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第三十三話 渡り行く

「二人とも、報告が遅れてしまって済まないが」


 軌光が返答に迷っていたその時、少し焦った様子のカイムが部屋の扉を開けて入ってきた。どう返すか、用はなんなのか、まずシバくべきか……思考が混ざり、フリーズする。


「エスティオンの人間が向かってきている。到着まで後一時間程度だろう。急いで準備してくれ……別れの時間だ」


 ああ、そうか。もうそんな時間か。

 飛燕と視線を交わし、頷く。二人とも荷物は作り終えているので、後はそれを持ち出すだけだ。とりあえず先程の会話の続きはまた、エスティオンでするとして……軌光はカイムと一緒に退室する。ついでに一発シバいておいた。

 色んな人に挨拶をして回ると、時間はあっという間に過ぎた。久々に見る荒れた大地は、地下より幾分か乾燥しているように思える……地平線の彼方に砂煙が立ち込めていた。


「アレだ。軌光……説明とか、頼めるかい?」


「おう。まーすぐ攻撃してくるこたあねえだろ」


 無言で、迫り来る輸送用車両を見つめる。神器の補助ありきで動くソレは、逆に神器の影響が強すぎて、本来の車とは隔絶した速度、勢いで駆動しているのだという。

 軌光の肉眼でも、乗っているメンバーが見えるようになってきた頃。輸送用車両は停止し、中からはグレイディとリィカネルが顔を出した。そのまま歩いて向かってくる。


「ほらな」


「軌光boy! 大丈夫だったかい、息してるかい!」


「おー大丈夫だぜー、なんもされてねえよー」


 飛燕やセレムを警戒しながらも、リィカネルが駆け寄ってくる。歩くペースを崩さないグレイディは、いつでもセレムたちを攻撃出来るように神具に手を伸ばしている。

 流石の油断のなさと言うべきか。しかし、レギンレイヴの人間も攻撃する気はない。何事もなく軌光とリィカネルは抱き合い、セレムたちは頭を下げて敵意がないことを示した。


「良かった……僕は、君が人体実験でもされてるんじゃないかと思って。本当に、本当に良かった……」


「寧ろ歓迎してくれたよ。あそうそう、この飛燕をさ、正式にエスティオンに入れてえんだけど、良さそう?」


「それは黄燐に話を通してみないことには分からんな」


 軌光の問いにはグレイディが返答した。あくまでグレイディは最大基地外戦力であり、リィカネルは神器部隊の下っ端だ。そういったことを独断で決めることは出来ない。

 丁度車に通話用のアンタレスがある。なんにせよ、軌光誘拐についてレギンレイヴの人間を一人、連れていく予定だったので……帰りの車の中でそれについても話すことにした。


「拍子抜けだな。そちらに敵意がないとは」


「あの時は申し訳ない。ただ、あなた方を動かさないために必要なことだった。罰はなんだって受ける。本当に申し訳」


「いや、いい。今後レギンレイヴは一切の活動を停止するのだろう? であれば、何もする必要はない」


 ありがとうありがとうと感謝の言葉を口にしながら、飛燕たちの荷物を運ぶ。短い時間だったがセレムとグレイディたちも仲良くなり、必要であればレギンレイヴはいつでもエスティオンの救助に向かうという契約も取り付けた。

 全員車に乗って、出発準備は整った。飛燕とセレムは、もう別れを終わらせている……少し名残惜しそうにしながら、一度強く抱き合った。確かな家族の絆を感じられた。

 出発する。地下から顔だけ出したカイムたちが、大きく手を振って送り出してくれている。軌光と飛燕も手を振って返し、どんどんレギンレイヴの拠点が離れていく。


「……うん! セレム……セレムお父さん!」


 その振り絞った声に、グレイディの運転する車の速度も少し落ちる。視界の果てで僅かに認識出来るレベルにまで離れていても、セレムの驚いた様子がよく見える。


「今までありがとうーーー!!!」


「俺の……それは、俺たちのセリフだーーー!!!」


 そして姿が見えなくなる。軌光もリィカネルも、渡も狐依も綺楼も……その暖かさに、気付けば微笑んでいた。

 目の端にほんの少し溜まった涙を拭って、飛燕と軌光が視線を合わせる……次はいつ帰ろう。そんなことを考える。

 その地響きが、地平線の彼方を呑み込み破壊するまで。


『一応……科学者だかラさァ! 論理的な理由を言っテおくとねえ!? 新鮮な死体が沢山手に入るカらさァ!』


 其は、おぞましいミミズのような姿だった。大量の腐肉を繋ぎ合わせて作られたのだろう、エスティオン基地よりも何倍も大きい体躯をした、紫色の、あまりに巨大なナニカ。

 ソレから響き渡る声は、聞いているだけで不快感を煽る女のものだった。地平全土に響いている気がする。


『レギンレイヴの物語は、こコに終結〜〜〜!!!』


 焔緋軌光がいる間は手を出さない。故に、彼がいるという事実が、レギンレイヴの寿命を延長していたのだ。

 今、終わった。

 誰も姿を見たことはなかった。だが、その怪物の様相が、声が、レギンレイヴの拠点を地下から丸ごと呑み込んだその行為が、全員の脳裏にその存在を浮かび上がらせた。

 彼女の破壊は“死を運ぶ”。何人も逃れられず、不可避の死の運命に翻弄される……万物を融かし滅ぼすようなその光景に恐怖を抱き、人々は彼女の二つ目の名を決定した。

 史上最悪最凶の研究者。【融滅】、と。

 そして、その怪物の背で嗤う者。彼女はそのあまりの大きさの違い故に、気付かれていない……しかし、その力を以てして、二つ目の名を与えられた者であった。鬼蓋宗光。


「……………………………………あ?」


 蠢いていた者たち。

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