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第二十一話 撃滅神具

「おかしいと思った。エスティオンの人間が、わざわざ見つかる方法でアスモデウスに殺されるなどと」


 ボロボロの古びたマフラーに、旧文明においてヘッドホンと呼ばれた電子機器を装着している。軽装に見えるが、そのどこかに十種の神具が隠されているのだという。


「おまえだったのか。道理で誘いが下手だと思った」


「ぐ、は、グハハハハハハ!!! 遅かったなあグレイディ・ウェスカー! さあ、渡せ! 神具を! このおれに! それは全て、己のものなのだから!」


「ゴミが。これは、一つ残らずおれのものだ」


 飛行。下卑た煌めきを放つ翼が、グレイディの背中から生えていた。グラルフォスの誘惑の翼……高速移動と挑発効果を保有する、グレイディの戦闘時における基本武装。


 (……まただ! あの高速移動が来る!)


 ただ、ガラクのソレはグレイディを遥かに上回る。

 物理法則すら無視した移動……グレイディは、視線を向ける程度の反応すら出来ていない。右手に持った氷の欠片を、先程までガラクの立っていた位置にぶつけようとしている。

 背後のガラクが手を振り上げる。世界を断つ線を引こうとしている……グレイディが、縦に両断される……!


「エルケイル生体写本。氷塊侵食」


 両断されたグレイディが、どろどろに溶けて消えた。

 遥か上空から飛来した“もう一人のグレイディ”が、手に持った球体を振りかぶる。反応出来ていないのは……ガラク。


「暴圧蟲球。ガイオーンの修羅の門」


 その球体は、接触と同時に弾けて、無数の蟲となってガラクの全身を覆った。そして、グレイディの首元にかけられていたネックレスが弾けて……闇が溢れる。斥腐の召喚する【千手】のような、生気のない手が出現する。


「断罪闇刀、終極に至る羅針盤――――――」


 爆発。蟲と手により姿の見えなくなったガラクを中心にして、後方に退避した軌光たちにすら届く規模の大爆発が発生した。翼を煌めかせ、グレイディも後退した。

 恐ろしい。この地平に、これだけの強者が……二人も。或いは、誰もが畏怖し尊敬する最上第九席。彼らもこれほどの力を持っているのなら……それは、一体。

 どれほどの戦争の歴史が積み重なった結果なのか?


「けほっけほっ……僕たちにも言えることだけど……」


 グレイディは、無傷。対して、部隊の人間は。

 そこに明確な差があった。臆せず、怯まず、徹底的な攻撃を叩き込む……軌光たちは死を恐れていた。全力、全開……心でそう思うのは容易い。けれど実行に移せなかった。


「高みを。目に焼きつけるんだよ、軌光boy……!」


 ――――――


「グハハハハハハ!!! 良い、良いなあ!」


 面倒臭そうに後頭部を掻きながら、神具を構えるグレイディを見つめている。地平で唯一並び立つ者……地平で唯一、この思いを共有出来る者。その到来がこんなにも!

 おまえは、ただ生きるために戦うのだと!


「奪うにはまだ早い! まだ乾いている! だがそれは戦わない理由にはならない……さあ、かかってこい!」


 言葉による返答はない。

 意識の外、地下……先刻の攻防において、効果を発揮していない神具が一つだけあった。エルケイル生体写本、暴圧蟲球、ガイオーンの修羅の門、断罪闇刀、終極に至る羅針盤。

 そして、氷塊侵食。

 ガラクの下半身は、感覚を失うほど凍りついていた。


「おれはもう、おまえにうんざりしている」


 触れた部分から万物を侵食する、一片の氷塊。ガラクがそれを破壊する一瞬で、既に到達している。間合い。

 原子構造の破壊による斬撃を可能とする断罪闇刀は、対極である、原子構造の変化が一切行われないことによる絶対防御を可能とする光臨朧盾に阻まれていた。

 今それは、氷塊の破壊に使われた。


「これ以上付き纏うな。そして、神具を返せ」


 にい、と裂けるように釣り上がる口角。狂気。

 この状況、ガラクに反撃も防御も回避も出来ない。避けようのない“死”……それでも尚、嗤うのか。グレイディ・ウェスカーと戦っている……たった一つの、その事実だけで。


「それはおれの……そして、おれの父さんのものだ」


 振り切る。断罪闇刀が首を落とした。


「グハハハハハハ!!! 流石だなァグレイディ・ウェスカー……また、己の負けだ! だが、はは……首を落としても死なぬと分かっていてこうするとは……まだ、おまえも!」


 ガラクの過去を、境遇を、誰も知らぬ。

 ただ、乾いている。父を失い、母を失い、その遺産すら奪われたグレイディに、異常なまでに執着している。おまえは己と同じだとのたまい、いつまでも追いかけている。

 うんざりだ。もう面倒だ。心の底からそう思っている。けれど、ああ……またこの結果が訪れたのだということは。


「おまえも、己との戦争を、まだ求めている! グハハハ」


 グチャリ、と頭を潰した。彼の蘇生用神具は、ここから離れた場所にある……そこでまた蘇生するだろう。

 エスティオンでは常識だ。グレイディとガラクには、浅からぬ因縁があるのだと。そして、運命の神もそれを弄ぶかのように……何度も、彼らを引き合わせている。


「……迷惑をかけたな、新米共。そこの何が何だか分からんといった顔の新顔には後で説明してやる。とりあえず、近くにおれの野営地があるから……そこで、休むか」


 任務は終了。撤退させることは出来た。

 この世界の頂点を、認識することとなった。

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