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第六十一話 キャラ付け

「軌光が帰ってきてから、リィカネルの様子が変なのよ」


「あ〜……まあ、仕方ないことですよねえ……」


 各々の用を終えて部屋に戻ってきた狐依と綺楼だが、そこには誰もいなかった。特段することもなく暇なので、リィカネルの話をしよう……と、狐依から綺楼にもちかけたのだ。

 狐依の言う通り、軌光救出作戦が終わってからのリィカネルは様子がおかしかった。常時機嫌が悪いとでも言えばいいのか……ずっと、仏頂面で、笑うことすらなくなった。上の人間との衝突も増えて、正直心配と言う他ない。


「仕方ないって何よ。あんた何か知ってんの?」


「ん〜、原因を言うと、リィカネルさん以外の全員です」


 だってね? と言って、綺楼は狐依に向き直った。


「まず、軌光さんは単独で【融滅】を抑えました。大手柄ですね。そして、兎牙さんは言わずもがな最上第九席」


「そうね。たまに兎牙が同じ部隊ってことは忘れるけれど」


「で、私は……自分で言うのも恥ずかしいですけど、【特異点】の名を冠する、基地でも上位の存在です」


 鬼蓋との戦闘中に明かされたことだ。綺楼はただの神器部隊員ではなく、上層部からも注目されている切り札。同じ部隊の人間にも隠しているので、秘密兵器と言った方が正しいのかもしれない……何にせよ、凄まじい戦闘能力を持つ。


「そして狐依さんは、あれほど強かった鬼蓋さんの動きを一瞬で封じてみせた。邪魔がなければ、殺せてさえいた」


「まあ、それが私の能力だからね。本の中に描いてあることを具現化する……夢を見せる魔物を具現化させたわ」


「そう。では、リィカネルさんは何をしましたか?」


 ここまで言われれば気付く。グレイディは言わずもがな、他の全員が鬼蓋を、【融滅】を封じ込めるために活躍していた。けれど、グレイディにはそれがなかった。


「そ、そんな……そんなんなくても、リィカネルは頑張ってたじゃないの! なんでそれで、あいつが」


「ああ見えて劣等感の塊ですから。無理して頼れるリーダーであろうとして、それが今回で崩れちゃいましたね」


 脳内に浮かび上がる、大量の疑問符。

 少なくとも狐依には……否、軌光や飛燕もそうだ。綺楼だって、彼が立派なリーダーに見えていたはずだ。仲間のことを、部隊のことを一番に考えてくれていたのは、彼じゃないか。彼以外に、この部隊のリーダーなど務まらない。

 本人だけが、それを分かっていないのか。彼の出自や過去のことを考えれば、分からなくもない劣等感だが……

 それでも、あんまりにもその思い込みは悲しすぎる。


「……案外、支えられるのは、軌光さんと……あなただけかもしれませんね、狐依さん。そう思いませんか?」


「なん、でよ……なんで、そう思うワケ?」


「彼の劣等感を一番刺激しているのは、多分私か軌光さんです。特異点の称号を持つ私と、二つ名持ちを単独で抑えてみせた功績。どちらも嫉妬の対象とするには分かりやすい」


 兎牙は最初からだから、そこまでダメージはないのか。確かにこうして挙げてみると、原因は軌光と綺楼が大きい。

 軌光が支えられるかもしれない、というのは分かった。リィカネルの心に影を落とした張本人が、彼のことを認めて、支えてあげたら……これ以上ない、柱となるだろう。

 綺楼はそういうことをするタイプではない。案外ドライな彼女は、劣等感を抱くなら勝手にしろ、という考え方をするのだろう。だから、選択肢から外していた。


「じゃあ……なんで、私が支えられると思うのよ」


「えだって……ねえ、好きでしょ? リィカネルさん」


「なっ、なななな、なんで知ってんのよ!?」


「なんでバレてないと思ったんですか逆に……」


 どれだけ長い期間見てきたと思っているのか。リィカネルと話す時だけ頬が紅潮したり、声が高くなったり、露骨に可愛く見せようとしたり……軌光も気付いているレベルだ。


「どんなあなたでも、私は好き……そんなことを言ってあげたら、リィカネルさんなら立ち直れますよ、きっと」


 リィカネルがそんなにチョロいかどうかは置いておいて、確かに……リーダーとして誇れる部分がなくても、好きになってくれる誰かは、慕ってくれる誰かはいる。

 それを直接教えてあげれば、少しは支えになるだろう。でもなんだか、それは……それは、違うんじゃないかと思う。


「……まさか、その程度のことが恥ずかしいとかじゃあ……」


「馬鹿ね、惚れた男を支えるなんて役割、嫌がる女がどこにいるってのよ……でも、多分、そういうことじゃない」


 リィカネル・ビットという存在が、劣等感の塊で、着飾ったリーダー観に頼って生きてきたというのなら。惚れた腫れたの恋愛感情は、きっと彼の心には響かない。

 弱いところがあっても、同じ部隊の人間に劣っていても、それでもリーダーをしていていい。リィカネル本人を認めて欲しいのではなく、今までリーダーを頑張ってきた彼が間違っていなくて、これからも“そうしていい”のだと……

 そう認めて欲しいのだろう。伊達に旧文明の本を読み漁っていない、その程度の感情を読み取ることは出来る。

 それが例え、誰かから教えられた情報に基づいた推測だとしても、外しはしない。だって、リィカネル・ビットは、頼れる皆のリーダーは……この世でただ一人。

 偏屈で、意地っ張りで、無駄にプライドの高い陰湿な女。本だけが恋人“だった”、胡蝶狐依の……


「あいつはリィカネル・ビット。私の……惚れた男だから」


 胸を張って、そう言うことが出来る人だから。

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