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第七十三話 最後に立つ者

先に仕掛けたのはキャッツだった。冷えた頭脳で思いついた必勝の戦法がある……二連カウンター。自身の攻撃に合わせてくるであろうリィカネルのカウンターに、更なるカウンターを合わせる。一瞬の判断が、勝敗を分けることとなる。

 極限状態の影響か、先刻までは悟らせることすらなかった踏み込みに、リィカネルが星殻武装の強化を合わせてきた。一撃目でヒビを入れ、二撃目で破壊する必要がある。


 (合わせてくるといいにゃ……にゃあも、合わせるにゃ)


 接触。今度は騙されない。リィカネルの星殻武装の最大強化は、インパクトの瞬間に行われた。心臓を中心としてヒビ割れていく星殻武装が、リィカネルの動作に合わせて完全に砕け散る。限界まで身を捻るが、命中したのは、肩。


「オーバー・ブレイク……!」


 バギャン! という、思わず顔を顰めてしまうほどに痛々しい音が響く。放置すれば、二度と治らないだろう……しかし、それでもいいと思っている自分がいた。

 ここで勝てるなら、腕の一、二本。幹部としての意地を突き通せるのなら、そんなものは失っても構わない。


 (終わりにゃ、リィカネル・ビット……!)


 瞬間的な加速。一秒も経過しない内に急停止。リィカネルや観客からは、一瞬だけキャッツの像がブレたようにしか見えないだろう。付け焼き刃のような後押し……それでいい。

 黒フォルムのバネは、全方位に対応している。肩を破壊するほどの衝撃、載せれば凄まじい威力となるだろう。

 指先ではない。リィカネルの懐に潜り込むようにして、肘を心臓に合わせている。幸運なことに、キャッツの身長はリィカネルより僅かに低い。最も合わせやすい位置。


「オーバー・ブレイクは……星殻武装の必殺技、さ」


 確かに胸骨を破壊した感触があった。折れた骨のいくつかは、確実に臓器に突き刺さっているだろう。何故そんな状態になってまで立っているのか……若さ故、か。

 それとも、熱い熱い、友情物語なのだろうか。


「飛燕ladyの提案でね……先端を尖らせることにしている」


 極限まで小さくしたガイアネルの質量は、一グラムにも満たない。星殻武装はその全てが土塊であり、ガイアネルの支配下にある……表面だけの流動は朝飯前だ。

 手の内に、ガイアネル本体を移動させていた。キャッツが潜り込んでいるが故に、天高く翳したその手は見えない。


「君の生命力が高いことを願っているよ」


 振り下ろす。脊椎を完全に破壊する一撃だった。

 第二試合。勝者、リィカネル・ビット。


 ――――――


「いい試合だったぜリィカネル〜! とりあえず早く医務室に行くんだ早く! 飛燕も精密検査受けてっからよ!」


「軌光boy……あの、なんでそんなやかましいの……」


 接戦だった。こんなにも白熱した試合を、戦闘を、軌光は見たことがなかった。リィカネルが死にかけていることよりも、その大迫力の戦闘に子供のように釘付けになっていた。

 試合中に彼が発した言葉は、全て聞こえているし覚えている。再戦を望むというなら、いくらでも戦ってやろう。

 そしてそのためにも……第四試合、【幻凶】との試合。絶対に勝ってやろう。相手は二つ目の名を持つ者、一筋縄には行かないだろうが……根性さえあれば、必ず勝てる!


「あそうだ、キャッツって結局誰だったんだ?」


「さあ……でも、少なくともフリーじゃなさそうだった。そして……僕とは違う、熱い闘争心を持っていたよ」


 味方になれば、これ以上なく頼もしいだろうね。とリィカネルは告げた。それは、試合を見ていた軌光も思っていた。

 リィカネルの、軌光との再戦に向けた戦意は少し怖くなるレベルだが……それでも、あれほど強い意志は、誰でも持てるものではない。そしてそれは、そんなリィカネルに対抗してみせたキャッツも同様。強い意志があったのだろう。

 今は、飛燕とは違う医務室にいるのだったか。エスティオンの人間とそれ以外の人間は、医者や支援用神器使いの安全を考えて、別の場所で治療する手筈になっていた。


「お、次絆の試合じゃねえか! 悪ぃリィカネル、俺そろそろ戻るから……しっかり、無理せず休むんだぜ!」


 傍虎絆……聞かない名前だが、軌光の顔見知りらしい。試合開始前から、第三試合も特に楽しみにしていた。

 走り去るその背中に手を振って見送る。黄燐の部下が観戦用のアンタレスを持ってきてくれて、それ以降誰かが来ることはなかった。少し微睡んでしまうほどの静けさだった。

 軌光は、どれぐらい強く再戦を望んでいるのだろうか。いや、もしかしたら彼は望んでいないかもしれない。あの喧嘩も今回の再戦も、言ってみればリィカネルの一方的な感情。

 ……受け入れて欲しいと思う。シュヴェルビッヒとは違う方法で道を示してくれた、初めての友達……彼と、もう一つの決着を付けておきたい。手札は全て見せた、不利な戦闘になるだろうが……そんなことは、最早どうでもいい。


「僕が、もう一歩前に進むために……君は、受け入れてくれるだろうか。軌光boy……僕の、唯一の、親友……」


 微笑みながら、夢の世界に旅立った。

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