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第三十九話 特異点

「さっさと……死ね! しぶといねえ、あんたらはァ!」


「こっちのセリフだ……この!」


 リィカネル部隊+グレイディの混成部隊は、鬼蓋と互角の勝負を繰り広げていた。手のひらから迸る紫電は本能的に触れてはならないと分かるもので、なんとも近寄り難い。

 加えて、彼女の戦闘スタイルは守りを捨てた超苛烈な攻撃タイプ。こちらは“防御を固めながら攻める”という無理難題を押し付けられ続ける状況となる……攻められない。


「終極に至る羅針」


「遅いわァ! おいっ……しゃおらァ!」


 同じ極を向かい合わせた磁石のように、鬼蓋はゆっくりと地面に手をつけた。それを見てからグレイディは神具の能力を発動しようとしたが、それでは間に合わない。

 大地に亀裂が走り、“天に向かって雷が落ちる”。リィカネルは咄嗟に土の防壁を作り出したが、物理的な勢いのみで突破される……感電。全身の筋肉が痙攣する。


「ふう……や、よく粘った方だよあんたらは、うん」


 鬼蓋に関しては戦闘開始前と後で変わったことを挙げるのならば……少し息が切れている、ということだろうか。肉体はおろか、服にすら一切の傷は付いていない。

 それもそうだろう、誰も攻められなかったのだから。最低限死なないようにするのと、【融滅】に加勢させないようにするのが精一杯だった。ダメージのない妨害をし続けていた、というのがグレイディたちの選択した戦闘……

 倒れ伏し、目線を鬼蓋に向けることしか出来ていない。


「ここまで鬱陶しいのは、キレたアルウェンティアかあんたらぐらいのもんだ。誇っていいよこれは、誇っていい」


 二つ目の名は【幻凶】。実体のない幻のように、気付けば蹂躙されている。遙か地平線の彼方からでも視認出来るほどに光を放つ紫電は、殺戮を告げる凶星のように……


「じゃ、【融滅】が戦い終わるまで待機だ。その後はあのデカブツに乗って……うん、+5に来てもらおう」


 こっちも人手不足でね〜と鬼蓋は笑った。

 殺すつもりではあったが、生き残ったのなら再利用するのは組織として当たり前。こいつらはそれなりに強いし知識もあるし……いきなり幹部補佐でも問題はなさそうだ。


「一つ……教えてないことがありましたね……」


 ぞわり、と全身が震え、体温の下がるような感覚。

 エスティオンの内情や神器部隊員の個々の能力を……少なくとも鬼蓋は知らない。超小型の屍機……旧文明のドローンを模倣したものを使役出来る【融滅】は別だが。

 情報の優位性を最も理解しているのは、間違いなく【融滅】だ。故に彼女は、エスティオンの要注意人物について何も教えてくれなかった……最上第九席の簡単な能力についてはなんとか聞き出すことが出来たが、それだけだ。

 知らない。“最上第九席以外”の要注意人物を。


「特別なんです私は……エスティオンの、誰よりも」


 バチバチバチ、と何かが弾ける音。下方に視線を向ければそこには、黒い火花を散らして輝く釘があった。美しい五芒星を描いている……本能で分かる、これは、ダメだ。


「【超新星】兎牙響、【屍山血河】渡鼠蜂、【現人神】海華燈……彼女たちに並ぶ、特級戦力の一人にカウントされています。蜃黄燐氏曰く……どんでん返しの最終兵器」


 どう考えても晒した側が不利になる情報開示……しかし、挙げられた名は全て最上第九席の上澄み。彼らに並ぶという言葉が真実なのだとしたら、決して無視は出来ない。

 二つ目の名を持つ者たちは、単独で最上第九席三人と同等の実力を持つとされる。最上第九席級であるグレイディと、連携力に優れ、フォローが得意な新人二人。そして仮にこの女が言っていることが真実だとするならば……

 鬼蓋宗光は、討伐される可能性すら浮上する!


「称号……【特異点】新異綺楼。どんでん返しの時間です」


 パン! と軽く何かの弾ける音がして、鬼蓋は五感を失った。彼女は感覚としてそれを理解したに過ぎないが、綺楼たちは実際に見聞きしてその状態を把握していた。

 五芒星の中心に立っていた鬼蓋は、無数の黒い手に全身を包まれた。誤認しているのだ……失ったのは五感だけではなく、全身の動作であることを理解していない。


「さ、お立ちください皆さん。反撃、しますよ」


 そして、綺楼たちの直下にもまた五芒星があった。溢れ出す、優しい光……それは全身のダメージを打ち消し、万全の状態か、それ以上の実力を発揮出来るほどの活力を与えた。


 (まあ本当は感覚麻痺で、目的達成と同時に倍になって帰ってくるんですが……今は言わなくてもいいでしょう)


「知らなかったよ綺楼lady……君がそんな存在だったとは」


 釘と、それを打ち込むための槌を構える綺楼に、困惑した様子のリィカネルが話しかける。そうか、よくよく考えるとリィカネル部隊は例外だらけのゲテモノチームだ。

 原因不明、しかし単独で【融滅】を抑える怪物、軌光。最上第九席第八席兎牙響、そして隠された特級戦力新異綺楼。何もないのはリィカネルと胡蝶狐依の二名のみ……

 困惑するのも無理はないか。


「都合のいい展開ですがね、超簡単に説明するなら私は問題児過ぎたが故に役職を与えられず、しかしただ腐らせておくのももったいないからここに配属された……それだけです」


 眼前の敵を見据える。ここで殺し切れるか……

 否、やるしかないのだ。この場所でこの怪物を、殺す。


「詳しいことは、帰ってから説明しますよ」


 輝きを放つ五芒星。

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