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第七十五話 戦蓄の戦い方

神器の用途は多種多様であり、神器部隊にも前線で戦う者と、後方から支援する者がいる。五柱は前者のパターンが多いとされるが……戦蓄は、圧倒的に後者に寄っていた。

 装備者又は神器そのものが蓄積した知識や情報を、任意の者に開示する能力。そして、神器の能力を劣化コピーすることも出来る。しかしこのコピーの“劣化”は効果が大きく、例えばガイアネルをコピーしても、操れる地面は拳ほどの面積しかない。戦蓄神器は、戦うための形をしていない。


「それでも……あなたは、殺せると思いますよ」


 絆が戦蓄神器と適合してから、まだそう時間は経過していない。だというのに彼は、アスモデウス全員分と、フリーの神器使い。友好的な関係を結ぶことが出来た組織の構成員等々……三桁にもなる神器の能力をコピーしていた。

 常々思う。神器は神の名を冠するほどに強大な兵器であるというのに、何故こんなにも数が多く、また適合する者もいるのか……これだけは、戦蓄の記憶にもなかった。


 (……ま、今はどうでもいいんですよ、そんなこと)


 絆の戦法は、簡潔に言えば複合。劣化とはいえ能力は能力なのだ。一人一つしか装備出来ないはずの神器を、一人で三桁も装備している……同時使用だけでも大きな脅威だ。

 これは、Evil angelから着想を得た。百種の神器が混ざっているあの超兵器は、正に動く厄災というのが相応しい。


「ほぼ生身のあなたが……これに、耐えられますか?」


 拡酸神器プルグシュルケ、乱立神器ポグラポーン。前者は装備者の触れた場所に酸の性質を与え、後者は視界内にある立体物を、劣化版では最大五個まで複製する能力。

 これを同時使用し、視界内の石ころや砂利を複製、その全てに酸性を与える。そして、それだけではない。

 酸性を与えられた石ころや砂利は、表面が濡れている。プルグシュルケの与える酸性は、液体の性質を孕む。


「まずは動ける場所を狩る。そして、次に……」


 同調神器ユニゾケルズ、照陽神器ラグラ・サン。前者は、特定の性質を持つ物体に触れている時、それを大気中に拡散する能力。そして後者は、超々高温の擬似太陽を作り出す能力を持っている。これが、何を引き起こすか……

 急激に温度が上昇し、気化した酸が上方へ向けて立ち昇ることとなる。なんの防護もしていない【楽爆】では


「なーんかよお、甘さが抜けきってねえなあ」


 立ち込める酸の霧の向こう側から、赤熱した鎖の先端が飛来した。咄嗟に反応はするが手首に巻き付き、意思を持ったような絡み方をしたソレは絆では外せない。

 爆裂神器ネグレイル。接触をトリガーとして起爆する能力を持った、鎖状の神器である。この赤熱は、爆発の前兆であると同時に……これより殺す敵への挑発、嘲笑である。

 酸を用いてまでして外そうとするが、どんな投げ方をしたのか知らないが外れる気配がない。一直線に突き進んできたくせに、どうすればこんな巻き付け方が出来るのか。


「何するか、何したか……わざわざ敵に教えるってなあ、まだまだ弱ェやつとしか戦ったことねえだろゥ!」


 背後から熱、鉄の臭い。先刻からこの腕に絡んでいる鎖はまさか……フェイクか! より煌々と赤く輝く鎖は、正に臨界。数十メートル離れた位置でも、こんなものが爆発すれば致命傷足り得る! 酸の煙幕を、逆に利用された!

 断崖神器ガンガニル、自身の立っている場所を上として、断崖を作り出す能力を持つ。背後から迫る鎖と無理やり位置を引き離す。手の鎖は、許容範囲として受け止めるか……!


「っとう、今どき神器オンリーのが珍しいなァ」


 しかし、絆の肉体を傷付けたのは爆発ではなく、【楽爆】の膝蹴りだった。鎖の片方が、ではない。鎖はどちらもフェイクだった。【楽爆】の屈強な肉体が、加速力を付けて突進してくる……それも、膝の一点が顔面に突き刺さる。

 脳へのダメージは、尋常ではないものとなる。咄嗟に体内に関する防御を可能とする神器の能力を発動したが、それでも間に合わず脳と首の骨に与えられた衝撃が消えない。


「な、中々……フェイクだらけの、戦い方を」


「何言ってんだ、普通こんぐらいするもんだ。おまえらの考えなしな戦い方の方が、俺からしたら信じられねえ」


 これも時代の流れなのかもしれねえがな、と【楽爆】は笑って見せた。確かに、絆の閲覧した記憶にもある、神器大戦争時代ならば……これぐらい技巧を凝らさねばならないだろう。生きることが死と同義。それほどの時代だったのだ。

 今のような弱くなった人間が、果たして魔神獣に勝てるのか……それは疑問だが、人間お得意の文明でなんとかするのだろう。人は、最初から文明ありきの進化をしている。


「ふふ……強者の言うことは、ふう。違いますね。しかし僕としても、そんなあなたを殺してみたくなった」


 酸、なんて回りくどい真似はやめだ。どうやら【楽爆】は酸の霧の中を突っ切っても、まったくダメージを受けないような体をしているらしい……正面から、攻略する。

 出し惜しみなし。コピーした能力の全てを用いる。攻撃する隙など与えずに……完膚なきまでに殺してやる。


「さあ。ここからが本番ですよ!」

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