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第五十四話 魔神獣討伐方法

エスティオン特別会議室。普段は誰も使わないその部屋だが、その日は十一名もの幹部が集合していた。蜃黄燐、最上第九席全員、そして……中央第零席、ゼロだ。


「む……黄燐、最大基地外戦力はまだ来ないのか」


「今日は無理だってさ。色々やることあるらしいよ」


「この会議以上に大事なことなのか、それは」


「決まったことだけ伝えて欲しいって。気持ちはわかるよ」


 ちっ、と舌打ちをして、ゼロは全員の顔を見渡した。前回この姿で人前に出たのは……何十年前だったか。当たり前と言えば当たり前だが、知っている顔が一つもない。

 恐慌星との戦闘前に救出した二人は顔だけ分かるが、名前も性格も分からない。今後、もし、万が一、また眠りにつくことになったなら……定期的に情報だけは集めるようにしよう。静かにそう誓ったゼロだった。


「中央第零席、ゼロだ。単刀直入に、これから話す内容は魔神獣を確実に殺す手段についてだ。心して聞くように」


 統制が取れた集団であるが故に、誰も言葉を発することはない。長年追い求めてきたことが、こんなにも軽く教えられることに疑問がないでもないが……そんなことよりも、すぐにその手段を知りたい、という感情の方が大きかった。

 これがゼロの言葉である、という事実も大きい。姿を表せば必ず問題を解決する神の如き存在……まさか、生きている内に見ることが出来るとは思わなかった、伝説そのもの。

 それほどの存在なのだ。中央第零席は伊達じゃない。


「先日エスティオンを襲撃した、恐慌……おまえたちは赤鬼と呼んでいたか? 奴の名前は恐慌星だ。覚えたな?」


 威圧的な視線。何か怒られる要素があっただろうか。


「恐慌星は、端的に言えば“神”だ。魔神獣と同じような存在だが、魔神獣ほどの力は持たない……なり損ない」


 この時点で、一部の人間の脳はキャパオーバーを起こしていた。神だの、魔神獣と同じだの……何より、そんな化け物を単独で殺してみせたゼロの実力は、どれほど次元が違うのか。統制云々以前に、驚愕で口が開かない。


「そしてなり損ないは、奴だけではない。恐慌星も合わせて六柱……神器部隊は今後、奴らの討伐が目標となる」


「少しいいかなゼロ……それは、“最終目標”かい?」


「否だ。私とて、魔神獣を殺したい気持ちは変わらん」


 黄燐が口を挟んだ。

 彼の質問に対するゼロの返答で、最上第九席は再認識することとなった。これほど隔絶した存在でも、魔神獣を殺す志は同じ。この存在は、絶対的に人類の味方なのだと。

 人は時に、あまりに格が違う存在を勝手に敵だと認識してしまう。ゼロは“そう”ではない……それを明確に認識することが出来る現実に、ただひたすら安堵する。


「話を戻す。なり損ないたちは、共通して神の欠片と呼ばれるものを内包する。それが奴らの能力の根源であり、人間で言う心臓。そしてそれは、魔神獣と相反する」


「つまり、だ。神の欠片は、魔神獣に対する特攻兵器になると……そう言いたい訳だね、ゼロ」


「そうだ。貴様たちが積み重ねてきた技術、神器との適性をある程度弄る禁術。その全てを使い、神の欠片を人間にも扱える形に加工する。それが、黄燐。おまえたちの使命だ」


 ああ、最早……感動の域に達する。データだけでも勝ち目がなかった魔神獣を殺す方法が……こんなにも簡単に開示されるとは。それも、かなり現実的な形で。

 なり損ないたちが仮に……恐慌星と同じ程度の強さを持っているのだとして。ゼロがいれば、斃せる。いなくとも、最上第九席全員が力を合わせれば、必ず勝てるだろう。

 最大基地外戦力だっている。希望は……ある!


「実に簡単な話だろう? 神器部隊がなり損ないを殺して神の欠片を集め、技術・後方支援部隊がそれを加工する」


 全員が首を縦に振る。恐慌星となんらかの関係があった斥腐だけは、俯いたまま、なんの反応も見せない。ゼロは敢えてそれを見ないふりをして、満足気に頷いた。

 では会議を終了する。そう口にする直前……何かを思い出したかのように、第一席であるジェイツを指さした。


「えーと確か……ジェイツ・シルヴェスター」


「え、俺ちゃん? はいはい何か用ですか?」


「最上第九席の座を誰かに譲れ。実力が足りてない」


 呆気にとられる。確かにジェイツは、ゼロとのあまりの隔絶した実力を見せつけられ、最上第九席を辞めようとうっすら思っていたが……ゼロから命令されるとは思わなんだ。

 理由は明白。これから、魔神獣より格下であるとは言っても、神器部隊の目標は神殺しとなる。その際、先頭に立つのは最上第九席だ……その座に、実力不足の者は不要。


「ちょ、ちょっと待つんだゼロ。仮に、仮に彼が最上第九席を交代するとして……誰と、交代するというんだい」


「今最上第九席でない者の中で最も強い者……いや、それでは足りんな。二つ目の名を持つ者にも声をかけるか」


 エスティオンの枠組みを越えて、強い者ならば誰でも大歓迎。空席となった最上第九席第一席の座を巡って、最強の一人を決定する! そう言いたいのか、ゼロは。


「……もうめちゃくちゃだ」


「トーナメントでいこう。多分楽しいぞ」


 その日、黄燐のストレス値が限界を突破した。

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