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第三十四話 輪廻

人とは死にゆくものであり、命は廻るもの。それが早かろうが遅かろうが死は死であり生は生。遺したものに差異はなく、故に命に貴賎なく。全ては死にゆくために生まれる。

 飢えた骸のような人間も、多くの人を救った者も、死ねば等しく肉の塊。タンパク質の凝固した物体となる。

 命の価値は平等だ。それが、理屈の話。


「あ、ああ、あ、あああああ……はっ、あ、ひ」


 助けてくれた。育ててくれた。愛してくれた。愛してた。自分のために別れを告げて、こんな世界でも幸せになれるようにって、色んなことをしてくれた、大切な人たち。

 こんな、訳の分からない死に方をするなんて。地下から現れた死体の化け物に喰われて死ぬなんて。そんなの覚悟してなかったし……そんな死に方をしていい人たちじゃない。

 まだまだ生きて、恩返しをされて、もっともっと、もっともっともっともっともっと、幸せになるべき人たちだった。

 それが、感情の話。


『じゃあ鬼蓋くん、アチシはあソこにいる人たちモパクリンチョしたいんだゲど、それハいい感じ?』


「焔緋軌光だけは生かしておいて欲しい。儂も、アルウェンティアの“お願い”を無下にするのは気分が悪い」


『イッヒヒヒヒヒ! 保証は出来なイ……なァ〜!』


 ハナから生かしておくつもりはない。ただ、外面だけでもアルウェンティアの意見を気にしておく素振りを見せておかないと気分が悪い。ヒヒ、という笑みが零れている。

 その紫色の怪物の名を、【Evil angelイヴィルエンジェル】という。【融滅】の作り出した死肉の戦闘生命であり、百種の神器を内包しているとさえ言われる。

 神器は通常一人一つ。だが、Evil angelの肉体は既に死んでいる。どれだけの数の神器を装備しようが、通常人体にとって害となる影響が及ばない。厳密には、どれだけペナルティを与えられようと、それがペナルティ足り得ない。

 正に反則。正に混沌。何者も及ばない神器の極地。


『それジゃ喰っちゃえ! Evil angel〜!』


 百種の神器が、Evil angelの巨体に百層の身体能力強化を施している。迫り来る紫色はあまりに速く、軌光でさえ目で追うのみで反応出来ない。このまま、喰われ――――――


「所詮腐肉。外皮の硬化をしておくべきだったな」


 刀の形状をしている。斬滅神器ムラサメ。

 旧文明の技術力においても、“刀”はロストテクノロジーの一つであるとされる。狂気と言えるほどに洗練された技術と執念が、世界一の鋭さを生み出していたのだ。

 それが神器となった。超常の力を持つ者が振るい、更にはそこに能力も加わる……弱いはずがない。渡鼠蜂。

 Evil angelの巨大な肉片が、ズルリと醜く落ちていた。


「デカブツ。オレ一人で相手してやろう」


「え〜……じゃアチシが出ないとイけないじゃナいか」


「儂はまだ様子見させてもらうぞ。嫌な予感がする」


 薄情者〜! と冗談めかして言いながら、一人の白衣を纏った女が姿を現す。Evil angelの内部から這いずり出たその女は、地平最悪の研究者である。【融滅】。

 あくまで研究者であり、何かを生み出すことが本領である【融滅】だが……二つ名を得る者に、直接戦闘が出来ない者はいない。彼女もまた、強き戦士の一人なのだ。


「おい」


 渡がEvil angelと戦闘開始し、【融滅】が残りのメンバーに襲いかかろうとしたその時。巨大な禍々しい腕が彼女を押し潰すようにして出現した。落雷か何かのようだった。

 何度も何度も何度も何度も。最初は抵抗していたらしい、ガシンガシンという何かを弾くような音が、グチャリべチャリという肉を潰す音に変わっても。飛燕狭霧が何も出来ずに呻いている……それだけで、こうも怒りが湧き出る。

 焔緋軌光の攻撃だった。


「どこの誰だか知らねえが、生きて帰れると思うなよクソ女がァ! 腐れ外道めが、肉片になるまでブッ潰す!」


「イッヒヒヒヒヒ! 先に言おうよソういうことハさァ〜! アチシじゃなカったらもう死んデたんだぜ〜!?」


 だが、何事もなかったかのように【融滅】は現れた。額から流れる冷たい血を舌で舐め取り、肘の先から出現させた彼女の専用武器を煌めかせながら。悪魔の笑みを携えて。


「おうおう……どこにでも血気盛んな奴はおる……」


 そして、渡と交戦開始したEvil angelから降りて、戦場全体を見渡している鬼蓋。彼女もまた、例外ではない。【融滅】の協力者である彼女も、逃れられない戦闘の運命。

 グレイディ、そして軌光を除いたリィカネル部隊。彼らは鬼蓋を知っていた。+5のトップ、理想郷の主。


「鬼蓋宗光。【幻凶】の名を持つ者。本心としては心の底からあちらの加勢に向かいたいが、今の軌光のそばに居ると一緒に潰されそうで敵わん。まずはおまえから潰す」


「たかだか四人がかりで偉そうに。Evil angelに最上第九席一人と、【融滅】に一般隊員一人? 戦力分配も出来ん雑魚共が、何人かかろうがこの儂を殺せるはずが」


 バグシャア! という聞いたこともない音が響き渡る。視線を向けると、Evil angelの肉体が前後で分断されていた。地下にある部分も含めると大した痛手ではないが、ただの人間があの質量を刀一本でぶった斬れるのか? どんな……実力をしている? 神器の能力なのか?

 そして、【融滅】も防戦一方。四方八方から降り注ぐ巨大な拳と、レギンレイヴ仕込みの格闘術……戦えると言っても研究者が本分である【融滅】では手も足も出ない。


「……」


「戦力分配が……なんだって?」


「………………クソガキ共が」


 交戦開始。

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