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第三話 暴走

「第四席〜? あ、いた。第四席、今よろしいですか」


「なに、あたし今姫と遊んでんだけど。それより大事?」


「大事ですね〜。少佐が行方不明になりました」


「どうでもいいだろそんなもん……」


 総合組織エスティオン本部、別名旧東京ドーム。第四席と呼ばれたその人は、全身を黒で統一したスーツ姿の女性だった。スラッと伸びた脚や艶やかな黒髪、そして本人も特に気にしているこれ以上ないほどに絶壁な胸部。

 目の前で楽しそうに遊んでいる少女の頭を撫で、不躾にも二人の時間を邪魔した連絡員と向き合う。


「少佐がなに? 代わりはいくらでもいるだろ」


「いや、それだけじゃないんですよ〜。どうも観測室によると死亡の線が濃厚で、神器の暴走が原因だそうです」


「……暴走? ほう、そりゃ……逸材の匂いがするな」


「逸材なのだ〜? もしかして、私たちの出番なのだ!?」


 いつの間に移動していたのか、第四席と連絡員の間には、つい先刻まで楽しげに遊んでいた少女がいた。第三席、と連絡員が呟く。輝くような瞳で二人を見つめていた。

 桃色髪は顔の上半分を覆い隠すほど長く、後頭部でフリフリ揺れるツインテールが可愛らしい。ピッチリとした、ボディラインの浮き出るスーツは、もっと女性らしい人間が着れば魅力的なのだろうが……彼女だと、特になにも感じない。


「そうなります。少佐の件は仕方ないとして、観測室の捉えた暴走した神器及び神器使いの捕縛、お願い出来ますか」


「やるしかないんだろ? 超特急で終わらせてやるよ」


「早くおままごとの続きがしたいのだ〜。場所教えるのだ」


 連絡員が、情報端末としての機能を保有するアンタレスを覗き込みながら情報を伝達する。暴走した神器の座標、当時の状況と現在の被害状況……あまり、余裕はない。

 周辺に人間らしい人間がいないのが幸いだった。少佐と、彼の連れていた部下数名は尊い犠牲だ。寧ろ、彼らを失うことで新たな神器使いが手に入るのだと考えると……マイナスよりも、プラスの方が圧倒的に大きいかもしれない。


「オールOK。任せときな、多少の被害には目瞑れよ?」


「必要経費と考えます〜。好きなだけ暴れてください〜」


 二人は、手を振りながら去っていった。彼女たちなら、数十km離れている現場にも数分で到着するだろう。いつも思うが、神器の身体能力補正の倍率はイカれている。


「……腕の数本、なくなっていても仕方ないですかね〜」


 彼女たちの“やりすぎ”を止めることは出来ない。

 最上第九席と呼ばれる九人の内の、二人だった。


 ――――――


『神器使いは発見出来ましたか〜? こちらは見つけていますが〜。会話可能な距離まで近付いてもらえますか〜?』


「注文が多いな……あと、距離詰めるのは無理そうだぞ」


 二人がここまで向かう間に、エスティオンの学校管理課に掛け合ってもらっていた。結果は、生徒に該当あり。二年次の、焔緋軌光というそうだ。不良っぽい見た目をしている。

 彼の普段の様子は、アンタレスを介して見た。少しガラの悪い好青年といった様子で、嫌いなタイプではないが……


「汚染深度がヤバい。たぶん人としての意識はねえな」


『分かりました〜。即時制圧を開始してください〜』


「人使いが荒いにも程があるんじゃねえか?」


 エスティオンの神器保管庫から、勝手に持ち出されていた神器は二つ。剛腕神器と、戦蓄神器。

 軌光の様子を見るに、彼は剛腕神器に選ばれたか。見たことはないが、魔界か何かの生物のような見た目に変貌した両腕は、禍々しい黒炎を放っている……更に、蠢いている?

 表情に人間らしさはない……最早、獣だ。暴走により積み上げられたのであろう瓦礫の上に立つ彼は、さながら塵の王と言ったところか……まだ、気付く様子はない。


「姫、秒での制圧は諦めよう。前担当した槌とか釘とは訳が違うわ、下手に油断してかかると死ぬかもしれん」


「それは言い過ぎなのだ。でも慎重に行くのは賛成なのだ」


 恐ろしい、と思っている。第三席も第四席も優れた神器使いではあるが、それは同時に、人をこんな化け物に変貌させてしまうような道具の扱いに慣れてしまったということだ。

 神器。未だ謎の多い道具……分かっているのは、装備者の適性に応じた身体能力向上補正と、ものによっては能力を持つということぐらい。暴走の原理は未だ不明。


「懐かしさすらあるが……お喋りはやめにしようか。あたしが引きずり下ろすと同時に意識の刈り取りを頼んだ」


「任せるのだ。追撃と連撃は臨機応変に行くのだ」


 OK、と呟いて第四席は跳んだ。天を衝く塵の頂上に。

 その姿を視界に捉えた軌光は、反射的に腕を突き出す。握りしめられた拳に生えた棘の何本かが射出され、絶対に触れてはならないと本能で分かる黒炎が尾を引いた。

 空中で身を捻って躱す。その反射神経の良さに内心感心していると、第四席の後頭部が異常な熱を感じた。


 (……は? 速いにも限度が……あるだろう、がい!)


 キュリキ、ギュキ。

 そんな奇っ怪な音を立てながら、軌光の腕が肩から切断される。即座に生え変わったが、驚きを隠しきれない様子で静止した。塵の上で、第四席と軌光が睨み合う。

 第四席の心中は、驚愕に満ちていた。

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