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第七十話 限界拡張

インターネットの発展していた旧文明では、まるで液体のようだとも言われていた。小さな穴や隙間からひょこんと顔を出し、じゃれる姿が実に愛らしいとされていた。

 高々度から落下しても、条件が揃えば無傷で着地できる柔軟性。どんな場所でも入っていける液体のような性質。そして何より、【最高のペット論争】で犬と争うほどの超人気癒し生物……今は絶滅したその生物を、【猫】という。


「ニャヴ、鋭い……でも、にゃあには効かないにゃ」


 星殻武装の一部破損と引き換えに放つことが出来る、超高火力の正拳……リミット・ブレイク。ガイアネル本体がある限り、武装の再構築は容易。デメリットをデメリットにしない、というのも……リィカネルにしては天才的な発想。

 ソレを背骨に沿ってモロに受けたキャッツは、海老反りの姿勢で吹き飛んだ。殺したか……? と不安になるほど気持ちのいい吹き飛びぶりだったが、声に異常は見られない。


 (それもそれで、不安になるんだけどね……)


 兎牙の武装に叩き込んでも、内部にダメージを貫通させることが出来ると自負している。それを軽装で、ほぼ生身で受けながらダメージがない……いくらなんでもおかしい。

 土煙が晴れると、そこには多少衣服の損傷はあるものの、肉体には一切のダメージが見受けられないキャッツがいた。ポキポキ首を鳴らして、舌なめずりしながら笑っている。


「吾輩に吾輩としての名はいらず……にゃふ。我が二つ目の名はキャッツ。旧文明のある大国における意味は……猫!」


『それはキャットだ』


「うるさいにゃよ解説! にゃあが猫と言えば猫にゃ!」


『あたしじゃねえよこいつだよ』


『月峰くんに英語が分かる訳ないじゃないか』


『おまえ覚えとけよマジで』


 実況解説の茶番が混じったが、だからといって理解出来る訳ではない。決めポーズで言い切ってもらったところ悪いのだが、だからなんだ、という感想しか出てこない。

 そもそも猫とはなんだ。聞いたこともない。


「猫は柔らかいにゃ。膝ほどの大きさもない本家猫でも、驚くべき柔軟性にゃ。それがにゃあほどの大きさにもなればどうなるか……にゃふ、無敵の柔らか受け流しが可能にゃ!」


「無敵の柔らか受け流し」


「にゃあへの攻撃は無意味無意味にゃ。なにせ、バネのようなにゃあの体は無敵の柔らか受け流しを会得してるにゃ!」


「無敵の柔らか受け流し」


 なんともまあ直球的なネーミング。率直にダサい。

 だが……馬鹿にすることは出来ない。先刻のリミット・ブレイクをソレで受け、今の無傷状態があるのだとすれば……恐るべき柔軟性。レギンレイヴ流に近い何かを感じる。

 にゃふ〜! と叫びながら様々なポーズを披露し始めるキャッツを見つめる。何がしたいのか分からなさすぎて何も出来ない、というのが正しいのだが……やはり、一切のダメージを感じさせないその動きは驚愕モノだ。

 無敵の柔らか受け流し……馬鹿みたいな名前だが、防御術としては今まで見聞きした何よりも凶悪かもしれない。


「さあ、もっと打つにゃ。にゃあの無敵の柔らか受け流しが追いつかないほど殴れば、ワンチャンあるかもにゃ?」


「じゃあ、お望み通り……やって、やるさ!」


 小型化したガイアネルを常に地面と接触させ、リミット・ブレイクを放ちながら同時に再構築する。関節が軋み出しても痛みを堪えて、とにかく放ち続ける……が。

 キャッツは、笑いながらその全てを無効化する。


 (……このまま疲労すれば、僕がやられる。何か特大の一撃をぶつけて、ノックアウトしなければ……)


 考えろ。キャッツにダメージを通す方法を。

 酸素が足りない、頭が回らない。半自動的に放っている拳の威力も、段々と下がってきている。呼吸穴が小さい。

 こんなところで、疲労したところを突かれて倒されてしまうのか? こんな、訳の分からない相手にやられるのか? 焔緋軌光との再戦が……こんなところで、こんなところで!


「やって、やるさ……僕は、勝たなきゃ……」


 うわ言のように呟く。これは、ケジメだ。

 在り方を示してくれた軌光に報いる。かっこいいところを見せて、「やっぱり間違ってなかった」と言わせる。

 負けるものか。絶対に、キャッツにダメージを通す……!


「限界を、越える……更に、限界の大きさを上げろ……!」


「……何が」


 余裕の笑みを浮かべていたキャッツも、その異常に気付き始めていた。リィカネルの拳の威力は明らかに下がって来ているが、湧き上がる闘志、情熱は……燃え盛っている。

 星殻武装から煙が噴き出る。熱の奔流が、内部で発生しているのだろう……熱を孕み、武装が赤熱し始める。


「いいや、何を。何をするつもりにゃ、おまえ!」


「リミット、拡張……」


 ああ、何を勘違いしていたのか。

 限界など、勘違いも甚だしい。あくまで機能としての限界を越えたからなんだというのか。この武装を纏った人間としての限界を、今こそブチ壊して、更に高みへ至る……!


「リミット・オーバー……!」


 すくい上げるような一撃。キャッツの体が浮かび上がる。

 終わりではない。最初の土色は消え、完全な赤となった武装が壊れ、奥底から覗くリィカネルの瞳が……キャッツの、衝撃に歪んだ顔を見た。其は崩壊と引き換えの一撃。


「オーバー・ブレイクァァアアアアアア!!!!!」


 拡張した限界さえも突破して。

 ドグァン! と轟音が轟く。

 その、結果は。

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