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第十五話 第二幕

『君の神器は本当に埒外でね。どんな能力かと言うと……』


 殴り飛ばされ、距離の離れた飛燕に向かって全力で拳を振り抜く。明らかに当てる気のない、しかしそこには殺意や敵意といったものが、これ以上ないほど詰め込まれている。

 未知。回避と防御、どちらを選択することになっても即座に対応出来るよう、くないを構える……しかし。


『君が“腕”で出来ると思ったこと、全てが出来る』


 再度吹き飛ぶ。くないが完全に砕け散った。

 飛燕を襲ったのは、リィカネルの槌以上に肥大化した剛腕神器。否、恐らくはガワだけが同一。軌光の振るった腕の軌道に沿って、ガワだけの剛腕神器が飛来した。


 (見えなかった……! 射出される土の棘より速い……!)


 鼻血を拭いながら立ち上がる。影の動きで、軌光が距離を詰めているのは分かっている。新しいくないで動きを逸らして、自分はその場から動くことなく攻撃を逸らす。

 まだ脳が揺れている。染み付いた動作で躱しているが、力技で貫通されるのも時間の問題。いや、もしかすると……


「うっぜえなあ大人しく当たってやがれェ!」


 やはり。既に見切られた。

 拳骨の振り下ろしが命中し、面白いほど直角に、頭から地面に突き刺さる。咄嗟に水のクッションを作っていなければ、今頃頭蓋が砕けて死んでいてもおかしくない。

 視界が塞がれたまま脚を動かし、勘だけで軌光の首に絡ませた。予想通り追撃をかけようとしていたようで、するりと絡ませることが出来た。ここからどう動くか……


 (やはり! 戦闘に関してはまだ素人!)


 戦闘、というより……敵との接し方と言うべきか。自分から敵に握手しようとするなど、愚の骨頂だった。

 それがモロに表れている……彼は、首に絡みついた脚を解こうとしたのだ。そんなこと意に介さず、追撃をかければ飛燕は死ぬというのに……咄嗟の判断を間違えた!

 レギンレイヴ直伝の拘束術、頸動脈や気管を圧迫するのは容易! このまま我慢比べと行こう!


「ガガガボガボボボガガボ」


「何言ってんのか……かはっ……わかんねえ、よ!」


 水に覆われた口ではまともに喋ることも出来ない。

 軌光の拳が脚に突き刺さる。見ずともわかる、骨折している……しかし、それは拘束を解く理由にはならない。ここで彼を倒せるのなら、脚の一本や二本くれてやる……!


「軌光boy! 全力で首を前に倒すんだ!」


 その言葉が鼓膜を震わせた直後、無数の土の棘が飛燕の脚を切り裂いた。痛みを堪えながらも拘束を続ける……が、急激に力が抜けていく。拘束は簡単に解けた。


 (重要な神経を、いくつか持っていかれた……!)


 無論、軌光も無傷ではない。だがかすり傷程度だ。

 理解する。ここからの攻防で全てが決まる。

 即座に頭を引き抜き、腕の力を使って跳躍。上空から戦場を見渡し、状況の把握に脳の全リソースを割く!


 (女二人はいない、軌光殿は万全ではなく、寧ろ警戒すべきはリーダー殿! だが軌光殿の攻撃力を考えれば……)


 選択は……同時攻撃。

 機転の利いた行動を選択出来るリィカネルを最大警戒。水筒を破壊し、水の神器を発動する。超圧縮した水の刃を射出し、同時に軌光には数本のくないを投擲した。


 (着地と同時に腕で駆け、後退する! 拙者の手札は割れてしまったが、命を落とすよりは幾分かマシ……!)


 レギンレイヴの諜報員としては、ここで二人とも完全に始末しておくのが望ましい。だが、命以上に重要なものはないというのもまた……レギンレイヴの教え。

 当初の目的であるアスモデウスと+5の戦争跡の調査は終わっている……今回は、この情報の持ち帰りに専念する!

 そして、軌光もまた、一瞬の判断を迫られていた。

 跳躍の軌道から見て、飛燕は明らかに逃走しようとしている。仲間を傷付けられたことからも、試験の合格ということからも、絶対に逃がしてはいけない相手だ。

 けれど、飛来するくないの対処をしなければ死ぬ。そしてそれらを同時に行うことは……出来ない。


 (どうする、どうする! どうすればあいつを……!)


「軌光boy!」


 その感覚を、生涯忘れることはないだろう。

 考えるよりも、声のした方を向くよりも、彼を信頼して、その拳を振りかざすことの方が……圧倒的に早かった。


「そっちは任せた!」


「任せれたぜリィカネル!!!」


「なっ……んだとォ!」


 飛燕にとっては、信じ難い光景だった。

 リィカネルは、全身を水の刃で貫かれながら……神器の能力を発動した。地面から射出されるようにして飛び出た土塊の防壁が、軌光に飛来したくないを防ぎきったのだ。

 そして、急所を貫かれたことで倒れ伏すリィカネルを振り返ることなく……軌光は、あの巨大な腕を出現させた。


 (馬鹿な……! そんな判断が出来る男では……!)


 ド素人に、戦闘の、対敵のド素人に、何故そんな判断が出来る! 倒れた仲間を一切気にかけないなどと!


「舐めてんじゃねえぞ……俺たちの信頼パワーをよォ!」


「そんな間抜けた力で、この、拙者が……!」


 地に落ち、数秒藻掻いた後……飛燕は意識を失った。

 そしてリィカネルもまた、駆け寄る軌光の気配を感じながら、失血と疲労で意識が落ちていくのを感じる。軌光の勝利を確信し、にぃっと口角を吊り上げ、呟いた。


「言ったろ……強いだけじゃ、勝てないって……」


 リィカネル部隊、試験合格。

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