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第二十話 堅牢神具

神具とは。

 由来の分からぬ超兵器たる神器を、ある科学者が人の手の届く範囲で模倣したものである。二十種存在するとされる神具の半分は、最大基地外戦力の一人であるグレイディの手に渡り、そして残りの半分は……


「光臨朧盾。贄共よ、餌共よ。佳く泣け、愚かしく」


 アスモデウス頂上幹部、ガラク・パランティアの手に。


「散開! 絶対にガラクの攻撃に触れてはならない!」


 リィカネルの号令と共に、それぞれが最適な配置に散開してガラクを囲む。防御のリィカネル、攻撃の軌光、遊撃の綺楼に飛燕、支援の狐依。“生き残る”ための最善を。


「餌に釣られてまた餌が訪れる。残りの神具を手にするために、おまえたちという贄はどうしても必要だった」


 手を横薙ぎに振る。その手に何かあった訳ではないが、軌光ほどの動体視力があってようやく認識出来る……薄く淡い閃光が、線のようになって仲間たちの首に触れていた。


「――――――伏せろ!」


 リィカネルの神器が、後方の二人を無理やり地面に押し倒した。軌光と飛燕は逆に跳躍し、線から身を躱す。

 刹那、無音で“世界が斬れた”。手を振る以外に予備動作はなく、また閃光以外に察知できる要素もない。空間が歪み、景色が揺れ、概念としての“斬”がそこにあるようだった。


「グルミレルの繁栄の証明」


 名を呟く。飛燕の水筒から飛び出た水が本人と軌光を包み込んで、跳躍位置の前方に降り立たせた。着地の隙を狙ってくるかに思われたが、ガラクはただ静観している。

 後ろ手に隠した水を、弾丸の形状に変えている。軌光も拳を飛ばす準備を終え、リィカネルたちも次の動作に移るための状態に入った。今はただガラクの動きを待つ。


「……覚えたか?」


 背後。水より速く、大地の躍動が襲う。

 しかしガラクは、戦闘開始時から展開している光の盾……光臨朧盾を用いて防いだ。本人の体幹もあってか、一ミリも揺らがないガラク……そこに、更に水の弾丸が襲う。

 リィカネルすら揺るがした一撃……しかし、またしてもガラクは不動。虫けらを見るようなつまらない目をしている。


「弱者、強者を問わず……己の生存を示す証左として。これから贄共の命を奪うものの名を、刻み込むことにしている」


「……ッルァ!」


 上空から巨大化した腕、正面から軌光の拳。大地は流動してガラクの足場を乱し、水の拘束具が動きを封じた。

 光臨朧盾の上、顔面を穿つ軌道。下手な加減や、命を奪うことへの躊躇いは消す。頭を潰し、破壊し、徹底的なまでに生命活動を停止させる。そうでなくては、こちらが……


「豪炎豪爆」


 拘束具は完全に蒸発した。ガラス化した大地は流動を停止し、降り注ぐ拳はヒビ割れて砕けた。光臨朧盾の不可解な上空への移動によって、軌光の拳は防がれる。

 原理不明、光臨朧盾を透過してガラクの手が軌光の首を鷲掴みにした。他の仲間の動きが止められる。


「厄介な攻撃力だ。まずはおまえから贄とする」


「……狐依!」


 名を、本の神器。

 頁に描かれた事象を現実のものとして顕現させる、特異な神器。軌光の首を掴んだガラクの手から、再び先程の炎が噴出する寸前……軌光は、その空間に引きずり込まれた。

 緊急回避の手の内を明かした。二度目はない。不思議そうに自身の手を見つめ、ガラクの視線が狐依を睨んだ。


「ひっ」


「脆弱。緩慢。怠惰。覚悟さえも出来ていない。率いる者からの号令がなくては、仲間を生かすことすら出来ぬか」


 まただ。視線で追えないほどの高速移動。

 振り上げられた拳が、狐依に命中する寸前……本から飛び出した軌光の迎撃が、僅かにガラクの体を揺らした。

 後退。逡巡の後、ガラクの手が再び振られる。


 (……消えた! 同時発生は不可能!)


 同じように伏せ、跳躍。先刻世界を裂いた線は消え、新たに現れた線が軌光たちの“移動後”の首を狙った。

 対応力が高すぎる。逆の動作で躱すが、体の一部を持っていかれた。四肢ではない、まだ動ける。この攻撃には、どんな防御も意味を為さない……動き続ける他には。


「ふむ。ワンパターンな動作には慣れる、か。ただの贄ではないようだ。して、あの者はいつ訪れるのか?」


 ガラクの手に、白い刃が握られた。死。

 詰める。使わせてはならない。


「フルカレラの崩壊の兆候」


 拡散する。空間断裂の斬撃が、上下左右に広がった。

 動作が必要だと、誰が示しただろうか?


 (あっこれ、死……)


 光臨朧盾の対極に位置する、限りなき闇の一閃。

 雷鳴の如く舞い降りたソレは、世界を断った概念としての“死”の全てを破壊した。ガラスの割れるような音。


「遅れた。何故約束した集合地点にいない」


 この“遅れた”は、謝罪ではない。

 己が遅れた責任の所在を問うている。


「申し訳ない……こちらの方が安全かと思いまして」


「おれは結果論信者だ。襲撃されている今、通用しない」


 軽口を叩きながらも、ガラクから視線は外していない。

 悪魔のような、待ち望んだ、歪んだ笑み。


「……謝罪は後で。救援に感謝します――――――」


「――――――最大基地外戦力、グレイディ・ウェスカー!」


 第二の神具使い。

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