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第六十九話 リミット

「にゃふ? 君ィ、結構イケメンニャねえ」


「……なんだその気色の悪い喋り方は。ああいや、別に否定するつもりはないんだが……本能的なものというか……」


 ルール説明や解説の紹介は不要。第二試合はエスティオン基地内の戦闘用広場で行われていた。非戦闘員への被害も考えて、観戦はやはりアンタレスの端末経由で行われる。

 本来、リィカネルが試合に出る理由はもうない。部隊内での役割を認識出来た今、こうして立場を得ようとする必要はないのだ。では何故棄権せず、こうして試合に出るのか……それは、軌光ともう一度、全力で戦うためだ。

 そのために、勝ち進まなくてはならない。どんな敵でも薙ぎ倒す! という気概で望んだのだが……これは。

 目の前にいる相手選手は、モフモフした尖った耳や尻尾を付けた、糸目の女。動きは一々ヌルヌルしていて、喋る度に「にゃ」だの「にゅふ」だの言う……鳥肌が止まらない。


「にゃふふ、これは個性みたいなもんにゃ。それよりイケメンにゃねえ……にゃーといっちょ番にならないかにゃ?」


『てめブチ殺すぞクソアマこっち来いやコラァ!』


「凄いね、端末越しに狐依ladyの声が聞こえるよ。そしてその提案は……丁重に、お断りさせてもらおうかな」


 初めては、最愛の人に捧げると決めている。

 これ以上戦闘意欲が失せる前に、さっさと決着をつけるべきだろう。リィカネルはそう判断し、ガイアネルを構えた。キャッツもにゃふ、と笑い、拳を構えた。徒手格闘か。

 まずは小手調べから。ガイアネルを地面と接触させ、無数の土の棘を飛ばす。全方位から襲い来る攻撃、果たして。


「にゃふう、なーんか違和感あるにゃんねえ」


 口、手足、脇や股。体中のありとあらゆる構造を用いて、キャッツは全ての棘を掴んでいた。傷一つなく、顰めた眉間は疲労やダメージによるものではないと一目でわかる。


「君ィ、違うねえ。最近別の修行したにゃんねえ? にゃーの嗅覚が、もうその戦い方は古いと言ってるにゃあ」


 感嘆。どうやって見抜いたのか。

 軌光と再戦するのが目的なのだ。当然ながら、前回とまったく同じ代わり映えのない戦い方はしない。彼の度肝を抜くための、新しい戦法を考えている。

 この試合の前もその練習をしていた。軌光に見られているので使いたくはないのだが、万が一もある。

 まさか、敵の方から指摘してくるとは思わなかった。


「見せてみろにゃ。にゃーは全力で戦いたいにゃあ」


「言うね……なら、一つだけ教えて欲しいことがある」


 ガイアネルを垂らし、地面につける。それは攻撃動作ではなく、キャッツのいう“全力”で戦うための行為。

 自惚れかもしれないが、リィカネルが新たに生み出した戦闘法は危険極まるもの。生半可な覚悟で使っていいものではないし、相手にも使われる覚悟をしておいて欲しい。


「君はなんで、このトーナメントに出ているんだい」


「にゃーは……ん〜、そうにゃねえ。最上第九席とかは何一つ興味ないにゃけど、にゃー自身の目的があってにゃ」


 ポリポリ頭を掻いて、言葉を紡ぐ。


「まあ、うん。強い奴と戦いたい、それだけにゃ!」


 濁したな、とリィカネルは思った。これはアレだ、本当の目的は違うけどニュアンスとしては正しい。教える訳にはいかないから、とりあえずこう言っとこう、というアレだ。

 ……別にいいか。こんなふざけた人間でも、一目でこちらの状態を見抜く程度の目は持っている。少なくとも、弱者ではないことは明らか。使っても、問題ないだろう。


「なるほど。いい理由だね。じゃあ、見せてあげよう」


 星殻武装、とリィカネルは名付けた。自身の神器の名前と兎牙の神器から着想を得て、外見のみならず内部構造にまで拘った特殊武装。その全てが大地から構成されている。

 呼吸用の穴と視界を広くするための穴以外に、肌の露出はない。棘々しいフォルムは、実に攻撃的だ。

 ガイアネルの正式名称は蒼星神器ガイアネル。リィカネル自身、この神器のことを深く理解しようとしたこはこれが初めてだったので、気付かなかったが……ガイアネルにはもう一つ、更に大地操作の能力を強くする機能があった。

 それが、材質変化。大地のどこかに眠っているものであれば、どんなものにでも材質を変えることが出来る。


「説明する必要はない……でも、これは僕が今まで作ってきたものの中でも、群を抜いた傑作でね。少し説明させて欲しいんだ。いいかな……いや、答えはいらない。説明する」


「にゃーも大概にゃけど、おまえもマイペースにゃね……」


 星殻武装の構造は、単なる鎧のような武装というよりも機械に近い。様々な鉱石を繋ぎ合わせて作ったプログラムは実に難解……という訳でもなく、機能は一つだけだ。

 前提として備わっている運動補助機能と身体能力向上機能の二つに、“限界を与える機能”。【リミット】と呼称する。


「何がしたいのか、分からないだろう。でも僕は気付いたんだよ……どんなものでも、限界を越えることこそ美しい」


「強いとかじゃないにゃあね」


「星殻武装で作った限界を越えて、凄まじい出力で相手に尋常じゃないダメージを与える……それが僕の新戦法」


「困ったにゃあ。こいつ頭おかしいにゃあ」


「さあ、受けてみろ……!」


 風が吹いた。キャッツが、リィカネルが眼前から消えたと認識したのは……その拳が、背に突き刺さった時だった。

 (目で追う、ことさえ……!)


「【リミット・ブレイク】!」

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