表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
57/117

第五十七話 それはなし

「どうするよおまえらは。俺はもう確定なんだけどさ」


「ボクは……困ったな、名前を知らない子ばっかりだ」


「右に同じくダ。くく、コミュニケーション能力の欠如」


 最上第九席第五〜第七席。彼らは一緒に行動することが極端に多く、通称三馬鹿と呼ばれる。いつまでも男子学生ノリが抜けない、子供みたいな馬鹿三人という意味を込めて。

 彼らもまた、トーナメント出場選手の内、誰を推薦するか決める途中だった。リィカネルのことを我が子のように可愛がっているシュヴェルビッヒは、誰を推薦するかなど分かりきった話なのだが……残りの二人はそうも行かない。

 まず、第五席である【爆岩鴻バオ・ガング】。黄燐と同じく、旧文明の国家である中国の血を引く巨漢で、場面問わず凄まじい厚みの鎧を着たままの姿が目撃される。

 自分で言う通りコミュニケーション能力が欠如しており、最上第九席内でもこの二人以外に気安く話せる者はいない。そんな彼に、推薦出来る者などいるはずもなく……


「だが、必ず誰かを推薦しなくてはならないようだね」


「そんなコト言われても、知り合いなんカ……」


「誰でもいいんだよこういうのは。本人に推薦したこと伝えれば、あとはなんもしなくていいんだろ? ほら適当に選んじまえよ、どうせウジウジ悩むだけなんだから」


「むう……デハ、この子にしよウ」


 鎧に包まれた、爆の大きな指が示したのは……最近リィカネル部隊に加入したという、飛燕狭霧。彼女はここ最近修行の鬼と化しているらしく、それなりに期待は出来る。

 悪い選出ではない。リィカネル部隊から既に三人選出されていることを考えると、贔屓だなんだと言われる可能性もなくはないが……恨むなら、適当に指さした所に名前が書かれてあった彼女の幸運を恨むべきだろう。

 これで残るは第六席……【羽葉弦鈴はばげんれい】のみとなった。雰囲気も顔面も、爽やかなイケメンと評すべき彼だが……推薦出来るような知り合いはいなかった。


「おまえも適当選出でいいんだよ。ほら選べ」


「そうだね……では、ボクはこの子にしておこう」


 爆同様、適当に指をさす。そこにあった名前は……


「変わった名前だな。キャッツ、か」


「偽名かな? ふふ、猫か。可愛い名前だ」


 エスティオンの人間ではないらしい。フリーの神器使いだろうか。この世界には存在していない、旧文明にのみ生息していたという癒しの化身……猫。その英名だ。

 出場選手、三名決定。リィカネル・ビット、飛燕狭霧、キャッツ。リィカネル部隊は、既に三名が選出されていた。


 ――――――


「……」


 カーテンを締め切り、扉に付けられた小窓にも布をかけ。完全な闇と化した自室の中で、渡は首を捻っていた。

 爆や羽葉など比較にならないほどにコミュニケーション能力が欠如している彼は、推薦出来る者などいない。そして、適当に選出出来るような度胸もない臆病者。

 かれこれ名簿と睨めっこし始めて三時間、もう全員分の名前も覚えてしまった。先日接触した部隊の者を選出しようとしたが、既に他の者が選出していると連絡も入った。もう少し決断が早かったらこんなに悩まなくて良かったのに。

 いつもいつも行動が遅い。ド畜生め。フ〇ック。


「……」


 知り合いを選ぶしかない。幸い、記憶力は悪い方ではないし、任務で一緒になった者の記録は残っている。

 今まで任務で知り合った者を思い出せ。そして、改めて名簿を見つめろ……おかしい。知っている名前がない。


「……そうか」


 焔緋軌光救出作戦以外の任務は、全て単独で達成していたのだった。知り合った者など、誰一人いない。

 畜生畜生ド畜生。なんでこの名簿に最上第九席の名前が一個もないんだ。そうか、これが最上第九席を選ぶためのトーナメントだからか。〇ァック。理由は分かりきっていた。

 ならば、ならばせめて……こちらが一方的に名前を知っている者でいい。誰かいないのか、名前だけ知っている……


「……!」


 いた。渡だけでなく、地平の誰もが知る名前が。

 しかし……理性がストップをかける。だって、こいつはあまりにも危険だ。絶対に出場させるべきではない。どこぞの馬鹿が【楽爆】を選んだというが、そんなもの比にならないほどに危険。心では分かっている、選ぶべきではない。

 しかし……! もうこいつ以外にいない……!

 すまない、当日観戦する全ての人よ。こいつを選んでしまうことで、巻き込まれて怪我をするかもしれない。最悪死ぬかもしれない。でも、恨むなら、そう恨むなら……!

 出場候補名簿に名前を載せた、黄燐を恨んでくれ……!


「おまえに決めたぞ、【融滅】……!」


 最上第九席第一席を決定するためのトーナメント。その中に、最上第九席以上の実力を持つ……二つ目の名を持つ者が二名も存在している。普通に考えて意味不明の状況……

 だが、これしかない。だって渡鼠蜂には……地平唯一の刀使い、孤高の最上第九席第二席には……!

 選出出来るような知り合いはいないのだから!

 出場選手一名決定。【融滅】エルミュイユ・レヴナント。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ