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第六十五話 これで殺せる

私は、最後の、神々の、遺された、もの。

 だから。人なら、殺せる。


「……ヤるね。潜在能力はレギンレイヴ随一じャない?」


 飛燕狭霧の戦闘スタイルは、既に完成している。液体を操る神器はサブウェポン的な使い方をして、主にレギンレイヴ戦闘術を用いて、人型に対して高い適性を有する。

 神器を主体にしないのは、単純に彼女と神器の相性が悪いからである。厳密に言えば、彼女の周囲の人間が持つ適性こそが異常なのであり……彼女自身の適性は、寧ろほとんどの神器使いと同等程度であった。何も問題はない。

 だが、飛燕の所属する組織は今も昔も地平でトップクラスの強大な組織。“普通”では到底、生き抜くことなど。


「“人としテの部分”に力を注イだか……なるホど」


 レギンレイヴの頭は、どうやらかなり人に寄っているようである。神器塗れの戦場に身を置きながら、無理をせず人間としての部分だけに注力するよう教育するとは。

 殺すのではなく、屍鬼にしてやるべきだったか?


「素晴らしい! 一級強化素材にしテあげよう!」


 興奮した様子で腕を振り上げる【融滅】。直後、試合場の地下から無数の死体が現れた。不死の軍勢。

 普段【融滅】は、自身の研究と軍勢の作成を同時並行で進めている。研究は誰も知らぬ。ただ、軍勢は。こうして相対する機会がある以上、最早知らぬ者の方が珍しい。

 大きく分けて二種。一つは、【融滅】の打ち込んだ命令を淡々とこなす【屍機】……そしてもう一つは、生物の死体に【融滅】の命令を遂行するプログラムを打ち込んだ【屍鬼】である。無尽蔵に生産出来る点から、不死の軍勢は主に【屍鬼】で構成され、【屍機】は偵察等で使われる。

 彼女の主武装であるEvil angelは最上位の屍鬼であり、死体や神器を取り込ませることで無尽蔵に成長する。一点特化の肉体や精神性を持つ者は、よりよい強化素材になりやすいのだ。レベルは低いが、飛燕狭霧は役に立ちそうだ。


「随分とデカい声を出すのが好きなようで」


 悪い癖、なのだろう。興奮すると相手のことも見えずに自分の世界に入ってしまう。くないを構えた飛燕は、刃先を【融滅】の心臓に合わせていた。寸分の狂いなく。


「耳も遠くなっておられる」


 横に薙いだ。点を突く、のではない。

 既に死亡している肉体が、心臓を突かれただけで死ぬ訳がない。そんなことは飛燕とて分かりきっている。ならば、少なくとも試合続行が不可能なレベルまで切り刻む。

 黄燐曰く、【融滅】の肉体にはスペアがある。非常に脳筋な戦法だが、【融滅】のスペアを……全て破壊すれば、いずれは本体に辿り着くはずなのだ。生産スピードがどの程度か知らないが、少なくともこの試合でスペアを殺し尽くす。


「イッヒヒヒヒヒ! あんマり叩くなヨ大口をさァ!」


 しかし。与えられたものは、二つ目の名。

 断じて、飾りなどではない。


「どウせ負けるんだカらァァァアア!!!」


 例えば、広域破壊特化の【楽爆】。都市防衛特化の【幻凶】。二つ目の名を持つ者は、何かしらに特化した能力を持っている。であるならば、【融滅】のソレは何か?

 広域殲滅特化? 破壊蹂躙特化? 侵食吸収特化?

 否、否、否だ。【融滅】の特化している部分、それは……

 再生耐久特化。

 上下で分断されたはずの【融滅】の肉体は、飛燕がくないを振り切る頃には既に繋がっていた。再生の過程を観測出来ない……否、それどころか。存在すらしていない。


『これは……自己崩壊と即時再生を同時並行している!?』


『多い多い四字熟語が多い』


『自分で攻撃予測箇所を事前に崩壊させ、攻撃が通り過ぎると同時かその前に再生を開始している。しかも同時に!』


『いや意味は分かってんだけどさ』


 緊張感のない実況だが、幸いにも選手二人の耳には入っていなかった。舌打ちをして、くないを振り続ける飛燕の耳には最早……【融滅】の、耳障りな哄笑だけが響く。


「策はこレだけかァ!? 舐めラれたもノだねえ!」


 強いて言うなら、気になるのは空気中の成分量。どうも試合開始時から、本来含まれているもの以上の成分が混じっている……死体と液体が起こした現象であればいいのだが。

 それ以外は何もない。こちらを細切れにする勢いでくないを振り続ける飛燕は、どこまでも滑稽に見えている。


 (怒りで我を忘れたか……君は確かに動きが速いが、アチシは脳の状態を自在に操れる。どれだけ速く動こうが、対応するための思考は常に二歩三歩先を言っているさ……)


 迷う。もう殺すか、まだ楽しむか。別に気が長い方ではないし、殺した方が気分はいいだろうが……まだ、飛燕の目からは復讐心も殺意も消えていない……気に食わない。

 まだ楽しもう。どれだけ動こうが意味はなく、結局復讐は果たされないとわかるまで。このトーナメントに参加した目的である、“愉悦”を心の底から感じられるまで……


「む。そろそろ……【融滅】、貴様は油断しすぎた」


 試合開始と同時に、顔の下半分を覆い隠す布を深く被り直していた。鼻からも口からも……ソレを吸わぬように。

 私は、最後の、神々の、遺された、もの。

 だから。人なら、殺せる。

 それが例え、二度目の死であろうとも。


「腐食性侵食酸水……作るのに、時間はかかったけれど」


 崩壊していく。何もせずとも、【融滅】の肉体が。

 恐らくは地下に眠る、数多の死体も崩れていく。この試合場に無傷で立っている人型は……最早、飛燕のみ。

「…………………………何が」


「これでおまえを殺せるぞ、【融滅】」

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