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第十七話 聖騎士アルウェンティア

「どうして拙者がこんな……まだ火傷も残ってる……」


「おまえが暴れたのが悪いからな。恨むなら捕まった自分の実力不足を恨んでくれよ。これが実力差ってやつだ」


「二対一の上で勝利したくせに何を言ってるでござる」


 手続きの云々は黄燐が済ませ、飛燕は一時的ではあるがリィカネル部隊に所属することとなった。軌光たちの任務は、与えられた適当な任務をこなしつつ、飛燕との絆を深めてレギンレイヴの情報を抜き取ること。

 かなり難易度が高いが、こちらにはコミュニケーション能力に優れたリィカネルと、一度仲良くなったらグイグイ行ける軌光がいる。黄燐的にはそう心配はしていない。


「拙者の神器が水じゃなかったら、今頃爆発四散して火葬でござるよ。拙者の幸運に感謝するでござるな」


「爆発物の量は三倍にしてるらしいからな、次なんかしようとしたらマジで火葬だぜ。大人しく従っとけよ」


「ぐむう……単体では拙者より弱いくせに生意気な……」


「HAHAHA、仲良くなれたようで何よりだよ」


 一時的に仲間になるとはいえ、ギスギスした雰囲気は任務という面でも精神面でもよろしくない。軌光と飛燕の相性は中々良いようで、部隊内には活気が満ちている。

 皆仲良くが一番だよねえ、と言いながら任務指令書を取り出した。二日前にエスティオンの物資補給部隊が襲われ、物資が奪われる事件があった。その現場に向かい、生存者を救出することと、可能であれば物資を取り戻すのが今回の任務となっている。なるほど確かに“適当な”任務だ。


 (人命救助。そして黄燐のことだ、どうせ戦闘になるのは確定なんだろう。どちらも心を開きやすい)


 誰かを助けることと、敵と戦うこと。そのどちらも、同行者に対して心を開きやすいものだということをリィカネルは知っている。はてさて思惑通りに行くといいのだが……

 そこから数時間歩いて、現場を発見した。物資補給部隊に与えられる特別な輸送用神器の反応があったのだ。


「ここら辺だね……皆気を付けて、敵がいるかもしれない」


 神器の反応を追い、周辺を探索する。荒らされまくった物資はそのほとんどが原型を留めておらず、食物は何一つとして残っていない。部隊の人間も……誰もいない。

 よっぽど組織的な犯行でないとこうはならない。どこかの組織が丸々関わっていても不思議ではない惨状だ……


「リ、リィカネル! ここ、これ、どういうこと!?」


 犯人を推察していると、突如狐依の絶叫が響き渡った。

 急いで向かうと、そこには神器反応を放ち続ける輸送用神器の核があった。だが、重要なのはそこではない……核が露出しているということは、“神器が破壊されたということ”。


「有り得ない……それほどの強い力、観測出来ないはずが」


「貴様らァ! 名を……名乗れェい!」


 リィカネルが、周囲への警戒レベルを最大にするよう指示しようとしたその時、遙か遠方から土煙を上げながら走る何者かが、凄まじい声量で怒鳴りながら迫ってきた。

 姿は土煙で見えない。だがそれは逆に言えば、姿が見えなくなるほどの土煙を上げつつ、走ることの出来るレベルの人間だということ。そんな人間はそうそういない。

 もしかすると犯人かもしれない。攻撃力と耐久性に優れた軌光とリィカネルが前に出て待ち構える。


「私は聖騎士アルウェンティア! 鬼蓋閣下率いる楽園都市の守護神である! さあ名乗れ、愚かなる罪人共!」


「誰が罪人だそっちは人殺してる癖によォ!」


「まだ確定した情報ではないけれどね!」


 見えた。純白の甲冑を纏い、顔の上半分を覆い隠す兜は装飾が美しい。赤い長髪は腰まで伸びて、手に持っているのは武器ではなく……旗、か? 獅子の紋章が描かれた旗。

 冗談かと思うほどに高く跳躍し、襲いかかってきたアルウェンティアは……軌光の叫びを聞いて急停止した。旗を地面に突き刺して、空中で停止したのだ。相当困惑した様子で、片手逆立ちのような冗談でも全く体が動いていない。


「……なんだと? おまえたちが殺したのではないのか?」


「あ? ンだよおまえが犯人じゃねえのか?」


「私は巡回中にこの現場を発見し、人を殺した罪人を捕らえるべく張っていたのだが……おまえたちではないのか」


 これは大変失礼した、と言いながら地面に降り立ったアルウェンティア。旗を高く掲げ、頭は低く下げて謝罪してきた。軌光たちもなんとなくそれに倣って礼をする。


「私の早とちりだったようだ。すまない。どう謝罪すればいいのか……そうだ、これを。いつでも連絡してくるといい」


 そう言って、アルウェンティアがリィカネル部隊全員に渡したのは、なんらかの番号の書かれた紙。正式名称を名刺と言うのだが、軌光たちにそれを知る由もない。

 これにて失礼する、と礼をして去っていくアルウェンティアの背中を見つめる。いきなり襲ってきていきなり帰って、忙しいやつだ……最後に変な紙も渡してきやがって。


「うーん……これ以上ここにいても収穫はないだろう。分かったのは、神器を破壊できる何者かがいるということと、物資補給部隊は全滅ということだけだ……帰ろう」


 そう言って歩き出す。

 飛燕との絆は、まったく深まった気がしなかった。

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