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第十四話リーダーの実力

「拙者、人を見る目はそれなりにあると自負しておるでござるが。リーダーは本当にリィカネル殿でござるか?」


「そうだけど? 不相応に見えるなら、その目は節穴だね」


 己の身長ほどの大きさがある槌を振り回すことが出来る人間は、この世界においても希少種だ。神器による身体能力向上効果がよほど大きくないと不可能な芸当である。

 しかし、リィカネルは神器の能力を併用することでそれを可能とした。即ち、大地の流動を利用する。


「自信家でござるな。その目……確かに、軌光殿よりは状況が見えている。だが、強さは遠く及ばないように見える」


 リィカネルの眉がピクリと動いた。それは事実だ。

 リィカネル部隊内での模擬訓練は、いつも軌光が勝ち残っていた。神器に適合して間もないというのに、訓練を積んできた他メンバーよりも余程神器を使いこなしている。

 純粋に戦闘能力が高く、神器がそれを後押ししている。どんな状況においても、軌光の方が勝率は圧倒的に高い。


「……強ければ勝てるワケじゃない。彼の強さはあくまで正面からのものだ。君は、搦手が得意なんだろう?」


「ほう、よくぞ見抜いた。目だけは本物のようでござるな」


 リィカネルの視線は、飛燕の全身を射抜いている。腰元の水筒、鎖帷子の不自然な膨らみ、靴の形状、くないが反射する光量……格好のシンプルさと装飾の量が見合っていない。

 どう考えても、真っ向から戦闘するタイプではない。猪突猛進しか知らぬ軌光では、少し厳しい相手だろう。


「だけ、じゃない。僕の華麗なる戦闘能力を見るといい」


「……ナルシストは、素の性格のようでござるな」


 飛燕の頭上に影が差す。音もなく突き出した地面が槌の一面を跳ねさせ、彼女の頭上まで弾き飛ばしたのだった。

 選択。前進。後退による追撃は避ける。


 (速い。下手に力を込めない能力頼りの戦法)


 くないを首筋に添える。刃を力任せに扱うのは好きじゃない、そもそも戦闘が得意ではないのだ。戦闘は動作と会話の繰り返し。まずは言葉の応酬を強制する状況を……


「っとォ! はは、なるほど! ノーモーションとは!」


 直下から突き出した、土の棘。仰け反りながら交わし、追撃の数本を叩き落とした。流石に後退を選択する。

 即座に側面から襲い来る槌を、アクロバティックに跳躍して回避。着地地点に出現した渦のトラップは、下方に鉄の胸当てを投げて無理やり足場を作ることで回避した。

 受けてはならない。回避こそが最良の選択なのだ。


「ちょこまかと。逃げるだけで勝利できるつもりかい?」


「典型的すぎて涙が出る煽りゼリフでござるなァ。そちらこそ、少々余裕ぶっこきすぎではないでござるか?」


 飛燕の右腕がブレる。咄嗟に槌を巨大化させて防ぐが、凄まじい衝撃が襲い来る。つい後ずさりしてしまうほどの。

 何が起こった? 槌で見えなかった、右腕に持っていたのはくないのはずだ、それを投擲したところでこれほどの衝撃を生めるものか? 軌光の拳と同程度の威力だった。


「拙者、何も非神器使いとは言ってないでござるよ?」


 ザン、と背部から音。痛みよりも先に、流れる熱い何かによって発生源に気付いた……背部が縦に斬られている。

 否、痛みが訪れない。斬られたと肉体が認識出来ないほど鋭利な断面……有り得るのか? そのようなことが?


「さあ、反逆の時間でござる。ご立派なリーダー様に一つだけ助言しておくと、様子見は意外と大事でござるよ」


 ドゴン! と。例えるなら、そんな音だろうか。

 実際に発生した訳ではない。しかし、槌の向こう側から伝わる衝撃は、それほどに大きなものだった。

 危なかった、これがただの槌だったら完全に破壊されていた。神器の硬度は地平随一、ただの攻撃で破壊出来るようなものではない。それでも、伝わる衝撃は殺しきれない……!


 (これは……口ぶりからして神器による攻撃か? だがまるで見当が付かない。なんの神器なんだ!?)


 思考する。必ずヒントがあるはずだ。

 そう、そうだ。飛燕の筋肉の付き方からして、決して力の強い方ではない。ならば、どうやってあの土塊による拘束を抜け出したのか……神器以外では説明が付かない!


 連続して伝わる衝撃に耐えながら、拘束に使っていた土塊を近くに寄せる。そこに何か、ヒントがあるはず……!


「……濡れている?」


「あ、バレたでござるか?」


 しまった。意識がそちらに逸れすぎていた。


「でも無意味でござるよ。もう間に合わない」


 頭上から降り注ぐ、くないの刃。光を反射して煌めく。

 理解した。飛燕の神器は恐らく【水の神器】。これで土塊を湿らせて、無理やり脱出したのだろう。手錠から手を引き抜いた時、関節を外す技術を有しているのは分かっていた。

 軟体動物のように動いて、拘束を脱した。


 (さらばでござる。ご立派なリーダー殿……!)


 レギンレイヴは殺しを良しとはしない。けれど、それも平時に限っての話。命を狙われ、こちらの手札もある程度バレているこの状況では……その限りではない。

 くないが首の皮膚を切り裂く。うっすらと血が滲み、そのまま肉まで裂ける……かに思われた、その刹那。

「ちょっと待てや薄着腹見せチビ黒女ァァァアア!!!」


「属性多すぎゴッファ!」


 飛燕の横っ腹を、禍々しい見た目の腕が殴り飛ばした。

 ゴロゴロと転がっていく飛燕は、ある程度衝撃を流したところで起き上がった。息を切らした軌光がそこにいる。

 毒はまだ完全には消え去っていないはずだ。それでも無理をしてここにいる……見事。仲間を想うその心意気。


「俺らのリーダーに、手ェ出してんじゃァねえ!」


「その意気やよし、リーダー殿はいいお仲間を持ったでござるな! そのお仲間、計り知れぬ馬鹿でもござるがな!」


 レギンレイヴとの交戦、その第二幕が開演した。

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