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第七十一話 斑模様の白黒猫

「ごぶっ……か、にゃ、ふふ、にゃあ……」


 流石に危なかった。無敵の柔らか受け流しは、キャッツの神器の能力だ。身体の内部と外部を完全に遮断し、与えられた影響の相互不干渉状態を強制する能力を持っていた。

 これにより、どんな攻撃でもキャッツにとっては痛いだけとなる。肝心のダメージが、致命になり得ないのだ。


 (もう少しで、能力が破られてたかもにゃあ……)


 当然ながら限界はある。オーバー・ブレイクだったか……凄まじい威力だ。アレを土壇場で思いついたのだとすれば、リィカネルの潜在的な戦闘能力は自身をも凌ぐ。

 天才、というやつかもしれない。そもそも天才とは得てして奇抜、奇異な思想を持つものだ。予想は出来たか……


「まだ使えるにゃね……かふっかふっ、ちょいと内臓が傷付いたにゃあけど、アレをもう一発は流石に……ないにゃね」


 吹き飛ばされた時の土煙がまだ晴れない。リィカネルの姿が見えないが……アレは、彼の肉体損傷をも厭わない超絶の一撃だ。もう、この試合でオーバー・ブレイクは撃てないと思っていいだろう。そして、アレ以外の攻撃でキャッツにダメージを通すことは出来ない。リィカネルは……詰みだ。

 今後ぶつかる可能性の高まったエスティオンの戦力を探るというのが、キャッツの役割だった。あわよくば勧誘しようとも思っていたのだが……方針を変えるとしよう。

 リィカネル・ビットはここで殺す。まだまだ詰めの甘い部分はあるが、これ以上成長すれば大きな脅威となる。


「悪く思うにゃよ……そもそもこの世界は、弱肉強食にゃ」


 歩き出す。確実にトドメを刺せる確証もないのに大技を撃った、その油断が命取りだ。恨むなら、殺してもいいというルールを作ったトーナメントの運営を恨むことだ。

 土煙の向こう側で、リィカネルは立っていた。土色の星殻武装はヒビ割れて、今にも崩れそうなほど脆く……


 (おかしいにゃ。あの時武装は確かに……)


「主は昼と夜を分割し、天と地を人にくだされ。豊穣たる太陽はしかして我らを見放し、死の具現たる夜は闇となった」


 我、大地を背負う者也。神のくだされたものを握りしめ、主の敵を討つ者也。我、大地の守護を担う者也!


「オーバー………………ブレイクァァァアアアアアア!!!」


 再構築が間に合った。朧気な意識の中でガイアネルの能力を駆使し、ボロボロの肉体にボロボロの星殻武装を纏わせることに成功していた。今にも崩れそうな脆さだった。

 けれど。その一撃を放つことは出来た。拡張した限界を破壊し、必滅の拳を放つ。名を、オーバー・ブレイク。

 リィカネルの生身の拳が突き刺さったまま、キャッツは直立不動で停止していた。呼吸による胸の動作もなく、ほんの僅かに指先が動くようなことも……なかった。

 その代わりに、美しい白だった髪の色が変わっていく。深く深く、深淵の黒に。瞳は赤く光り始めた。


「油断、油断……ゴロァ、油断してた……にゃ」


 指先を下に向けた手のひらが、リィカネルの腹に添えられる。バギン! と地面の割れる音がして、一瞬その手が揺れたかと思えば……今度はリィカネルの方が吹き飛んでいた。

 この時、鬼蓋は呟いたという。「勝った」、と。


「アル姉と、タンバ姉と……あと、ドール姉。組長は例外として、この姿を見せたのはおまえで四人目にゃ」


 正式名称がないので、黒猫フォルムと呼んでいる。

 キャッツの神器は、彼女の性質に合わせて鬼蓋他+5の技術者がある程度手を加えている。普段のムカつくほどおちゃらけた性格と、追い詰められた時の狩人のような性格……これらを最大限生かすために、二面性を与えられていた。

 黒白神器ビーニャスト。究極の防御と攻撃の二つの性質を併せ持つ、キャッツ専用の特殊武装でもある。


「こうなればもう死ぬしかないにゃ。せめて、内臓を一撃でぐちゃぐちゃにして……苦しませずに殺ってやるにゃ」


 今度は再構築が出来ていない。鋭い爪の生えた手を腹に添えて、腰を深く落とす。腹に穴を開けてやろう。

 リィカネルに反応はない。武装も何もない場所に、キャッツの全体重+筋力を加えた衝撃を受けたのだ……気を失わない方がおかしいというもの。心臓の鼓動も弱々しい。

 リィカネル・ビットは死ぬ。いい戦士であったと……


「負ける訳にはいかない。軌光boyが待ってるんだ」


 バキャキ、という音はキャッツの腕が折れた音。予備動作もなく放たれた蹴り上げが直撃していた。

 ビーニャスト黒猫フォルムは、各所に取り付けられたバネが衝撃を伝導させる。それによる攻撃に全てを注いだ超攻撃的なフォルム……要するに、防御力はないに等しい。


「僕は大地を背負う者。獣如きに……負けはしない」


「……生物に蹂躙されるだけの土塊が、調子に乗るにゃよ」


 腕一本と脚二本。それ以外の全てが万全。白猫フォルムの時のような、無敵の柔らか受け流しはもう使えないが……どんな攻撃も、まず当たらねば意味はないのだ。

 それに比べてリィカネルは、四肢こそ無事であるものの、全身がボロボロ。骨など、小突いただけで折れる。

 どちらが勝つか……考えるまでもない。


「「最終ラウンドだ」」


 正面衝突。

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