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第四十一話 聖騎士の加護

「待てぇぇえええええい!!!」


 さあこれから鬼蓋を嬲り殺そうという正にその時、戦場全体に、恐るべき声量の女の声が響き渡った。リィカネル部隊の人間は一度聞いたことがある。聖騎士アルウェンティア。

 赤い旗を掲げたその姿は、旧文明において【ジャンヌ・ダルク】という名で語られる聖女のようだった。背後に立ち上る土煙が、またあの時のように走ってきたのだろうことを容易に想像させる。白銀の鎧が、輝かしく煌めいた。


「今この場で、命のやり取りをしている者! 鬼蓋宗光を含めた全員だ! 《今すぐその行為を停止せよ》!」


 その命令が耳朶を震わせると同時に、全員が戦意を失いながら神器を手放した。Evil angelもクラクラと震えた後に倒れ、ピクリとも動かなくなる。鬼蓋の意識が戻った。


「あ、あああ……? アルウェンティア、来ていたのか」


「告げる! 《鬼蓋宗光は口を開くな》!」


 鬼蓋の口が縫い付けられたかのように動かせなくなる。アルウェンティアにそう言われては、そうする他ない。

 これは神器の能力ではない。否、厳密には神器の能力なのだが神器の能力ではない。彼女もまた例外の一人であり、ある二つの能力を保有していた。+5唯一の存在である。


「近辺の安全管理をしていれば、突如戦闘音が私の耳をやかましく鳴らす……戦闘行為は駄目だと、何故分からない!」


 以前決めつけだけで襲いかかってきたのはどこのどいつだよ、というリィカネル部隊全員のツッコミは、なんとか飲み込んだ。絶対に面倒くさいことになる。

 ぺちゃくちゃぺちゃくちゃと戦闘の何が駄目なのかを語り続けるアルウェンティア。気の長い方ではないグレイディなどはすぐにでも殺してやりたくなるが、何故か敵意が持てない。《今すぐその行為を停止せよ》という言葉が頭から離れない。


 (どういう能力なんだ、これは……)


 遺伝。アルウェンティアは神器と人の子であった。

 度重なる神器の過剰使用により、人間としての自我を失った男性と、神器適性の高い女性を交配させて生まれたのがアルウェンティア。彼女には男性の神器能力が遺伝した。

 言霊だ。彼女が心の底から“そうしなければならない”と思い、その理由が明確な場合、ただ声を届けるだけでソレを強制実行させることが出来る。神器としての強度など何も関係なく、どんな格上にでもこの言霊は通用する……


「……ということだ! さあ、もう分かったろう! これ以上貴様らが戦う理由など、どこにもないのだと! では最後の命令だ、告げる! 《全員、あるべき場所へ帰れ》!」


 体が勝手に動く。軌光、グレイディ、渡……そしてリィカネル部隊は車に乗って発進。破壊された【融滅】の遺体はEvil angelの内部に格納されて地下へ向かい、鬼蓋はアルウェンティアの脇腹に抱きかかえられた。ついでに五、六発シバかれる。


「……いつ、【融滅】と繋がったのですか。《話せ》」


「いつってもなあ、二週間ぐらい前? そろそろ+5がこの世界を手に入れるべきじゃないか、だからまずは一緒にレギンレイヴを潰そうって話を奴に持ちかけたんだよ」


「【融滅】は危険この上ない存在です。絶対に関わってはならないと……最初に言ったのはあなたでしょう!?」


 このタイミングで動く必要があったのだ。

 この地平でも、限られた者のみが知る事実……この世界が破壊されるに至った経緯。鬼蓋はそれを知っている。

 アルウェンティアからの報告で、剛腕神器が何者かに適合し、活動を開始したことを知った。+5に訪れた“ある青年”の発言……“この世界が、人と神を選ぶべき時が来た”。

 神は、自身の形を模倣して人間を創った。故に人の形は神の形……そして、人を人たらしめる要素……頭、腕、脚、脳、そして感情……命、心臓。神器には数えきれないほどの形があるが、これらの形をしたものは唯一無二である。

 特別なのだ。そこにあるだけで、世界の運命を動かす。


「……アルウェンティア。今は何の世界だと思う?」


「何の世界? 質問の意味を理解しかねます」


「神の世界だ。神が与えたもうた力を誰もが求め、戦い、そして死に……また、同じことを繰り返すのが今の世界」


 そして、神の要素が一切存在せず、この星を人間が支配していた時代……鬼蓋は、否、この世界の過去を知る者は皆、その時代を人の世界と呼んだ。美しい世界だった。

 けれど、同時に残酷でもあった。鬼蓋と【融滅】は別に気が合う訳でも仲が特別良い訳でもないが、ある点だけが共通していたのだ……人の世界を再び訪れさせてはいけない。

 今の幸せを守るために。死を死で終わらせる世界を否定するために。彼女たちは、神の世界の存続を望む。


「一度裏返ったこの世界、再び裏返らせるものか……」


「良く、分かりませんが……何か壮大な目的があるのだということは分かります。ついていきますよ、どこまでも」


「沢山戦う。沢山殺す。おまえはそれでいいのか?」


「私には分かりません。ただ、歪な出自であるこの私を、本当の娘のように愛してくれたあなたの願いがソレならば」


 鬼蓋は遊ぶように他人の命を奪う。アルウェンティアが否定したいのは結局そこであり、より多くの人が幸せになれるのならば、鬼蓋がその果てに理想郷を見ているのならば。

 いくら人を殺そうと構わない。よりよい世界のための犠牲は、多ければ多いほど……土台はより強固になるのだから。


「私は、この命すら投げ打ちましょう」


 微笑んだ。鬼蓋もまた、微笑み返す。

 まずは焔緋軌光と……神の体を示す神器に適合した者、全て殺す。アルウェンティアの説得が一番苦労しそうだが。

 そして、神を……この世界の王に仕立てあげて見せよう。

 人為戦争を起こし、邪魔な人間の全てを殺そう。

 全ては、この灰の世界の理想郷のために!


「それはそうと離しておくれよ」


「駄目です。【融滅】と手を組んだ罰です」


「ちぇっ」


「それと殺しを楽しんでいたこと。次はないですよ。殺しも殺し合いも、必要な時だけって言いましたよね!?」


「それは本当にごめあっつぁ!」

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