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第五十一話 恐くない

ただ、自由であれば良かった。神々の先鋒として偵察役を買って出たのも、何かしたいことがある訳じゃない……自分が自由であるという確証が欲しかったに過ぎない。

 この役割を選択したのは自分だ。それが、他の神の役に立つのなら……これは、自由に基づいた選択なのだと。


「これが……真の神の力だ!」


 神器、とは。大元である神の力が分割され、それが元々地球にあったものに定着しただけの兵器に過ぎない。

 なり損ないの神々は、エネルギーの塊である神の欠片を直接取り込み、本人の性質に最も合った能力を発現させている。そして、それとは別にもう一つ……

 彼らが、彼らのために作った神器が存在する。


「砕け散れ! 【光輪の魔神器】!」


 名を、魔神器。神器よりも更に高い出力で能力を発動することが出来る、なり損ない専用の兵器である。

 恐慌星のソレは光輪の形状をしている。まるで天使の輪っかのように頭上に浮くソレは、感情の起伏が緩やかな彼にはあまり向いていない……高揚感と連動して起動するようになっていた。静かな者ほど、昂った時は恐ろしい。

 能力そのものは、渡の神器であるムラサメに近い。光輪の魔神器の能力を発動しながら攻撃を繰り出すと、その軌道上に同じ威力、範囲の不可視の攻撃が創造される。

 ムラサメと違う点は、その射程限界がないこと。

 そして。


「ぬ……面倒だな、残り続けるのか、これは」


 不可視の攻撃は、恐慌星が死亡するまで消えないこと。

 攻撃と妨害を両立出来る凶悪な能力だ。ゼロは別に防御力に優れている訳ではない。恐慌星の攻撃に何度も当たれば、死ぬことはなくとも稼働不良に陥る可能性は高い。

 思考する。このまま素の身体能力のみで戦闘を続行したところで、勝率は何割程度存在しているのか?


 (良くて五割……現実を見るなら四割。先刻までは楽勝出来る雰囲気すらあったが、流石にこれは予想外だな)


 恐慌星は全身が武器である。触れたもの全てを切り裂いてしまいそうな全身の棘、血のように紅く鋭い爪……鍛え上げられた筋肉は、指先の動き一つでも攻撃動作となる。

 そしてその全てが、無限の射程を持って“残り続ける”。こちらの動ける範囲は、時間経過と共に狭くなる……


 (互角、か。腐っても神だな。精神的動揺を誘うことが出来れば逆転出来そうだが、どうだかな……)


 恐慌星は十字架の少女のことを知っている。名は、イヴ。

 彼女とまったく同じ外見のゼロを見ても、驚きこそすれ、動揺している様子はなかった。ならば、恐慌星とイヴが共にいた頃のことを話したとしても、大して意味はないだろう。

 ……ああ、いや。一人いたな。


「作戦司令室。私だ。斥腐は今どこにいる」


『黄燐だ。斥腐くんは今、任務から帰還途中だが』


「想定外の事態が発生した。斥腐が勝利の鍵となる。帰還を急がせろ。それまで、少なくとも討伐は出来ん」


 斥腐黒雪。最上第九席第九席、召喚を主として戦闘する、幼い外見の老婆。何かしらの方法によって外見年齢を操っている彼女は……数少ない、旧文明を知る者の一人。

 彼女が何かする訳ではない。だが、なり損ないの神々にとって……彼女は、“存在するだけで”驚愕に値する。


 (さて、到着までどうやって時間を稼ぐか……)


 恐慌星は、光輪の魔神器を発動してからずっと暴れ回っている。接近がほぼ不可能になった以上、躱す以外に選択肢はない訳だが……そろそろ、生き残るのが難しくなってきた。

 多少の被弾は覚悟で距離を詰めるべきだろうか。

 そんなことを考えていると、恐慌星の苛烈な攻撃がピタリと止まった。ゼロも動きを止めて、恐慌星を見つめる。


「……君が、どういう原理でイヴの外見を真似ているのかは知らないが。使えるんだろう? それらは、全部」


 ピクリ、とゼロの眉が動いた。それらというのは……この肉体に装備している、神器のことだろうか?

 ゼロがイヴの外見を真似ている原理は、簡単に言えばコピーなのだが……神器もついてきている以上、当然その能力を使うことも出来る。それを使えと言っているのか。


「……無意味だ。神に、神器の能力は通用しない」


「多少は動きやすくなるだろうと言っているんだ」


 神器から出力される能力は、基本的に借り物且つ偽物。神の力そのものを内包する神の前にはただただ無力。

 兎牙は勘違いしていたが、恐慌星の能力である【恐怖】を前にして発狂死しなかったのは……単純に彼女の精神力が強すぎるが故だ。精神防護は、その一切が働いていなかった。


「まあ……それは、そうだな。だが、いいのか?」


 光輪の魔神器が発動される前に、ゼロが肉弾戦のみで恐慌星を圧倒していたのはそういう理由だ。神殺しは、同程度の神の力をぶつけるか、神に由来しない力でないと出来ない。

 神であるが故に、神器の装備数に限界はない。しかし神が神器の力を用いる意味がない。イヴが何故神器を装備したまま眠りについているのか、それはゼロですら知らない。

 ただ、事実のみがそこにある。


「おまえ、奴が到着するより先に死ぬぞ?」


 斥腐という存在が勝利に必要なのは、あくまで神器を使わない前提での話だった。ゼロが神器を使えるのなら……

 彼女の存在は一切必要ない。


「僕は神で、自由だ……今更死ぬとか殺されるとか」


 戦闘狂ではない。ただ、全力をぶつけ合いたかった。

 たったそれだけの自由でさえ、与えられてなかったから。


「全然、恐くない」

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