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第十六話 拾い物

「やあおかえり試験は無事合格なんだいその子はうん、うん……レギンレイヴの諜報員? はは、そんな馬鹿な」


 神器とは本当に便利なもので、試験の合否確認はアンタレスの端末が行う。状態識別により合格だと分かった黄燐は、軌光たちが帰還すると同時に労いの言葉をかけようとしたのだが……担がれている少女の方に目が行ってしまった。


「嘘じゃねえって。新米諜報員だとかなんとか、めちゃくちゃ強かったんだぜ? もうちょいで負けてたかもな」


「君たちにレギンレイヴの諜報員が捕まえられるとでも?」


 あまりに舐め腐られた発言だが、最上第九席ですら諜報員の身柄を直接確保するのは難しい、と聞くと……黙るしかないだろう。自分たちはまだ、試験合格程度の弱者だ。


「あーでも、この暗号はレギンレイヴか……マジか……」


「暗号だけでわかるもんなのか?」


「暗号文には組織の色が出る。レギンレイヴは定期的に更新しているようだが、これは間違いなくレギンレイヴだよ」


 こりゃあ大変なことになるぞ、と呟いて黄燐は研究室に向かってしまった。案内役の職員と交代し、労いの言葉と共に中央司令室に通される。これから正式に部隊として認めるための式典を開くのだという……随分と豪華だ。

 しかし、神器部隊の総数を考えると当然のことなのかもしれない。敵対組織との戦争で死にやすい神器使いは、段々と数を減らしている。ならば、組織全体で讃えるべきことか。


「よう、そいつはこっちで預かるぜ。合格おめでとう、だ」


「なのだ〜。おまえたち、すんごいお手柄なのだ〜」


 担いでいた飛燕を、式典に参加するらしい海華と月峰に預ける。こうして会うのは二回目だが、やはり美人だ。

 黄燐の部下だという職員から色々と権限を与えられ、合格を讃えられた後に、リーダーであるリィカネルに正式な部隊であることを示すアンタレスの端末が与えられた。

 普段とは違う笑みを浮かべたリィカネルのガッツポーズを、軌光は見逃さなかった。なんだか、我が身のことのように嬉しい。ああ、ここに絆がいれば良かったのに……


「あ、終わった? じゃ、ちょっと僕の部屋に来てくれ」


 式典が終わり、自分たちの部屋に帰ろうとした時、黄燐に呼び止められた。特に断る理由もないのでついて行くと、彼のベッドには飛燕が括り付けられていた。


「え、なによこれ。そういうプレイ? 軽蔑するわ……」


「狐依くん。そんなとこで変な知識を披露しなくていい」


 最早癖なのだろうため息を吐いて、黄燐が説明を始めた。なんでも飛燕は、レギンレイヴのかなり重要な情報をいくつか持っていると思われる。しかし、腐っても彼女は“あの”レギンレイヴの人間だ。そう簡単に口は割らないだろう。

 であればどうするか。自白剤をやり過ごす方法も当然あるだろうし、ここは友情や絆で揺さぶった方が早いだろう。


「ということで、この子は君らの部隊に入れる。なに安心したまえ、もしもの時はすぐに処分出来るよう、爆発する性質を持ったアンタレスの端末を携行させておくから」


「サラッと怖いこと言いやがったなこいつ」


「貴重なんだよ? アンタレスだって無限じゃない、特に爆発の性質なんてSSRだ。ちゃんと懐柔してくれたまえ」


「SSRってなんだ?」


「いや知らん……怖……」


「これが文明すら越えたジェネレーションギャップか……」


 突然泣き出した黄燐から身を離す。普通に怖いことを言ったりしたりしないで欲しい。気色が悪い。

 ただ……飛燕を同じ部隊に入れる、というのは、少なくとも軌光は賛成だ。あれほど強いのだし、危害を加えられそうになったら爆発する仕組みもある。これから敵対組織との戦争も増えると考えると、強い者が多いに越したことはない。

 だが、そうではない者もいるようだ。


「私は嫌よ、こんなやつ。危なっかしいったらないわ!」


「狐依lady……彼女はとても強い。これから敵も強くなっていくんだ、仲間になるならこれほど心強いことも……」


「だってこいつは……あんたを……その……」


 リィカネルを睨みつけ、何か言おうとしたようだが……急激に声が小さくなっていく。視線も泳ぎ始めて、あーだのうーだの言い出した。段々と頬も赤くなり始めている。


「……なあ綺楼、俺なんだかすっげえ甘酸っぱい気がする」


「えへ、へへえ……ずっと浴びて来たんですよこれを……因みにリィカネル氏は一切気付いてなかったりしますぅ……」


「マジかよ。なんか狐依が可哀想になってきたぜ」


 あなたも“こっち側”ですね、という綺楼の呟きが聞こえた気がするが努めて無視する。この波動を浴び続ける……? 冗談じゃない、とてもじゃないが辞退させてもらう。

 さてこれはいつ終わるんだ? と眺めていると、予想外のところから切り崩された。うーん、と唸りながら飛燕が目を覚ましたのだ。咄嗟に二人を黙らせて見守る。


「ぬ、ぬう……う? ほうほう、なるほど。拙者、状況の理解は早いでござるよ。これは敵陣真っ只中でござるな?」


 誰も声はかけない。というより、初手からフレンドリーすぎてかけられない。拘束具をジロジロ見つめる飛燕のことを、同じようにジロジロと観察する他ない。

 ふむふむ、と何か納得した様子の飛燕。数秒こちらに視線を向けた後……凄まじい速度で身を捩った。


「三十六計逃げるに如かゴブァ!」


「あーSSRがァ! 何してくれてんの君ィ!」


 ……前途多難、とはこういうことを言うのだろう。

 軌光は強く、そう実感した。

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