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第七十四話 第三試合

「斥腐黒雪……いえ、こう呼ぶべきでしょうか」


 第一試合と同じ場所で第三試合は行われる。屋外に設置された選手控え室の中で、絆と斥腐は向き合っていた。最初はどんな会話が出来るか楽しみにしていた斥腐だが、今は後悔している。面白半分で推薦していい人間ではなかったと。

 傍虎絆、五柱の一つである戦蓄神器に選ばれた者。それと同時に、斥腐から強制適合させられた者でもある。

 無限に知識を蓄積する能力を持つ戦蓄神器は、斥腐の予想に反して絆に適合する前の知識も保存していた。即ち、魔神獣の真実……世界が崩壊する必要があった、理由。


「フェーブル・シアリス……人類史における大罪人」


「好きに呼べ……なんにせよ、罪は消えん」


 しかし忌々しいことに、戦蓄が絆と適合して良かったとも思う。これ以上性格が合っている者もいないだろう。


「あなたには感謝していますよ。何せ、僕に全てを教えてくれたんですから。だからほら……こっちを向いて」


 知らぬ間に目を逸らしていたのだと気付いた。斥腐……かつての名を、フェーブル。あの日々を思い出すと、何もかもを知っているのだろう絆の目を見ることが出来なかった。

 罪。世界を滅ぼした罪、というのもあるが……あの子たちを神にしてしまった罪。今も尚、未練たらしく生き延びている罪……ああ、生きていることさえ苦しくなってくる。


「あなたは、ウィズダムを生き返らせる。真の楽園を再構築する。そうでしょう? 大丈夫、僕は一切邪魔しません」


 ただ……と続ける。試合開始五分前。

 控え室の扉を開けて、斥腐に向けて微笑む。この大罪人はまだ苦しまなくてはならない……そう、思いを込めて。


「僕のしたことが邪魔になる可能性は、ありますけどね?」


 ――――――


「また可愛らしい嬢ちゃんが……ディヅィとは違うな」


「あんな暴力女じゃないのだ〜。一緒にするななのだ〜」


 最悪の雰囲気だった絆の控え室と違って、【楽爆】の控え室は平和そのものだった。子供好きな【楽爆】と、物怖じしない子供らしい性格の海華。相性は抜群だった。

 ほのぼのと、これといった話題もなく会話が弾む。これから戦いに行く、最悪の場合は殺し合いになる男が出すような雰囲気ではなかったが……まるで、親と子のようだった。

 試合開始時刻が近付き、【楽爆】が立ち上がる。純粋に最上第九席になりたいのだろうと思っている海華は、満面の笑みで送り出した。勝って欲しくはないけど推薦者としては応援してるのだ〜、と素直な感情を吐露する。

 笑みで返して、【楽爆】は試合場に歩を進めた。彼の目的はただ一つ……正しい順序で世界を進めること。


「行ってくるぜ、お母ちゃん」


 エスティオン基地の地下に視線を送り、手を振った。

 第三試合、傍虎絆vs【楽爆】。


 ――――――


「人為戦争。あなたには、この意味がわかるでしょう」


「おじいちゃんのシナリオだな。人が起こし、英雄を選定するための戦争。そろそろおっ始まる頃だろう?」


「ええ。しかし、僕にはどうも……これが必要に思えない」


 試合開始前の、選手同士の軽い雑談だ。と言っても、世界の辿った歴史を知り、それ故にこれから辿るであろう未来も知っている絆と、その全てを“視た”【楽爆】の会話は……

 アンタレス越しに聞いているほとんどの者が、一ミリも理解出来ないような、意味不明なものであったが。


「どうでしょう。神の子であるあなたなら、きっと賛同してくれる……人為戦争を無視し、神々との戦争をしましょう」


「お断りだ。アレは、正しく戦うべき英雄が選定されているからこそ戦争足り得る。飛ばせばただの虐殺だ」


 絆が何故トーナメントに参加したのか……否、エスティオンと接触したのか。それはひとえに、焔緋軌光に接触したいが故なのだろう。五柱の一つに伝えたいのだろう。

 おまえが鍵になるのだと。

 ならばこの、神の子たる身は……それを阻止するために戦うとしよう。【楽爆】の名を与えられて久しい……しかして母から与えられた本当の名前を胸に、拳を振るおう。


「……残念です、【楽爆】。あなたを殺す意味が出来た」


「俺は最初からその気だぜェ。コソコソしてやがる五柱の一つを奪い、人為戦争で選ばれる英雄を増やさなくちゃなあ」


 二人とも、最早これが最上第九席の一人を決定するためのトーナメントであることなど忘れている。ただ、世界のこれからのために……全力で、殺し合う気でいる。

 ジャラジャラと鎖を纏った拳を打ち鳴らす。絆も背負った戦蓄神器に接続し、深く深く、息を吐いた。

 この世界の、過去を視た者。その存在にとって、今生きているこの世界こそが地獄である。奪ってきた命が、奪うしかなかった命が、早く死ねと叫んでいる。声が聞こえる。

 それでも、生きる。せめて、母から与えられた使命を果たすまでは。動けぬ母と人形に代わり、この敵を殺す。

 人と人の戦争を引き起こす。そのためにだけ、死ねる。


「我が二つ目の名は【楽爆】。そして、神の子」


 英雄を選定する。全ては、魔神獣を殺すために。


「一つ目の名を、焔緋軌光。おまえを……殺す」


 第三試合、開幕。

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