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第四十七話 雑魚

ディヅィ・エフェクトに限界はない。【楽爆】による評価は、戦意ある者に自動で襲撃する戦闘機械。そして、対峙した全ての敵が用いた技術を習得する……要するに、だ。

 無限に成長するのだ。彼女にとっては全てが糧である。


 (分かるわけないでしょうそんなこと……! これは、最初から制限時間付きの戦闘だったなんて!)


 サファイアの悪い癖だ。その時々の状況で、戦法を変えてしまう。短期決着と長期決着を行き来した結果、大事な部分が見えていなかった……だが、こんなもの。

 誰が予想出来る!? 普通、一回見せただけの動きを実戦の中で模倣してくる者などいない。しかも、二人でした動きを一人で再現するなど……正気の沙汰ではない。


「サファイア」


 全身から湧き出す冷や汗に震えていたサファイアに、桃月の静かな声が届いた。バラバラと音を立てて機械鎧が壊れていき、遂には彼女の素肌が露出し始めた。

 同時に、サファイアの両腕も人間のものになる。捧げたもので使えるだけの時間を……もう、使い切っていた。


「万事休す」


「……ですわね。はて、どうするべきでしょうか」


 再契約……の、隙を与えてくれる訳がない。しかし、生身で勝てる相手ではない……本格的に詰みというやつか。


「……遥。出来る限りの抵抗をしましょう」


 呟く。ディヅィが、無慈悲に行動を開始した。

 その動きがスローに見える。体は、追いつかない。


 (……なんだか、懐かしく思えますわね)


 サファイアと桃月は、名前から分かる通り、出身地がまったく違う。サファイアは旧文明において【フランス】と名付けられた国の生まれであり、時代遅れの貴族だった。そして桃月は【日本】生まれで……写真家だった。

 二人は、神器を手にした時……まず、時間を欲した。ある日突然自分の大事なもの全てが奪われて、はいそうですかと納得出来るような人間では……なかったのだ、二人とも。

 二人は旅の最中に出会い、契約を交わした。桃月は自我を失う代わりに、【寿命による死】を失い……サファイアは、その桃月の世話をし続け、必ずこの世界を破壊した者への復讐を遂げることを条件に【不老不死の肉体】を手に入れた。

 桃月は、外傷以外の方法で死ぬことはなくなった。サファイアは、どんな方法を用いても死ななくなった。

 だが、死なないだけだ。失った部分は再生しないし、不治の病は治らない。永遠に苦しみを抱えながら、契約条件を満たすために戦い続ける運命を強いられるのだ。

 悪いことばかりではない。この契約により不変となった寿命や、肉体年齢の経過を捧げることで、ほぼ無償で力を借りることが出来るようになった。

 彼女たちが最大基地外戦力となったのは、その際限のない力の供給量にある。彼女たち自身の肉体限界はあるので、一度に借り受けられる力には限界はあるが……本当の意味での限界が存在しない。十分に特異な状態だった。


 (沢山戦いましたわねえ……これから、全身が砕かれるのでしょう……肉片になっても、自我はあるのでしょうか)


 受け入れる他にない。迫る殺意は、形を持って……

 ドパン。


「……………………は?」


 目を開くと、信じ難い光景が広がっていた。

 ディヅィの四肢と頭部以外が“消滅している”。あまりにも綺麗な消滅だったが故に、断面同士が接合して再生しようとしているが……それを止めることも出来ず、呆然とする。

 ディヅィの目も見開かれていた。彼女ですら反応出来ない速度の攻撃……誰が、どこから、何故こんなことを。

 ザザッ、と破壊されたアンタレスの欠片から音が鳴る。その場にいる全員の意識が、そこに吸い寄せられる。


『最大基地外戦力、フランス女と写真家女』


 誰の声だろう。老人のような子供のような、男のような女のような……聞いたこともない、奇妙な声をしている。

 だが、心当たりはある。以前映像記録として見たその戦闘風景は……とてもではないが、この世のものとは思えないものだった。ソレはきっと、こんな声をしている。


『さっさと拘束・回収し、エスティオンに来い』


 声の主は、遙か地平線の彼方……エスティオン基地に。

 呆然としているサファイアたちの姿を、肉眼で捉えていた。頭部よりも高く振り上げられた脚の先端からは煙が立ち上っており、凄まじい熱が瞬間的に発生したのだろうことは容易に見て取れた。とても、冷たい目をしている。

 石、だった。少し硬度を弄っただけの、どこにでもある、何の変哲もない石の欠片。それを蹴り飛ばした。


 (この程度に苦戦するとは……まったく、有り得ん)


 数百km離れていたのだ。サファイアたちほどの視力では到底、エスティオン基地が豆粒ほどの大きさに見えるほどの距離だ。ソレには、すぐ間近の光景のように見えていた。

 恐慌星に対処する前に、あの二人に手を貸そうと思っての行動だった。最大基地外戦力、などという大層な名前を与えられている二人が苦戦しているのだから、よっぽどの強敵はのだろう、と……軽い牽制のつもりで蹴り飛ばした。

 それが、これだ。なんだ、“とんだ雑魚じゃないか”。


「……待たせたな、恐慌星。星を抱く者、なり損ねた三番目の神。人間相手は疲れたろう……次は、私が相手だ」


「誰かな、君は……なんだか、懐かしい気がするよ」


 中央第零席、ゼロ。

 もう一つの戦場、その第二幕が開演した。

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