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第四十三話 殺意の根源

「あーはいはい、分かってますわよはい。でもこちらもね、結構ヤバくてですねはい。普通に殺されそうでしてね」


「もう通信は切る。余裕がないレベル百」


 最大基地外戦力は、何もグレイディだけではない。原則の枠組みに囚われぬ強者は他にもいる……ゴスロリ風のドレスを身に纏った幼女と、それを守るようにして立つ、長身でガタイのいい女……目にも表情にも、感情が見受けられない。

 通信用のアンタレスを切る……と思いきや、彼女たちが対峙している敵の投石が、アンタレスの端末を破壊した。ほら殺されそうでしょう? と呟いた幼女が舌なめずりする。


「ねえ、一度ぐらい喋ったらどうですの?」


「ん、私たちは無駄な戦闘を望んでいない」


「いやまあ私は思いっきりブチ殺したいですけども」


「あれ……?」


 二人が軽口を交わしている間、敵はこれまた感情のない金色の瞳で彼女たちを見つめていた。その服装は独特で、エスティオンでも同じ服装をしている者は一人しかいない。

 スーツ、という。月峰蘭炯に酷似した格好だった。


「聞きましたわよ、焔緋軌光鎮圧作戦時に月峰さんたちが浴びた、未だかつて経験したことのない異質な殺意。こうして対峙するとよくわかりますわねえ、あなたが……その殺意の根源なのでしょう?」


 敵は何も名乗らない。ただ、金色の瞳が……揺れた。


「ん。今までの敵の中では一番速い」


 しかし、ガタイのいい女が振りかぶられた拳を掴んだ。ギチギチと音を立てて、破壊しようとする。

 スーツの女は一瞬硬直した後に、掴まれた右手をそのままに、左手をガタイのいい女の腹に添えた。上下を逆にして触れたその手のひらには、既に衝撃が乗っている。

 伝達――――――


「と、と。私たちが二人でいる意味、お考えなすって?」


 折る。スーツの女の筋肉が膨張した瞬間に、横合いからゴスロリ衣装の幼女が、スーツの女の腕を殴り飛ばした。バキャキ、と気持ち悪い音を立てて女が吹き飛ぶ。

 これ以上無駄口を叩く暇はない。幼女たちはそう判断し、吹き飛んだ女を優雅に見つめた。警戒は最大級に。

 幼女の名を【サファイア・ヴァイオレット】。そしてガタイのいい女は【桃月遥ももつきはるか】という。最大基地外戦力であり、二人で一つの戦闘を行う。


「ねえ、せめて名前ぐらい言ったらどうですの?」


 サファイアの苛立ちが混じった声を聞いて、スーツの女は動作を停止した。そして、数瞬迷うような素振りを見せた後に……胸元から、一枚のプレートを取り出した。

 描かれた文字は、【ディヅィ・エフェクト】。名前のようだが……何故頑なに喋ろうとしないのか?


「なーんか……腹が立ってきましたわね」


 そもそも、こうして戦う羽目になった理由からして腹立たしい。エスティオンからの救援要請を受けて駆けつけようとした所、滲み出た戦意に惹かれたのだろうこの女……ディヅィか。が、いきなり襲いかかってきたのだ。

 しかも、とんでもない強さだ。優に最上第九席と同等かそれ以上の実力があるだろう。可愛がってやっている月峰と顔が似ているのも腹立たしい。ノリノリになれない。

 だが、時間をかけすぎるのもなんだ。エスティオンの方も本当に余裕がなさそうだし、早急にケリをつけよう。


「遥。契約を使いなさい。私も……使いますから」


 サファイアと桃月は、同時に羊皮紙を取り出した。

 彼女たちの神器は似て非なるもの。サファイアの神器は悪魔神器イヴェル、桃月の神器は契約神器ハルファレル。

 サファイアは自身の大切にしている何かを神器に捧げることで、力を借りることが出来る。そして桃月は、欲する能力に見合う対価を捧げることで力を得ることが出来る。

 そしてどちらも、差し出すものが大きければ大きいほど、より強い力を獲得することが出来る!


「《これより経過する肉体年齢を一年捧げる》」


「《寿命を一年捧げる》」


 変形していく。サファイアの両手は、暴走時の軌光が変質させた剛腕神器のように禍々しく。桃月は全身に機械のような装甲を纏った。肌はまったく見えない。

 同時に仕掛ける。身体能力向上に特化させた、サファイアの悪魔装甲……その速度は目で追うことすら難しく、事実ディヅィは背後に回った彼女に気付いてすらいない。

 そして、正面からはブースト機能を全開にした桃月の拳が迫り来る。正拳。横薙ぎにするべく振りかぶられたサファイアの両手は、ディヅィがどの方向に回避しようが逃がさないという意思を感じる。どう動こうが、ディヅィは死ぬ。

 上ならば、桃月のブーストで追いかけて殴れる。左右は悪魔の腕が逃がしはしない。必勝確殺の陣形が……


「なっ」


「……」


 通用しない。

 先刻折られたはずのディヅィの腕は、“既に治癒が完了していた”。その上で彼女は……桃月の正拳を真正面から受け止めた。ただの機械鎧ではない、神器による後押しを受けた拳をモロに叩き込まれて……当然、土手っ腹に穴が開く。

 だが、サファイアたちが驚愕したのは、その後に起こった現象だった。治癒の経過を視認出来ないほど早く。まるで時間を巻き戻したかのように……ディヅィの腹が再生した。

 一瞬で肉体の欠損を修復する回復力。更に、弾け飛んだディヅィの肉を肉眼で捉えた彼女たちは……最早眩暈がするほどの、信じられない事実を理解しようとしていた。


 (これほどの強さ、再生能力……それが、まさか)


 (こいつは……)


 神器使いの肉体には、一瞬でそれと判別出来る色が出る。だが、サファイアたちの目が正常ならば……彼女の肉体に、ソレは一切存在していなかった。アンタレスも白を示す。

 ディヅィ・エフェクト。非神器使いである。

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