第十二話 試験
「という訳で、彼女が最後のチームメイトだ。立場上同じ任務につくことはないだろうが、仲良くしたまえよ」
「君が軌光君だね! よろしく! 私は兎牙っていうの!」
「おうよろしく。比較的まともそうで嬉しいぜ」
あの後気絶した兎牙は、数日が経過した後に、軌光たちが親交を深めている部屋に運ばれてきていた。軌光との挨拶も早々に済まし、雑談に花を咲かせている。格好どうにかならないのか、と思った。
話してみると、意外と良い奴だった。ただ、その格好どうにかならないのか、とはずっと思っていた。
「あ、そうだ兎牙lady。君は例外として、遂に僕たちは四人揃ったワケだけど……そろそろ試験はあるのかな?」
「え、あ、うーん……わかんないや。私はホラ、ちょっと特例だからさ……そこらへんは詳しくなくて……ごめん!」
「HAHAHA、構わないよ。黄燐に聞くから」
「試験……ってなんだ? 学校でもないのにそんなんがあるのか? 試験嫌いなんだよな〜皆ピリピリして」
苦い思い出だ。普段はワイワイしている皆も、いざ試験となれば凄まじい緊張感を出してくる。多重人格か?
しかし、すぐにリィカネルから否定が入った。
エスティオンにおける試験は大きく分けて二種類ある。一つ目は、見習い部隊が正式な部隊として認められるための試験。課題をこなせばクリアの、簡単な試験だ。
二つ目は通称最上位試験と呼ばれる、合格者が極端に少ない超高難易度の試験だ。普段の生活態度や任務の結果、手際の良さや同行者からの評価、払った犠牲等々……その人物に関する全てを換算して結果が叩き出されるシステム。
これをクリアすると、晴れてエスティオンで最高の権力を持つ【最上第九席】になれる……という仕組みだ。
「更に、合格した上で今の最上第九席と決闘して勝利しなくちゃならない……ま、今の僕たちには関係のない話さ」
「ふひひ……今は、正式な部隊として認められなくては……」
「まだ見習いなのよ私たち。本当、忌まわしいわ……」
人数合わせになってくれたことだけは感謝してるわよ、と付け加えて、狐依はまた本の世界に没頭し始めた。
「へぇ……で、兎牙はその最上第九席なんだよな?」
「響でいいよ。うん、私は最上第九席。第八席だけどね」
基本的に最上第九席において、数による序列はない。寧ろ気に食わない数だった場合は、入れ替えをお願いすることだって出来るほどだ。だが、第七〜第九は少し特殊。
彼らは所謂“問題児”。第八席である兎牙は感情の制御や力の加減が苦手で、エスティオンに被害をもたらすことも少なくはない。また第九席である斥腐は、組織の人員や資材の無断使用、規則違反などが特に目立っている。
第七席に関しては、素行に問題はないのだが……過去のある事件のせいで、その位置にあてがわれている。
「それでも兎牙ladyは最上第九席さ。僕たちの憧れ、エスティオンの絶対的エース……いつか絶対に辿り着くよ」
「ふふん、最上第九席はそんなに甘くないよ! でも楽しみにしてるね、君たちは十分可能性を秘めてるから!」
実のところ、リィカネルたちの部隊は誰も兎牙の戦闘を見たことがない。最上第九席としての戦闘力を保有していることは知っているが……それがどの程度なのかを知らない。
彼女の“甘くない”が、どのような意味を持つのかを。
「失礼する。君たちに試験の話を持ってきたよ」
「お、噂をすれば! 僕たちもようやく正式な部隊だね!」
「気が早い。まだ合格出来ると決まった訳じゃない。それに兎牙君の助力もなしだぞ? 君たちだけで成し遂げるんだ」
「簡単簡単。なにせ僕たちには頼れる軌光boyがいる!」
(距離感どうにかなんねえかなこいつ〜……)
まだ顔を合わせてそんなに経っていないのに、こんなにも信用するのはどうなのか。というか距離感。近すぎる。
調子がいいなあ、と黄燐が笑い、資料を取り出した。場所や時間に関することを淡々と読み上げていくが、軌光の頭には微塵も入ってこない。まあついて行けばなんとかなる。
……思えば、エスティオンに入ってからまだ数日。戦闘の基礎訓練や仲間の戦い方も見ているが、試験到来が早すぎる気がしないでもない。まだド素人の領域だろうに。
「……そして、今回の試験内容を発表する」
若干の不安を抱いていると、黄燐がようやく話の本題に入り始めた。お、と呟いて耳を傾ける。
「今回は少し難易度が高めだ。前提の情報として、数日前にあったアスモデウスと+5の戦争跡地において、希少価値の高い情報資材が多数放置されているとの報告を受けている」
「じゃ、僕たちはそれの回収が試験に該当するのかな?」
「いいや、違う。君たちの試験は、これの回収に訪れるであろうレギンレイヴの諜報員と接触、失敗させることだ」
妨害任務、という分類らしい。
エスティオンも攻めてばかりではない。総合組織として地平で一番の規模を誇り、同時に敵も多いこの組織では、敵対組織の妨害も立派な任務として存在している。
アスモデウスと+5は、どちらもエスティオンが最大級に警戒している組織。そしてレギンレイヴは、“情報”を最大の武器とする諜報機関……諜報員の発見も一苦労だろう。
なるほど、確かに高難易度。加えて軌光の得意な単純な戦闘ではない……けれど、仲間の顔を見るとやる気が出る。
なんだかんだ、嫌いな人種ではない。これからも彼らと共に戦うために、この試験はなんとしても合格しよう。自然と笑みが零れるほどに強くそう思い、心を奮わせた。
試験は、数日先に迫っている。




