表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
56/117

第五十六話 候補

「ゼロ。僕の胃袋の穴について話がある」


「誰がおまえの消化器官の話を聞くと思うんだ」


「言い方が悪かったかな。トーナメントの話だよ」


 なんだ、そのことか。そう言って、ゼロは黄燐を自室に招き入れた。基本的に誰も入れないようにしているが、黄燐とその他一部の人間は別だ。やつれた顔の黄燐が入ってくる。

 先日、第一席を辞任したジェイツの代わりとなる最上第九席を決定するための、エスティオン内外を問わないトーナメントの開催を、ゼロが強引に決定した。その調整や場所の確保で胃袋に穴が開いた黄燐は、抗議混じりの提案をしに来たのだ。いくらなんでも勝手すぎるぞ、と。


「まず、応募者の数が遂に五百を越えた」


「神器部隊、フリーの神器使い、エスティオンと協力関係にある組織の神器使い等々……そんなにいたのか神器使いは」


「僕はここから、八人に絞ろうと思っている」


「遂にイカれたか。そこまで阿呆とは思わなんだ」


 誰のせいだと、という言葉はギリギリで飲み込む。どうせゼロは、「知らん。私のせいじゃない」とでも言い張るのだろう。最早気持ちのいいほどの暴君っぷりだ。

 黄燐は考えた。最上第九席を決定するにあたって、最も意見を尊重すべきは同じ最上第九席だ。彼らが欲しい人間を採用するのが、黄燐的に一番安心出来る筋書きなのだ。


「……最上第九席八名が、この応募者の中から推薦者を一名選出する。そうして選ばれた八人でトーナメントだ」


「ふむ、悪くはないな。最上第九席は承知しているのか?」


「当然だ。あとは君の許可を取るだけさ」


 ゼロは思考する。最上第九席が誰になろうと、結局自分には関係のないことなのだから、そう真面目に考える必要もないのだが……一応、トーナメントをすると言い出したのは自分なのだから、多少真面目になろう。そう思ったのだ。

 戦闘には多少なりと運が絡む。そしてそれは、大体一回きりのことが多い。最上第九席が、これは、と思う者だけが戦うのなら……多少、その運要素は掻き消せるだろう。

 変に弱いやつがなられても困る。ジェイツ以上の実力者は必ずいるだろう、と思ってトーナメントを開いたのだ……黄燐の策に乗るのが、一番安全だろう。間違いなく。


「……いいだろう。早速通達を出すといい」


「感謝するよ。この面倒事を始めたのも君だがね!」


 悪態をついて睨みつけ、乱暴に扉を閉めて退室していく背中を見つめる。どこか、懐かしいような気もした。


「始まりの四人、か。おまえは覚えていないのか」


 小さな、小さなため息だった。


 ――――――


「推薦だァ〜? また面倒くせえことを……」


「でもこういうの初めてなのだ。楽しみなのだ」


「なんかあたしも楽しみになってきたな〜!」


 順番に見ていこう。

 最上第九席の推薦者だけがトーナメントに出場する権利を得る、という通達を受けて、真っ先に選出を始めたのは第三席と第四席、海華燈と月峰蘭炯の二人だった。

 乗り気ではなかった月峰だが、海華の楽しみ発言を受けて手のひら大回転。名簿との睨めっこを開始した。


「お、焔緋軌光いんじゃねえか。【融滅】と戦ったって聞いた時は、ゾンビ化してねえかヒヤヒヤしたもんだが……」


「今は元気みたいなのだ。ピンピンしてるのだ」


 もう懐かしいことだ。暴走状態の軌光を制圧し、エスティオンに連れてきたのはこの二人だった。あの時の彼は、人間を越えた何かの気配すら纏っていた……可能性の塊。

 有力候補の一人としておこう。そうして、名簿を見つめること数分……もう一人、よく知った名前があった。


「……おい、おいおいおい。どういうことだこりゃあ」


「一瞬で優勝候補が決まったのだ。たまげたのだあ……」


 そこにあったのは、二つ目の名前。【楽爆】。

 確かに彼は、形だけの最大基地外戦力。そうでなくとも、今回のトーナメントはエスティオン内外を問わないとは言っていたが……二つ目の名を持つ者は、セーフなのか?

 誰が勝てるというのか。最上第九席がタイマン張っても勝てない存在なのだ、二つ目の名を持つ者というのは。


「でも……参加したら、すっげえ面白そうだな」


「なのだ。私たちの推薦者はもう決まったのだ〜」


 一応名簿全体に目を通す。他にもいくつかヤバい名前はあったが、まあ他の最上第九席が面白がるなり危険がるなりして推薦の可否を決めるだろう。もう意思を変える気はない。

 どちらでもいいのだが、言い出しっぺの月峰が軌光。そして海華が【楽爆】を推薦することにした。


「んじゃ、本人たちに話つけに行くか」


「……蘭、【楽爆】って普段どこにいるのだ……?」


「あ」


 誰も知らない。これに関しては多分、黄燐も知らない。束縛を嫌う彼は、アンタレスの端末も持っていない。開催までに、なんとかして探し出さなくてはならないのか……?


「一緒に、探すか……」


「なのだあ……」


 まともな連絡手段ぐらい用意しておけ黄燐。それが無理な奴には出場権を与えるな黄燐。そう強く思った。

 トーナメント出場者、二名決定。焔緋軌光、【楽爆】。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ