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第十九話 遭遇

「許可できない。僕たちの部隊では危険が過ぎる」


「これは命令だよ。厄介極まる縁を持ち帰ってきたことと、飛燕くんという外部要素を任務の一面があるとはいえ引き込んだこと……それらへのペナルティと言ってもいい」


 エスティオンは一枚岩ではない。

 黄燐率いる研究室と、中枢を担う神器部隊。裏方である支援部隊の意見も無視は出来ないし、観測室や制御室も同一の人物が総括であることもあり、巨大な派閥となっている。

 それらとの会議を開いた結果、リィカネル部隊にはなんらかの処罰が必要だという結果になった。エスティオンとしては+5との縁は最小限に抑えておきたかった……が、偶然とはいえリィカネル部隊が強い縁を結んでしまった。

 また、レギンレイヴの諜報員を引き込んだことも。これに関しては、研究室による命令の結果だと黄燐も抗議したのだが……神器部隊を除く他の部隊がそれを完全に無視した。


「彼らは気に食わないんだよ、新人には到底見合わない戦果を挙げた君たちが。レギンレイヴを捕らえたことは本来賞賛されるべきなんだが……理解してくれ、リィカネルくん」


「そちらの都合で部隊員を危険に晒すことはできない。それはどう考えても最上第九席案件なのは分かるだろう?」


 頑として譲らないリィカネルに、黄燐は喉元まで出かかったため息を飲み込んだ。この場合、ため息を吐きたいのはリィカネルの方だろう。こちらがするのは、違う。

 お偉方のわがままに、部隊員を巻き込めない……リィカネルの意見はもっともだ。おかしいのあのお偉方なのだ。


「甘えるようで悪いが、父さ……シュヴェルビッヒさんも動くと言っている。彼に任せれば済む話だ」


「……すまない、リィカネルくん。これは決定事項なんだ。最大限サポートする、なんとか……堪えてくれ」


「そちらの意地で、僕の部隊を危険に晒せるか!」


 軌光と同じタイプで、普段は騒ぐタイプのリィカネルではあるが、こういった真面目な会議の場では冷静でいる人間のイメージだった。こんな、声を荒らげることは。


「僕はリーダーとして、彼らを失うことを許可しない。僕が前に進むんだから……後に続く誰かを、失ったりしない」


 息を呑む。彼の過去を、失念していた。

 前に進む誰かを認めることは出来ない。だからこそ自分が前に立って、他の全てが後についてくるようにした。仮初のリーダーという皮を被って、なんとか取り繕って。

 そんな人生の全てが否定されるかもしれない。こんなことを許可することは、どうあっても出来ないのだろう。


「……最大基地外戦力、グレイディを派遣する。到着まで時間はかかるが……それで、手を打ってくれないか」


「最大基地外戦力……それなら確かに、僕たちの安全は保証されるようなもの……報酬は、沢山もらうからね」


 そう言って、リィカネルは退室した。

 深い、深い。哀れみと怒りのため息が零れた。


 ――――――


「というワケで、今回の任務はこのA66地区で行われる」


「アスモデウスの人間がエスティオンに手ぇ出したとかなんとか聞いてるが……そもそもアスモデウスってなんだ?」


「エスティオンに並ぶ、殲滅組織の異名を持つ組織だよ。攻撃力だけで言うなら、ウチ以上であるとされている」


 更に言うなら、すぐに多方面に喧嘩を売る短気さも厄介だが……それを話す必要はないだろう。

 軌光の発言通り、今回の任務はエスティオン隊員を殺害したアスモデウスの人間の発見、駆除。アスモデウスの隊員は全員が上級神器部隊員程度の実力を持つため、こんなのは新米部隊が遂行するべきものでは決してないのだが……

 ペナルティ、だったか。ご老人方も、嫉妬深いものだ。


「黄燐が頑張ってくれたお陰で、最大基地外戦力が一人派遣されることになってる。到着までここで待機しよう」


 任務の目的地であるA66地区まで、まだ三十分ほど歩かなくてはならないが……彼なら、その距離でもこちらを発見出来るだろう。安全なこの場所での待機を優先する。


「分からないだろうから先に教えておくわね。最大基地外戦力は、例外的な強さを持つ神器使いの総称」


 単に強い訳ではない。

 どこかしら例外的な力を保有し、その上で状況次第ではエスティオンに牙を剥きかねない者。それらは最大基地外戦力と呼称され、同時に飼い慣らされている。

 彼らの求める報酬をエスティオンは用意し、それ目当てでエスティオンに力を貸す。普段は自由に生き、助けが必要になった時だけ、その首にリードを嵌めるのだ。


「そんだけ今回の任務はヤバいってコト……ま、いい機会なんじゃない? 私のリィカネル……んほん、私たちの部隊の強さを示すチャンスよ。気張っていきましょう」


 またも甘酸っぱい匂いを察知し、軌光と綺楼、飛燕は少し二人から身を離す。あんなもん近くで浴びていられるか。

 いつも通り、狐依の“攻め”が始まる……そう思われた次の瞬間。飛燕の手がひとりでに動き、何もない空間にくないを投擲した。ソレは何かに撃ち落とされ、転がる。


「なんだ……まだ、あの者は来ていないのか」


 黒い外套を脱ぎ去る。傷だらけの男がそこに立っていた。

 全身が総毛立つのを感じていた。軌光でも分かる……この男は、“死”に触れすぎている。濃密な血の匂い。


「標か、仲間か、それとも……餌と、なるか?」


 リィカネルはその男を知っている。

 アスモデウス頂上幹部の一人……無類の“神具”使い。


「ガラク・パランティア……!」


「汝らの道行きに、せめて救いの手があらんことを」


 生存しなくてはならない。彼がこの場所を見つけるまで。

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