第十八話 次の任務は
「そういや、あの攻撃はなんだったんだい飛燕lady」
アルウェンティアの介入により、なんだかすっきりしない終わり方をした“適当な任務”。渡された紙の検査と、飛燕との絆を深めるのに丁度いい任務を探すために、リィカネル部隊は一時的な休息を与えられていた。
眠気が限界ということで眠った軌光、いつも通り本を読んでいる狐依、部屋の隅で黒魔術を研究している綺楼……必然的に、リィカネルと飛燕が会話を繰り広げることとなった。
「あの攻撃……ああ、拙者がリィカネル殿を槌越しに攻撃したアレのことでござるか?」
「そうそう。神器の攻撃ってのは分かるんだけど、だとしても水にあんな火力が出せるのかなって思ってね」
なるほどでござる……と言って、飛燕は少し俯いて黙りこくった。狐依と綺楼も耳を傾ける。彼女たちは後退していたので、その光景を直接見ている訳ではないが……リィカネルの防御特化状態を揺るがすほどの攻撃は少し気になる。
その神器の見た目故に勘違いされやすいが、リィカネルは防御タイプの神器使いである。軌光が本気でブチ込んでも揺るがないほどの防御性能……飛燕はそれを崩した。
「確か……最上第九席第一席の神器は、狙撃銃の形状をしていると聞き及んでおりまする。そうでござるな?」
「そうだけど……それがどうかしたのかい?」
「彼の攻撃は“点”なのでござる。平手打ちと刺突、どちらが痛いかを考えればすぐに分かる話でござるよ」
イマイチ分かりにくい例えだが、なんとなくは分かる。
「水の神器は圧縮が可能。極限まで密度を高めた水の弾丸をブチ込んだ……それだけのことでござるよ」
それなら遠隔操作も可能でござるからな、と付け足す。
なるほど、確かにそれならあの高速移動も納得出来る。槌の向こう側の“点”を突いた水の弾丸……圧縮したソレを放ったというのなら、あの威力も出るだろう。
「……リィカネル殿、槌の形状操作は可能でござるか?」
「できなくはない。土で舗装すれば……それがなにか?」
「殴打する面の中心を尖らせれば、破壊力はかなり増すでござるよ。そういった工夫も勝利には必要な要素でござる」
目を剥く。その発想はなかった。
思っている以上に、“点”の効果は大きい。何せリィカネルの防御を崩している。その実感は誰よりもしている。
人はこんなにも大きな体躯をしているのに、腹の中心を細い矢で貫かれただけで死ぬ。それがリィカネルの槌ほどの質量で、更に大地の後押しを受けた速度で迫り来る……今までの非ではないほどの殺害効率を得ることが出来るだろう。
戦闘の度にそうするのは些か面倒ではあるが、それで破壊力、殺傷力が増すのなら惜しみはしない。こんなにも簡単な考えが、何故今まで出てこなかったのか……
「ありがとう飛燕lady、僕はもっと強くなれた!」
「初歩的なことでござるよ。褒められるようなことではござらん」
それでも、んふふ〜と笑う口角は上がっている。見た目とは裏腹に、結構乗せられやすい性格らしい……
(……あの子、敵……なのよ、ね?)
狐依の疑問が口に出されることはなかった。
――――――
「やっぱり……これ、絶対電話番号だ」
アンタレスのソレとは違う、黒い鉄の板を手の中で操作している。スイスイと指を動かすだけで光の配列が変わるソレは……旧文明において、スマートフォンと呼ばれたものだ。
アルウェンティアに渡された紙……名刺。それ自体にはなんの細工もなく、ただ電話番号が書かれている。
「こんなものを知っていて、あまつさえ現在でも使用しているとなると……あそこ以外には有り得ないな」
これは……相当困ったことになった。
現在の問題は二つ。輸送用神器を破壊出来る何者かの存在と、アルウェンティアの所属する組織との関係性。
前者は……どうしようもないというのが現状だ。映像記録の性質を持ったアンタレスの端末も完全に破壊されており、姿かたちの特定すら困難な状態にある。
また、これまでなんの情報もないことから……姿を隠すのが得意であると思われる。直接的なエスティオンへの被害がない限り、後回しにしてもいい問題であると言える。
問題は後者だ。せっかち且つ攻撃的、更に組織のトップがアレなあの組織は……今すぐ攻撃してきてもおかしくない。
「旧文明の残党、六人の将が支配する理想郷……」
名を、+5《プラスファイブ》。総合組織エスティオン、殲滅組織アスモデウス、情報組織レギンレイヴ……地平を支配する三大組織にも並び得る、最後の理想郷。
【楽爆】のような、二つ名を与えられた者……一つ目の名を鬼蓋宗光という女を筆頭にして結成された、組織にして都市……【幻凶】の楽園。
「とんでもない組織との縁を結んでくれたね君たち……!」
アルウェンティアとの接触すら、敵対行動と判断しかねない。何せ、理想郷の維持こそが彼女の生存意義。
早急に対策を練らなければならない……リィカネル部隊に与える次の任務も考えねばならないか。まったく、+5の本拠地はここからかなり離れているのに、どうしてこんな場所まで出張ってきていたのか、あの女は……
深い深いため息を吐いて、アンタレスに接続した。




