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第二十二話 お迎え

「言いかけたが、神具を作ったのはおれの父さんだ」


 神器は通常一人一つ。それを越えると、神器からの身体能力向上効果が重複し、また能力を適応させるための体細胞変質が許容量を越えてしまい、人体が崩壊する。

 だが、人の手の届く範囲にある神具は、いくら装備したところで人体への影響はない。もし神具の製作者である、グレイディの父がまだ生きているのなら……今頃、神器ではなく神具の方が使われていたのかもしれないというほど。


「父さんは、おれが子供の頃にガラクによって殺されてしまった。母さんも、その時に一緒に死んだ」


 なんとか半分の神具は守り抜いたが、もう半分はガラクに奪われた。最大基地外戦力になるまでは、それを取り返すことと、ガラクへの復讐が目的で生きていた。

 しかし、エスティオンと契約を結んでから……ある理由でそれをやめた。すると今度は、ガラクの方がグレイディに執着するようになった。まるで依存しているかのように。


「ついには《おれあるところにガラクあり》と言われるほどになってな……すまない。今回も例外ではなかった」


「結果論……でしょう? 助かりましたから、大丈夫です」


 少しバツの悪そうな顔をしながら、グレイディは笑ってリィカネルの頭を撫でた。彼は子供の頃からエスティオンにいるようで、よくこうして可愛がられる姿を見かける。

 休憩中の暇つぶしとして、グレイディによる神具講座は続く。神器は由来の分からぬ兵器であり、適性のある者でないと使いこなすことは出来ない。加えて一人一つという条件があり、外見からも能力を推察するのが容易い。

 しかし神具は人の手により作られ、適性がなくとも装備出来る上に数の条件がない。見た目から能力を推察することは不可能に近く、事実読まれたことは一度もない。


「例えばこれ……終極に至る羅針盤。黒色の羅針盤だが、これに込められた能力がどんなものか、わかるか?」


 そう言って取り出したのは、先端に鋭利な棘が煌めく黒色の羅針盤。ガラクとの戦闘でも使っていたのを覚えている。


「なんか爆発してたよな……普通に爆発するだけとか?」


「正解は羅針盤の示す方角に向けて突き刺すことで、その突き刺された物体の破壊に最も適した現象を生み出す能力だ」


「わかるかそんなもん」


「そう、それが神具の強みだ。神器にはない」


 一部例外はある。リィカネルの神器がいい例だ。大地を操る槌の神器など、想像出来る方がおかしいというもの。

 そして、子供でも分かる神具の強み……それは手数。無数の選択肢から最適解を編み出す脳さえあれば、神器使いには不可能な、“戦略の変更”が可能となるのだ。


「父さんが生きていれば、今頃神具が覇権を取っていた。才能の損失だ、悲しいな……さて、そろそろ休憩は終わりだ」


 アンタレスに何やら文字を打ち込みながら、グレイディが立ち上がる。撃退という形で任務が終わり、ガラクが……アスモデウスが敵意を顕にした事態を報告せねばならない。

 ペナルティとして認識するなら、いい任務だった。これほどまでに命の危険を感じることはそうそうない。


「ほら帰るぞ飛燕、立てよ」


「………………ござる」


「あ? なんて?」


「拙者、お迎えが来たでござる」


 にいっと笑った飛燕が、天高く手を伸ばす。

 咄嗟に反応したグレイディが、その手を切り落とすべく断罪闇刀を振り翳した。飛燕の立ち位置については、先刻既にリィカネルが説明している。彼女はレギンレイヴの人間だ。

 多少共に過ごして情の湧いている彼らとは違い、グレイディは一切躊躇せず、飛燕の人生を終わらせることが出来る。

 だが。


「最大基地外戦力グレイディ・ウェスカー。それ以上動くなら、おまえからは四肢をもぎ取らせてもらう」


 飛燕の手を引いて、翼が生えているかのように浮遊する男がいた。屈強な肉体ははち切れんばかりの筋肉を主張し、射殺すような眼光はグレイディですら動きを止める。


「やれる、ものなら。たかだか諜報組織の戦闘恐怖症ビビりチキンゴミ野郎。見てくれだけの筋肉だろうが、どうせ」


 (容赦ない罵倒の割にバリエーションが少ないな……)


 恐らくは、なんらかの飛行を可能とする神器。

 グレイディの言うことは正しい。レギンレイヴは戦闘力の面においてエスティオンやアスモデウスに著しく劣る……けれど、それを補填するだけの情報を持っている。

 正面から戦うのは分が悪い。だが裏から戦うとレギンレイヴの独壇場……“戦わない”のが最善の組織なのだ。


 (逃げられる訳にはいかん。多少なりと飛燕はエスティオンの情報を持っている……しかし、戦ったところで勝機は)


 ないに等しい。何故なら、見られている。恐らくは。

 迎え、というのは虚偽だろう。最初から見ていたはずだ。最悪を想定して動くなら、自分でもそうする。

 となると、こちらの手の内は割れている。分が悪すぎる。


「……口だけか、グレイディ。く、く。腰抜けめ。俺たちはもう帰らせて……ああ、いや。それは不公平か?」


 筋肉男が、腕の中に抱えていた飛燕を肩に載せる。

 おもむろに、手のひらを軌光に向ける……すると、突如として軌光が飛燕の載っている肩の反対側に移動した。


「こちらも、一人拉致させてもらうとしよう」


 そう言い残し、筋肉男は凄まじい速度で逃亡した。グレイディが追いかけようとするが、神具を用いても追いつける気がしない……今は、アンタレスからエスティオンに連絡。

 焔緋軌光が拉致された、と。

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