのだ。


「へえ……昔、ゼロと戦った時に見たきりだな」


 この事象を神器ドーピングと言い出したのは、その実【楽爆】なのだ。暴走していた彼を止めるためにゼロが戦い、その後に【楽爆】が神器ドーピング、という単語を出した。

 いくつかの制約はある。まず、能力が使えなくなる。ただでさえ無理をした神器装備、その身体能力強化の部分のみを強くするのだ。その上能力まで併用して体と脳に負担をかけるとなると、即座に体細胞が崩壊してもおかしくない。

 次に、使用後は動けなくなる。限界まで神器ドーピングをしていた場合、終了後は肉体が人間に戻るために、一定時間の動作停止を必要とする。これは本人の意思とは無関係に訪れる現象であり、無視出来るのはゼロのみとされる。

 ……というのが、通常の神器ドーピング。


「僕のは少し違いますよ、【楽爆】さん。神器の負担を戦蓄と分割出来る僕は、ここから能力を使うことが出来る」


 そもそも絆の神器ドーピングは、戦蓄神器の中にある劣化コピーの情報を元に行うもの。本来であれば、絆への負担がまったくない、というのが正しい状態である。

 それでも絆本体にまで負担が漏れ出るほどの強化。流石の【楽爆】も、手抜きをしていては殺される可能性がある。


 (つーか……流石五柱だな、チートだぜこんなん)


 これは、絆が隠してきた切り札の一つ。能力のみをコピーすると思われている戦蓄神器だが、実はそのコピーした神器との相性次第で、身体能力強化まで引き継ぐことが出来る。

 当然、相性のいい神器などそうない。だが、戦蓄神器は形ある情報の塊。神器適性をある程度操作する方法は分かっているし、“絶対に無理”な相性でない限り、全ての神器から身体能力強化を抽出可能。現在は三十種から抽出している。


 (まーでも……こいつが素人のガキってことに変わりはねえんだ。冷静に対処すりゃあ、完封は容易いだろうなァ)


 舌なめずりする。【楽爆】が人生の中で唯一、使命のために戦っている……それでも、根っこの部分が戦闘狂であることに変わりはないのだ。興奮するのも当然のこと。

 どう来るか……酸とか、そういう生ぬるいものが通用しないことはもう分かったはず。であれば、神器ドーピングにより爆発的に向上した身体能力で攻めてくるか、単純で分かりやすく、効果の大きな攻撃効果を持つ能力を使うか。

 あるいは……


「その、両方か!」


 絆の踵から噴出する炎が、前傾姿勢になっていた彼の体重移動を加速させた。像が霞んで見えるほどの速度で突進した絆は、即座に神器能力の一つを解放する。

 手のひらから氷を生み出す、凍氷神器エレグレグ。

 これは、グレイディの用いる【氷塊侵食】の原型となった神器である。手のひらを起点として氷を生成し、接触により伝播させていく。装備者との相性にも依るが、やりようによっては旧文明基準で一都市を一瞬で氷漬けに出来る。

 劣化コピーではその性能がガタ落ちし、せいぜいが触れた場所に残り続ける程度のことしか出来ないが、ほぼ生身の肉弾戦闘を行う【楽爆】にとっては……厄介極まりない。

 絆が狙ったのは首の一点。鋭い刃の形状に生成した氷を、刺突で用いる。果たして、【楽爆】にこれを防げるか。


「……っはァ! まだまだ、まっすぐすぎるぜェ!」


 【楽爆】の背後で、蛇のように蠢いていた鎖。ソレが【楽爆】の体に絡みつき、凄まじい勢いで後方に引っ張った。絆の刺突は空振り、隙だらけの体勢を晒すことになる。

 そして、鎖は更に別の形状へと変化する。全てが臨界状態のまま、蜘蛛の巣のように両者の中間に張り巡らされた。


「さ〜あ、どうする? 被弾覚悟で突っ込むかァ?」


「……いいえ。そうならそうで、別の手があります」


 穿孔神器ドリラドルラ。あの前最上第九席第一席、ジェイツ・シルヴェスターの神器である。絆の背負った戦蓄神器から銃身の伸びたソレは、【楽爆】の心臓を照準する。

 如何に隙間なく展開されようと、所詮蜘蛛の巣は蜘蛛の巣である。どこか、銃弾が通るほどの間隙は存在する。


 (……そこ、です!)


 銃身を回転させながら射出する。完全に思い通り、とはいかないが……ある程度、銃弾の軌道を歪めることの出来る技法であった。正確に撃ち抜く。その心臓を……!


「残念。それじゃ及第点すらやれねえなァ」


 被弾覚悟で突っ込むかァ?

 爆裂神器ネグレイルは、接触により爆発を引き起こす神器である。【楽爆】のそのオンオフを設定出来るが……今は、オンにしてあった。彼自身が触れても、爆発は発生する。

 蜘蛛の巣をブチ壊しながら突進し、肉薄する。単純な反射神経の差と衝撃により、絆は反応すら出来ていない。

 自身が傷付くことすら厭わず、爆風で銃弾の軌道を逸らしたのだ。皮膚の爛れた手が、絆の首を掴む。


「つっかま〜〜……えた♡」


 命に、手が届く。

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