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第三十六話 邪悪な天使

Evil angelの心臓部には、無限自己進化プログラム搭載型胎動心臓……【融滅】の呼称によれば、【悪魔の心臓】が組み込まれている。周囲の物体や神器を取り込みながら無限に成長し、どこまでも強くなる特性を備えている。

 渡の唯一の失敗……それは、悪魔の心臓の存在を知らず。腹部を細切れにしただけで“殺した”と思い込んだこと。


「馬鹿な……ここから、再生するはずが」


「ワタシが、このワタシが! 何故! どウやって! 死を“弄べる”トいうのか……答えロ渡鼠蜂!」


 地平最悪の研究者である。主な研究分野は死体の活用方法であり、多くの者から見れば非人道的な冒涜なのだろう。

 だが、【融滅】は……融けて滅びた彼女の過去は、死を弄び冒涜することを許しはしない。死を死で終わらせず繋げるために……彼女はEvil angelを創り、愛した。


「焔緋軌光! それ以上【融滅】を喋らせるな!」


「死ねやクソボケ女ァ!」


 より苛烈になる軌光の攻撃が、【融滅】から会話の余裕を完全に奪った。もう一度、渡とEvil angelが向き合う。

 危なかった。怒り狂った【融滅】の叫びがこちらに届く度に……Evil angelの再生速度が増していた。あのまま喋らせ続ければ、更なる影響が及んでいた可能性が高い。


 (迅速に……急所を見抜いて断ち切らねばならない)


 刹那、渡は刀を振った。無数の斬撃が創造され、延長され、その攻撃を防ぎきった。未だ再生途中のEvil angelによる、複数の神器による波状攻撃であった。

 熱線、氷、岩、武器に雷……いくら渡と言えど、油断していた瞬間に叩き込まれたソレを刀のみで防ぎ切るとなると、一筋縄ではいかない。細かい傷が生まれ、息が切れる。

 深い、深い息を吐く。目を瞑る。集中する……

 分かっている。今まで、最上第九席を含んだ神器部隊が何度も遭遇し……殺しきれたことは一度もない。どれだけ追い詰められようと、Evil angelは決して死ななかった。とてもではないが、単独で殺せるような相手ではないと。

 だが、ここで殺すしかない。これ以上【融滅】の好き勝手にさせる訳にはいかない……彼女が怒り狂ったことは、寧ろ僥倖だったのかもしれない。少なくとも、逃げる兆しは一切見せていない……殺しきるための時間は存在している。


「どこを斬れば死ぬのか……試してみるか、死肉の悪魔よ」


 彼の持つ技術の中に、唯一……名を持つものがある。

 ソレは、旧文明の頃には存在していた生物。地域によっては死を運ぶ不吉な鳥とされ、夕暮れ時に鳴きながら巣に戻る姿は、紅い世界と相まって、どこまでも不気味であったと。

 そして、群れで生活するソレは……一斉にどこかを目指して飛び立つ時、まるで、黒い神の遣いのようであった、と。


「受けられるか、我が秘奥。これこそ残壊の極地」


 名を!


「【カラス】!」


 再生途中のEvil angelに、渡の大上段が叩き込まれる。

 能力の幅を広げ、刃の向いていない方向にも不可視の斬撃を創造する。“それらに対して”再び能力を発動し、ほぼ無限の射程を持つ斬撃延長を、超広範囲に叩きつける。

 逃れることは出来ない。対象が巨躯であればあるほど、ソレは効果を増す……Evil angelが、どうして逃れられよう。

 幾度目か分からない、肉片の雨。Evil angelの内部に存在した重要器官を、確かに断ち切った感覚があった。微笑みながら納刀し、渡は跪いて吐血した。脳が揺れる。


「や、はり……これは、反動が大きい……!」


 ゴブ、と溢れ出す血の塊は、濃く濁っていた。

 能力の幅を広げるというのは、言葉にするほど簡単なことではない。本来有り得ぬ解釈と範囲で、与えられた枠組みを無理やり超越する。心臓の鼓動が不規則になる。

 渡ほど神器が馴染んだ人間でも、使えば数十分は使い物にならなくなる。不慣れな者が使えば……死すら有り得る。


「だが、これで流石にもう……」


 心臓部に悪魔の心臓が埋め込まれている。

 誰が、心臓部が地上に露出していると示したのだろうか?


「マだ……まだァ! こレからだよォ、Evil angelゥ!」


 戦闘における“最強”とはなんなのか?

 万物を破壊する攻撃力か? どんな攻撃も防ぎ切る防御力か? 盤面を予測し導く頭脳か? 否、否、否だ。

 それは、この世のなにより単純なこと。考えずとも分かるもの。人々がいつの時代も追い求め、そして決して届かないもの……不死。“死なない”ことが、最強なのだ。


「は、ははは……動けんぞ、もう……」


 Evil angelは再生を断念し、切り刻まれた部分は天高く昇っていった。地下に埋もれていた残りの胴体部が露出し、先刻までとは比べ物にならないほどに巨大化した。

 【鴉】を叩き込む時は、その巨躯に感謝すらしていた。けれど今は恨めしい……どこまで怪物なんだ、こいつは。

 鎌首をもたげて、渡を見ている。諦めたような顔をしている彼に向けて、突撃するような勢いでEvil angelが喰らいついた。僅かに刀を抜く抵抗だけ見せるが、無意味。

 死肉の塊に、渡は呑まれて……


「待てぇぇえええええい!!!」


 戦場全体に響き渡った怒声が、全てを停止させた。

 その声の主は、赤き旗を掲げた騎士だった。

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